17 観光産業
彼女の道案内はかなり丁寧なものだった。
森があれば名前を教えてくれる、池があれば釣れる魚の種類まで教えてくれた。時折ぽつんとある建物にはそれぞれ由来があるらしい。そして気にして見ると、確かに道路沿いを線路跡が並行して残っているのだ。
「ねえ貴方、まさか私が魔法でここに線路を敷き直せると思ってるんじゃないでしょうね」
「だめなんですか」そりゃそうだろうけれど。
「そんなわけないでしょう、私をなんだと思っているのかしら」
「でも、さっきだって線路を敷こうとしたじゃないですか」
「とんだ誤解だわ。あれはね」百メートル程線路が残してあって、それが草に埋もれて見えなくなっているだけのことだそうだ。草を刈れば線路が出てくるというわけだ。なんだ。
「草刈りぐらいはなんとかするけどね」それはなんとか出来るんだ。
「私の魔力なんて地域限定なんだから」
少しおおきな湖が見えてきて、その横で休憩となった。空き地があるだけで何もない、もちろん自販機などもあるわけがない。そもそもこのあたりで自販機など見たこともないが。
彼女が後部座席のほうから魔法瓶を取り出した。続いてカップとクッキー。
「だからこれも魔法じゃないわ」
「日本じゃこれを魔法のボトルと言うんですよ」そう言うと彼女は眼を丸くして喜んだ。本当に丸くなったように見えた。
天気も良いし、さわやかな風もながれていた。せっかくなので私達は車から降りて草むらに布を敷いた。
魔法瓶の中身は温かいコーヒーだった。香りが良いのでそのままブラックで飲むことにした。彼女はミルクと砂糖を入れている。スプーンでかき混ぜながら言った。さっきの話の続きだ。
「本当にそんなことでお客様って来てくれるのかしら、せっかく来てもらってもすぐに飽きてがっかりするんじゃないの」
「ちゃんとした設備があれば大丈夫でしょう」
「どんなものが必要なの」
「美味しいお茶と清潔なトイレです」
「なによそれ」
「本当です。わたしの経験からの感想でもあります。その二つが欠けているところもいっぱいありますけどね」
良い景色、名所旧跡、人を呼び寄せるものは色々とあるだろう。それらを見るだけでも人は満足はするだろう。現に今私はこの短いドライブに満足感を覚えている。
そして休憩して飲んだり食べたり溜まっていたものを出したりする。大事なことだ。そこで来て満足満足した証になにか欲しくなる。そこいらにころがっている物でもかまわない、山なら石ころや木の実、海辺なら貝殻。証拠のために写真もとるだろう。
そんなところを、うまくアシストして、プロデュースしてやると、それは立派な観光産業になる、と思う。だってなにもない荒れ地にだって、アイデアと資金があれば遊園地やカジノをおっ立てて荒稼ぎしているところなんていくらでもあるでしょう。失敗して廃墟になっているところもあるけれど。
要は人の流れを作れれば良いのだ、蟻の行列みたいな。彼らは長い道のりを、仲間のフェロモンを便りに行って巣まで帰ってくる。
そんなことをとりとめもなく話した。
来た道を振り返ってみる。彼女の街は見えない。この道の向こうに古い石壁に守られた美しい街並があることは、知識のない旅人にはわからない。わからないまま突き進むの相当無謀な探検家でないと無理だろう。だから案内が必要になる。「この先、美しい景色の先に秘密の街があります」
「整備されたルートが必要です、狭い道路は少し不安です」できればバスがすれ違えるぐらいの幅がないと。密林のなかのアンコールワットにだって、大型バスで行ける時代なのだ。
「でもこの道を広げるなんて、1キロや2キロならともかく…」それこそ魔法を使っても難しい。
「ですからあの機関車で客を運べばいいんですよ。見たところ崩れたようなところもないし、資材が残っているのなら線路は復活し易いのでは」
(買い付け時の注意)
詳しくふれていませんが、ダイアナは車にピクニックセットを積み込んでいました。あまり日本では見かけませんがヨーロッパでは結構マーケットで見かけることがあります。籐などのケースにカップ、ソーサー、スプーン、テイーポットなどをコンパクトに収納したものです。プレーンな実用品からこんなの持ち歩いて傷でもついたらどうすんだ的なものまでありますね。収納の仕方にも工夫が有ったりして、見ていて楽しくなるものでもあります。売りやすい物でもないのですが、ディスプレイなどに使うと見栄えがしますので店舗用にもとめていく方が時々いらっしゃいます。




