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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】

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第九十七話 お義母様と――竜

 はてさて、頼りの竜の伝手がなくなってしまった。

 あったとしても、お義母様の了承を得ないといけないけどね。

 息子アルフレート氏は語る。


「母上は竜よりも陥落が難しいだろう」


 私も思わず、深々と頷いてしまった。

 竜より強い王国いちの女傑、それがお義母さ――


「私がどうかしたのか?」

「ひゃう!!」


 突然部屋に入って来たので、長椅子の上で跳び上がるほど驚いてしまった。

 お義母様は目を細め、訝しげな視線を向けてくる。

 私は動揺を誤魔化そうと、片目をパチンとつむって返した。


「わけがわからぬ」

「ごもっともで」


 今日もお義母様は右手にメルヴを抱え、左手にグラセを抱えている。

 炎狼フロガ・ヴォルクもあとからついて来ていたようで、「近う寄れ」と言われていた。炎と氷で相性が悪いけれど、私の魔力値が上がったので、契約下にある炎狼フロガ・ヴォルクも能力が上がったようだ。お義母様の近くに寄っても、平気な模様。


「えっと、それでお義母様、何かあったのですか?」

「実家に、精霊化した先祖の話を聞いていたのだが」

「おお!」


 なんでも、私達が話をしたその日に、ご実家であるストラルドブラグ家に連絡をしてくれたらしい。


「我が一族の大精霊なる始祖と、血の濃い息子夫婦は現在行方不明らしい」


 記録によれば、ある程度、子孫を見守ったあと、姿を消してしまったとか。

 やっぱり、人と異なる力を持ち、異なる時を生きる存在は、普通の人と同じように暮らせないのだろう。


 人から精霊になる感覚とか、話を聞きたいと思っていたけれど、難しいみたいだった。

 がっかりしていた私に、お義母様は侍女が銀盆に載せて持って来ていた物を机の上に置くように命じる。


「これは?」

「調査書と共に、荷物も送られてきておってな」


 テーブルの上に置かれたのは、古びた一冊の本。


「母上、これは?」

「始祖の義娘の日記帳だ」


 始祖の義娘ということは、精霊化した人だろう。

 こんな貴重な書物を送ってくるなんて、凄いとしか言えない。


「まともな神経があれば、このような貴重な書物を人の手に渡して送ることはしないだろう」


 これがストラルドブラグ家の者の特徴だと、言ってのけるお義母様。


「精霊化前と、精霊化あとの日記らしい。読むといい。まあ、大したことは書いていないがな」


 お義母様が見守る中、アルフレートは手袋を嵌めて日記帳を手に取る。

 異国語で書かれた日記に、視線を落とした。


 ◇◇◇


 徒然日記帳――ハルヴァート・ストラルドブラグ


 ○月△日

 今日の夕食はヒレ肉のワイン煮込み。とっても美味しかったよ♡


 ○月◇日

 今日は夫を怒らせちゃった。怖かった~!

 なんかね、寝相が悪くて寝台から三回くらい落っこちてたみたい。落ちるたびに、拾い上げてくれたんだって。びっくり。


 ×月○日

 新たなナイフコレクションがお義母様に見つかってしまう。物騒だと言われ、没収されてしまった。いけず~~。


 ×月□日

 義息が天使過ぎて生きるのが辛い。でも反抗期だから、ぎゅっぎゅしたら怒られちゃうの。


 ◇◇◇


「え~っと、これは」

「……」


 なんというか、普通の日記と変わらないように見える。

 短い文章だったので、あっという間に読み切ってしまったけれど、どこからが精霊化前で、どこからが精霊化のあとなのかまったくわからなかった。

 終始して、話題は食事のこと、夫に怒られたこと、義母との戯れ、義息の可愛がりしか書かれていない。


「まあ、それを読んでわかることは、精霊化しても人の時代と何も変わりはしないということだろう」

「で、ですよね~~」


 お義母様はもう一度、私達に問いかけてくる。


「永遠の時を生きるのはとても辛いことだろう。人の地位や、周囲の者達とのわかれも同様に。それでも、お主らは精霊になることを望むのか?」


 私達は同時に、目と目を合わせる。

 手のひらをぎゅっと握り、同時に頷いた。


「そうか……」


 お義母様は目を伏せ、切ない表情を浮かべていた。


「先日、アーキクァクトとも話をした」


 私とアルフレートに訪れるかもしれない運命を、教えてもらったと言う。


「精霊化は、大反対だった。許せるわけがないと思った。私のように、化け物扱いをされるかもしれないと考えたら、胸が張り裂けそうで……。けれど、嫁子が消えるのは、もっと嫌だ。それで、息子が一人になるのも、見るに耐えられないだろう。だから――」


