SS.雨の停留所
どうやら長居しすぎてしまったらしい。借りた本で重くなったトートバッグを肩に掛け、私は帰り道を急ぐ。
図書館に入る前はちょっと曇っているぐらいだった空が、今では泣き出しそうに真っ黒になり、稲光と雷鳴まで伴っていた。
近所だからと傘を持たずに来たのが甘かったか、とうとう大粒の雨がぽつ、ぽつとアスファルトに黒い染みを描き始める。
これは間違いなく夕立になる。
借りた本を濡らすわけにはいかないので、私は慌てて雨宿りが出来る場所を探して……――ちょうどいい場所を見つけた。
もう廃止されて久しいバスの停留所。手入れもされず小汚くなってはいるけど、屋根は破れてないから雨宿りぐらいできるはず。
私が停留所に駆け込むのと、雨が土砂降りになるのはほぼ同時だった。
夕立なら少し待てば小降りになるはずなので、私は停留所の中の待合ベンチに腰を下ろした。
薄暗い停留所の中にはベンチ以外、壁の伝言用の黒板ぐらいしかない。
私はトートバッグから借りてきた本を取り出して読み始め、すぐに物語の世界にどっぷりと浸かる。
――カッカッ、カリカリカリ
「?」
雨音とは明らかに違う音に私は現実に引き戻された。
なんだろう? すぐ近くで何かを引っ掻くような音がしたけど。
周りを見回すと、先ほどまで何も書かれていなかった伝言板に「それ、おもしろい?」という白いチョークの文字。
「ひっ!?」
私は思い出した。この停留所には幽霊が出るという噂を。
「いやぁぁぁ!! 出たぁぁぁ!!」
私は一目散に逃げ出した。まだ土砂降りの雨の中、借りた本をトートバッグごと置き去りにして。
翌日、友達と一緒に本を取り戻しに停留所に行くと、伝言板には昨日と違う一文が書かれていた。
「おもしろかったよ」と。
Fin.