28 親方登場
てっきり東京にいる親方と電話で話していたつもりだったのだが、先程の会話はここでのことだったようだ。朝早くに申し訳ないと思ったのが、なんか損をした気分だ。
「どうしたんですか連絡もなしに」
「どうしたってお前心配して駆けつけたに決まってるだろう」心配しているようには見えないんですが。
「いえ、そんな風には全く見えませんが。なんでそんなに嬉しそうなんですか」
「そりゃあお前、久しぶりに来てみたらむさいお前の代わりに可愛いお嬢さんが出迎えてくれてよ。なんか家は小奇麗になってるし、倉庫はすっかりギャラリー見たくなってるし、やっと帰ってきたと思ったらこれまた美しい女性同伴と来たら」
「これは…まあその…色々と事情がありまして」
「なんかお前顔つき変わってないか」
そうだった、髪の毛は少しのびていてこういうヘアスタイルもあり、という感じにはなっているが、まだ眉毛はかなり薄いので毎朝ダイアナはに描いてもらっていたのだ。だから必要以上にキリッとしているのかもしれない。
「プッ」
「…ッ」
吹き出してもダイアナは声を出しメイドさんは無言だったようだ。笑われたのは同じだが。私の仕草で会話の内容に見当がついたらしい。
「すいません色々と彼にはお世話になっておりまして」
「おお、すいません挨拶もせずに」
挨拶から事情の説明に話は流れていく、しばらく私の出る幕はなかった。
魔法云々はさすがにごまかしていた。私は彼女の弟に質の悪いいたずらを仕掛けられ、寝ているうちに脱毛させられた事になっていた。わあ、なんてどんくさいやつだ。
外出出来ない私の世話をしているうちに、街の現況を憂いた彼女に同情した私が協力を申し出て相談に乗った結果、アイデアが膨れ上がり資金集めにロンドンに来ることになった。
そして現状は順調。
「これも全て彼のおかげです。私共とっても感謝しておりますの」
「そうですか、こんなやつがそんなにお役に立てるとは」
ここで親方は私に日本語で問いかけてきた。
「それでこれからどうするんだ」
色々含みの多い問いかけだな。
「まあその、遅れていた買い付けもなんとか取り戻せてますし」
「段取りは出来てるのか」
「ええ、集荷も始めてます。月末には出せそうなんでそのあたりを詰めようと思っていたんですが」
「で、お嬢様の付き添いをしていると」
「いやあそれは、あくまでもついでです。なんか買い付けが面白いらしくて」
「朝っぱらから御一緒していると」
「ええ、まあ」
親方はここで大きく溜息をついた。芝居がかった人だ。
「お嬢様方がいなけりゃ怒鳴りつけてるところだぞ、全く」
「はあ、すいません」
「お茶が入りましたわ」お嬢様が割り込んでくる。
「おお、ありがとうございます」
英語に切り替えて話をすすめるようだ。
「で、お二方、これからのご予定は?」
(買い付け時の注意)
買い付け品を日本に送り出すにはここからが貿易実務となります。集荷出来た品々を正式にリストにして役所に出せる書類に整えます。同時に日本の銀行から決済を受けて輸出許可をとり、船貨として乗せる船を決め送り出します。このあたりはロンドンの専門業者とのやり取りで、いわば日常業務ですね。特に積み込みに立ち会うこともありません。




