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欧州骨董買付帳  作者: ふくろう亭
集荷
23/40

23日常

 ともあれここは私のホームポジションだ。ひさびさの日常生活が再開されたのだ。

 基本的に私の朝は早い。週の半分は夜明け前に起床して出かける。骨董市へと行くために。これは洋の東西を問わず、あたりが暗いうちから始まるものと決まっている。そして、だいたいどこの国でも泥棒市などと揶揄される。骨董品を扱うものならこれは常識といって良いだろう。

 当然のようにダイアナはこれにも同行してきた。最初の頃はさすがに眠そうだったが、何回か経験するうちにすっかりと慣れ、とうとう私を起こすことが多くなった。どうしても女性は朝の身支度に手間がかかる。そのことで、より早い時間から準備のために目覚めざるを得ないようで、メイドのマリアを巻き込み毎朝大騒ぎのようだ。部屋が別で本当に良かった。

 ロンドン市内の骨董品マーケットはいくつもあるが、ほとんどが毎週一回同じ曜日に開催されている。それぞれ違う業者が集まっているのだからすごいものだ、外国から来る業者もいるようで、ヨーロッパは国同士が近いなと思う。イギリスなどはドーバーがあるから不便だが、他の国々だと国境沿いの街などでは普通に交流がある。買い物で行き来するのは当たり前で、国を超えて通勤するものもいるくらいだ。

 おかげで私の商売も成立しやすくなる。ロンドンという街にいながらにして、日々入れ替わるガラクタの群れをチェックして行けるわけだ。そう、まさに群れなのだ。だてに朝っぱらから行く訳ではないのだ。ダイアナも最初は「全部商品が出揃ってからゆっくりと見て回れば良いじゃない」とぼやいていたぐらいだ。観光ならそれでも良いのだが、残念ながらこれはお仕事なのだ。数十数百といる露天商の屋台にある、数千数万とあるガラクタから、これぞという物を見つけていかねばならない。今日はなにもありませんでしたではだめなのだ、仕入れて売るという商売である以上。

 というわけで今朝も懐中電灯片手にマーケットの中を、文字通り漁って回っているわけだ。ダイアナも最初の頃はおそるおそる私にくっついていたのだが、すぐに慣れてしまい今では単独行動だ。

 あたりが陽の光で明るくなってきたところで一旦切り上げることにする。彼女も慣れたもので待ち合わせの場所にタイミングよくやってくる。簡単に声を掛け合い近くの食堂に向かう。親方曰く、昔は安食堂だったらしい。今ではこましなカフェといっても良い店で、事実昼間は観光客で繁盛しているようなのだが、やはりこの時間では食堂といったほうがふさわしい。

 ここのベーコンエッグは絶品でイギリス風の薄いトーストと実に良く合う。何度もじぶんで再現しようと家で作るのだが何故か味が違う。手間のかかっている料理は大したことがないのに、こういうシンプルなものが美味しいのはどういうわけなのか。

 コーヒーを飲みながら簡単に今日の戦果を確かめ合う。そう、彼女も結構買い集めているのだ。何に使うつもりなのか知らないが、まあまあ筋の良いものを選んでいるのはさすがだ。結局のところ、日頃から良いものを見慣れているとこういうところでも間違いのない買い物が出来るのだ。買値は少し高めだが。

 あらためてマーケットを一周りして、迷っていたもの、見逃していたものをチェックして駐車場へと向かう。こういうところは朝早くでもポリスが回ってくるのでおちおち路上駐車も出来ない。戦利品を詰め込んだら別のマーケットへ行く。こちらは露天ではなくちゃんとした建物の中にある常設のところだ。一・二坪の小さな店舗がそれでも数十店集まっているのだ。こんなのがいくつも市内にあるのがロンドンというところだ。

 私達のようなルートで来ているようなプロっぽい者達もいれば、そろそろ観光客らしい人々もいる。常設店だからそれぞれに特色を出している。互いにプロと言う読み合いもあって取引も面白くなる。


 (買い付け上の注意)

 これも洋の東西を問わずなのですが、プロ同士の取引では儲けをあまり乗せすぎないというのがマナーのようになっています。あとでクレームをつけないとかも。まあ汚い商売はしないというところでしょうか。もちろん例外的人や物はつきものですが。

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