表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欧州骨董買付帳  作者: ふくろう亭
買付
10/40

10 だらだらとした数日

 ダイアナとは色々と話し合った。リチャードがなぜこんなことが出来たのか、とか。一言で言うと「昔からそういう家系なの」だそうだ。探究心旺盛な彼は、家に伝わる秘術をさらに深めてみたかった。自らの趣味もあって日本物を特に集めようと思ったらしい。

 「でも、なぜ髪や体毛だったのかしらね。命とまでは言わないけれど、それこそ腕や脚が対価として取られていてもおかしくなかったのに」

 いままでの「実験」ではネズミや蛇などが犠牲になっていたのだが、まるごと消えてしまうことさえあったらしい。

 「私はネズミや蛇よりは値打ちがあったようですね」

 「それにしても髪の毛よ、黒髪は相性が良かったのかしらね」

 私にもわかって来たことがある。対価とは物の値打ちとは少し違うのだ。何か違う基準でだがバランスがあるようだ。それがなになのかが分かればもっと効率の良い術になるのだろう。リチャード君頑張って下さい、私を巻き込まずにね。

 それにダイアナたちは一つ勘違いをしていた。出現した浮世絵だが、あれらを随分と高価なものと誤解をしていた。そりゃあ現代の基準でなら結構なものだが、ものは当時の物だ。例外はあったかもしれないが、今で言うブロマイド写真やお土産のポスターみたいなものなのだ江戸時代としては。何しろヨーロッパに浮世絵が紹介されたきっかけは、輸出した陶器などの破損防止のクッション代わりに詰め込まれていたものを、好事家が気がついて評価したことからなのだ。ようは二束三文の紙屑同然ものだったのだ、当時としては。

 だから私から対価として奪うなら、確かに妥当な線かもしれない、全身の体毛というのは。納得はなかなかできないが。

 まあ紙というのはヨーロッパでは結構貴重品だったはずだ。たしか江戸末にヨーロッパを訪れた幕府の外交使節の人々が、懐紙で鼻をかんでそのまま打ち捨てたものを、見ていた人々が競って拾い集めたという話があった。価値観は文化によって違うものだ。私の髪を貴重品とする価値観があっても悪くはない、はずだ。


 外出こそ出来なかったが、屋敷の中では自由にして良いとのことだった。もっともこの状態で人前に出る気にはなれなかった。それにこの屋敷内を見て回るのは楽しくもあったのだ。とにかく私にとって興味のあるものがやたらとあって…、ようは骨董品だらけだったのだ。

 例えば時計だ。小は懐中時計から大は床置のホールクロックタイプまで、多分百個以上あるのではないか。そして恐ろしいことに全て完動品だった。ほとんどは日常的には動かしてはいなかったが(音がうるさいので)手入れが行き届いていて壊れているものなどなかったのだ。

 いやそもそも家具類からして、椅子テーブルからサイドボードや部屋の壁一面を覆う飾り棚まで、全てが博物館クラスといって良い出来の物だらけなのだ。それらは全て実際に使われていて、中に入れられているものまでもほとんどが、私からすれば値打ち物ばかりなのだ。

 数百年安定して続いている家というのは、本当にとんでもないものだとつくづく思った。商売柄、あまり意識もせずに値踏みをしながら物を見てしまうのだが、合計数字の巨大さにおそろしくなった。イギリスでもたまに没落貴族がすることがあるのだが、この家屋敷丸ごとオークションに出しでもしたらすごいことになるだろうな。

 表通りの土産物屋レベルの店の背後に、こんな宝の山が隠れていたとは。


 数日たった天気の良い日に「気分を変えましょう」とランチを庭で、ピクニックのように行っていた時ついそんなことを話題にしてしまった。

 「まあ、おとなしくお家の中で養生していると思っていたのに」

 ダイアナが少しとがめるような口調で言った。

 「あ、すいません、つい本業に目覚めてしまって。でも案内してくれたのは貴女じゃないですか」

 「冗談よ、だってあなた何でも嬉しそうに見ていくんだもの。お部屋一つお見せすればそれこそ天井から壁から床までゆっくりと見回したかと思うと、まあ丁寧に解説するんですもの。どちらが家の主人かわからないぐらい。あなた本当に古い物が好きなのね」

 「いや、本当にすいません。図々しくも好き勝手にして」思わず恐縮してしまう。

 「なにをおっしゃっているの。しばらくここに滞在してとお願いしたのは私からでしょ。好きにふるまってね、ともお願いしたはずよ」

 それはそうなのだが、多分に社交辞令もあったはずなのだ。事情が事情なのだから。

 「それでね、ちょっと良い話があるのよ」

 ダイアナは笑顔で話題をかえた。


(買付時の注意)

 時計は私個人的のも大変好きなジャンルです。機構的に凝っていたりしたら最高ですね。

 よく、スイスは平和と引き換えに鳩時計しか生み出さなかったという悪口がありますが、私からすれば最高の誉め言葉だと思います。スイスの時計産業について語りだすと本当に話が尽きません。今でも手作りで一品ものの腕時計を組み上げる職人がごろごろいるんです、あの国には。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