19 ティータイム
屋敷に帰ってからも、私はしばらく茫然自失の状態だった。客間には戻らず、「時計の間」で椅子に座り時計たちを眺めていた。
ほとんどはうるさいので動かしてはいないとのことなのだが、それでも一部は動いている。例えば美しいマホガニーにインレイドで植物模様がえがかれたホールクロックがそうだ。高さは二メートル程、真鍮細工が施された大きな振り子がゆっくりと動いている。やはり真鍮の重りも三つ下がっているからチャイムが内蔵されているのだろう。
見るともなしに振り子が左右にふれるのに見入っていた。身体は心地よい疲労感に包まれている。椅子は座り心地の良いクッション付だ、このまま眠りにおちそうな気配を感じていた。かすかな機械の作動音がしてチャイムがメロディを打つ。ウェストミンスターではない。なんだったけ、これは。メロディが終わり時を告げる、四つ打って音は止まった。開けっ放しのドアからメイドさんが声をかけてきた。
「お嬢様がお茶にしましょうと言っておられます」
私はあわてて立ち上がった。メイドさんがクスリと笑ったような気がした。
お茶の席にはリチャードも座っていた。毎日顔を合わせているし、ここにいて当然なのだが、なんとはなしにダイアナと二人きりなのが当然のような気がしていたので、挨拶のタイミングが少し遅れた。
「いやあ、おじゃまでしたかね」みょうに細かいところに気の回るやつだ。私は何を言っているのかわからない、というように首を傾げてから午後の挨拶を返した。君のペースには乗りません。
テーブルの上にはティーセットだけではなく茶菓子と小さく切り分けられたサンドイッチが盛り合わせてあった。気合の入った英国風だ。
席につくとメイドさんからお茶のサービスを受ける。紅茶の良い香りが漂う。
とりあえずの話題として、先程のチャイムのメロディを出してみた。「ああ、いまセットしているのは…」とリチャードが話に乗ってくる。どこそこのなんとかという教会にある時計台のもので…。だめだ、全く言葉が耳に残らない、彼の喋っているのは本当に英語なのか、ここの言葉を使っているんじゃないだろうな。
「ウェストミンスターばかりだと、いい加減あきるでしょう」良かった、やっぱり英語だった。そこで話がとぎれ一瞬間が空いた。今度はダイアナが話しかける。
「それでね、貴方におねがいがあるの」唐突だった。
「私をロンドンまで一緒に連れて行ってちょうだい」リチャードが声にならないうめき声のようなものを出した。口にしていたお茶を吹き出しかけたに違いない。我慢できたのは大したものだ。さすがに貴族の末裔。私は手にしていたスコーンをテーブルの上に落としてしまっていた。
(買い付け時の注意)
ホールクロックは現代でも制作されています。駆動は錘、ゼンマイ、電池式といろいろですが外見は昔のままでデザインは変化していません。ということは中身をしっかり確認して作られた時代を特定しなければいけないということです。
これに限らず、機械物は陶器、磁器、ガラスなどと違って判断がし易いとも言えますので大きく間違えるということはありません。ただ古い機械を新しい物に入れるとか、その逆とかもありえます。




