13 城壁
私達はもう少し街の散策をした後に車に乗り込んだ。
「なんだか少し疲れたわ、よろしかったら運転を代わってもらえるかしら」というわけで、私が運転席に座ることになった。マニュアルミッション車は久しぶりに運転するのでエンジンをかける前にチェンジレバーやクラッチの具合を確かめる。
「オートマでなくてごめんなさいね、大丈夫かしら」
「日本以外で乗るのは初めてかもしれませんね。少し動かせば慣れるでしょう」
日本での修行時代にはトラックを運転することもよくあった。軽トラから四トン車までは経験がある。外国製の車にも色々と乗る機会はあった。モーリスはさすがに初めてだった。
とは言え狭いが空いている道だ、ゆっくりと走らせても急かしてくる後続車もない。街の門をくぐる頃には感覚をつかむことが出来ていた。
屋敷の方へ戻ろうとすると「まっすぐ塀に沿って走りましょう」と言う。
塀と言うより壁というべき高さがある。そう言うと、もともとは城壁の一部だったとのこと。城らしいものがなかったのでわからなかったが、この街はかつては城塞都市だったのだ。中世から近代へと移り行くうちに城としての必要性がなくなり商業都市へと変遷、そして近隣に大きな街が発展していくうちに産業は衰退、現在は観光で細々とやっている田舎町なのだが、延々と続く城壁は戦乱などで壊されていないので遺跡のような美しささえ感じることが出来た。だがこの城壁が街の拡大発展を阻害して来たとも言える。かつては首都からの鉄道があったそうなのだが、しだいに利用者が減り三十年程前に廃線となったらしい。その線路跡は道路となっているそうだ。そういえば私が車で走ったルートがそれらしい。
しばらく行くと古い駅舎跡が見えた。
石とレンガで作られた立派な建物だ。百年前の建築らしい。この手の建物は使用されなくなってもなかなか朽ち果てることがない。思わず車を止めて見入ってしまった。
「気に入ったのならお売りしましょうか」
からかうようにダイアナが言う。だが私としては一応商売としての計算をしてしまう。
「お幾らなんですか」
「あら、本気なの」
「バブルで金が余っていた時にはお城を買い取って日本に運び込んだ人もいました。まあ今では笑い話ですが」
「なんだ残念ね、もうちょっと早く貴方が来てくれたら良かったのに」
「その頃だって私には無理ですよ」少し考えてから。「でも紹介は出来たかもしれませんね、その頃なら」
実際とんでもない時代があったのだ。不動産でも絵画でも、高いものほど取引の対象になったらしい。私の業界における師匠である「親方」の話しによればだ。あらゆるオークションに日本人のバイヤーが出没していたらしい。まあいまは昔のの物語だ。
「私はお城よりこんな建物のほうが好きです」これを店舗に改造してアンティークを売る店にすれば…などと夢想してしまう。
「そんなものかしら」
「そんなものですよ。ところでこれもお宅の持ち物なんですか」
「そうね、このあたりのものはだいたいそうだわ」
外国いるとたまにこういうスケールの話に出会うことがある、と聞いたことがある。私は初めてだが。




