11 生えてきた
「あなた少しだけど復活しているわ」
なにが、と聞き返すまでもない。私はすぐに頭に手をやった。そう言われれば、なんとなくだが手のひらにひっかるような感触がある。
「ふふ、わかるかしら、毛根が生き返っているのよ。効果があったようね」
ダイアナは自慢げに微笑みながら私を見つめる。主に見つめられているのは頭なのだが。
彼女は毎日、何度もわたしの身体に術を施していた。術といってもリチャードの行ったようなものではなく、何かわからない液体や粉末状のものをふりかけてからマッサージのようなことをするのだが。それが効いたのか。まあ彼女はそれが効いたと言いたいようだ。
「よくわからないけど、そうなのかな」頬も触ってみるが、こちらはまったく手応えがない。眉毛もまつげもスベスベのままのようだ。
「毛根のサイズの問題ね、太い方から回復しているのよ」
「すごいな、髪の毛だけだとしても。世界中の髪の毛が不自由な人々が大喜びするんじゃないか」
そうなれば大儲けだな。
「かつらってね大昔からあるのよ。髪の毛がなくなるってみんな嫌だったのね」
「そうなんでしょう。たまにマーケットでも見ることがあります」
「まあ!あんなものが売り物になるの?」
「どうでしょう、少なくとも私は仕入れませんでした」特に事情がない限り。美しくないものは仕入れたくないものだ。
毛生え術というのは随分と古くからあるものらしい。数百年続くというこの家の歴史の中でも、初期にすでに存在しているとのことだ。
「そういう需要に応えることで存立してきたの」ということらしい。
国の始まりの頃は「便利屋」的存在だったご先祖様が、実績を重ねるうちに王様から重宝され、ついには叙勲され貴族となったと家史にはあるそうだ。すごいな。
「だったらこれくらいは簡単なことじゃないの」
「そうでもないのよ」そもそも数ヶ月単位で効果をみるもので、効かないことも多い。まして今回は原因が特殊!なのでどうなるかは全くわからなかった。だから色々と試していたうちのどれかがが当たったようだ。
「あとはなんとかなりそうね、日数の問題だけだわ」
みるみるうちに生えてくるようなものではないそうだ。そりゃそうだろう。
「外に出るにはまだまだ掛かりそうだな」ついそうつぶやいてしまう。
「あらそんなにここにいるのは嫌なの、わたしのお世話では退屈なのかしら」」頭ではなく目を見つめて拗ねるように微笑まれた。
「いやそんなことは…」もう何日も滞在しているのに、この街を散策さえしていない。観光ガイドに乗るくらいには名の知られたところなのに。中世から残る古い街並みや風景にも興味があるし。などと思わず動揺して言い訳を重ねてしまった。
「ふふ冗談よ。あなた言い訳が下手ね」からかわれただけのようだ。
「外出なんか簡単よ。ちょっと準備が必要だけれど」
午後から街の観光に行く事になった。