 精霊化して、運命を跳ね返して欲しいと、お義母様は願った。それから顔を手で覆い、微かに震えている。

 私は立ち上がり、お義母さんの元へかけ寄る。


「お義母様~~!!」


 震えるか細い体を抱きしめる。間にグラセがいて冷たいけれど。

 メルヴも続いてヒシっと、お義母様に抱きついていた。


「お義母さん、ずっと、一緒だから!」

『メルヴも!』

『グラセも一緒デス!』 


 みんなで願う。魔王を倒して、楽しく暮らそうと。

 大丈夫だから、泣かないでほしい。

 私はそっと耳元で囁いた。


 ◇◇◇


 落ち着いたところで、本題に入る。


「アルフレートはお義母さんの眷属になればいいでしょう」

「いや、私も竜の血を飲もうと思っている」

「なんで?」

「母親の眷属というのも微妙だろう」


 アルフレートの発言に、引っかかる人がもう一名。


「息子よ、どういう意味だ」

「そのままの意味です」


 眷属を作れば、魔力の消費も激しくなる。

 お義母様が大変なので、という意味だと説明していた。なるほど。


「それに、竜の血を飲んだエルフリーデだけに万が一のことがあったら……」


 竜の血は人にとって毒と言われている。

 もしも私だけ死んでしまったら、悔やみきれないらしい。


「でも、逆の場合だってあるよ? アルフレートが竜の魔力に耐えきれなくなって」


 その先は言いたくなかった。

 竜の血については未知過ぎる。本当に大丈夫なのかと、不安になってしまった。


「まあ、その前に竜の居場所を突き留めなければならぬが」

「そのとおりデス」


 ヤンに相談して、竜探しをしなければならない。

 お義母様は、竜と出会うことなど、雲を掴むような話だと言っていた。


「そういえば――」

「ん?」


 アルフレートは突然立ち上がり、部屋からでて行った。

 数分後、戻って来る。

 腕には、先ほど部屋をでて行ったメルヴを抱えていた。


「あれ、アルフレート、メルヴがどうしたの?」


 メルヴはらくがき帳のような物を抱えていた。あれは最近アルフレートに買ってもらった物で、手のひらの葉っぱを鋭くさせてペン先のようにして、先端にインクをつけて絵を描いているところを何度か目撃したことがある。


 描いた絵も、なんどか見せてもらった。

 こう、なんと表現すればいいのか。ミミズが這ったような絵?

 味があるという評価しかだせない、メルヴの絵である。


 アルフレートはメルヴからラクガキ帳を借りて、テーブルの上でパラパラと捲り始めた。


 ミミズの這ったようなメルヴのイラストであったが、ページを捲るごとに上手くなっているのがわかる。

 絵はメキメキと上達し、最後らへんはその辺の宮廷絵師と変わらない腕になっていた。


「うわ、上手だね、メルヴ」


 えっへんと、誇らしげに胸を張るメルヴ。

 アルフレートが最後に捲ったページにあったのは、二頭の竜の姿だったのだ。


「メルヴ、前に、この竜は友達と言っていたな?」

『ウン、ソウダヨ』


 アルフレートはその時はなんとも思っていなかったらしいが、今になって本当に竜の知り合いがいるのかもしれないと気づいたのだとか。


「これは、実在する竜か?」

『ウン。メレンゲチャント、プラタクン』


 お義母様はメルヴを抱き上げ、詳しく聞かせるように言う。


『メレンゲチャント、プラタクンは、夫婦で――』


 これは、ヤンが話していた仲睦まじい夫婦竜のことだろうか。

 竜は前のご主人様繋がりで、知り合いだったらしい。


 呼べば来てくれるかは、メルヴにもわからないと言う。

 けれど、大きな前進だろう。

 竜はどこかにいる・・のだ。

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