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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】

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第九十六話 開かずの扉――ついに!

 本日の活動は開かずの扉を解放することになった。

 魔導研究局のメンバーに加え、大砲姫ことクレシル殿下も呼んでみた。


「素敵な会にご招待して下さって、ありがとう」


 大勢の使用人を引き連れ、クレシル姫はそんなことを言ってくれる。私は「殿下、もったいないお言葉です」と返した。


「あら?」


 クレシル姫はヤンに気づき、近づく。


「あなた、どこかで会ったことあったかしら」

『俺ですか?』


 アルフレートがヤンを紹介する。何度か王都にやって来て、夜会に参加をしていたので、その時に会ったのではと聞いてみた。


「いいえ、夜会会場で会ったことはないはず」


 ここで発覚する事実。

 クレシル姫はヤンが参加した夜会にでていなかった。

 他人の空似ならぬ、竜人ドラークの空似などあるのだろうか。


『なんか、言われてみれば、俺もどこかで会ったような……』

「そうでしょう?」


 深まる謎。

 解決の糸口はないので、開かずの扉に向かうことにした。

 メーガスにも相談をしてみる。


「なんか、扉にまじないがかかっていて、ぜんぜん開かなくて……。ホラーツもお手上げみたいで」

「ふうむ。老師殿がわからないのならば、俺がわかるはずもないが」

「そっか」


 以前、クレシル姫が大砲をぶつけて開けようとしていた話をすれば、古代の遺産に冒涜的な行為を、と怖い顔で呟いていた。古代の産物を神格化しているメーガスにとって、余計な情報だったようだ。


 扉の前に辿り着く。


『あ、これ!』


 扉を見たヤンが大きな声をあげるので、驚いてしまった。


「ヤン、どうしたの?」

『この扉、竜人ドラークの里にある、古い形の扉だったから』

「ええ!?」

『今はほとんど残っていないけれど。祖父ちゃんにあったから、何度か、似た扉をで入りしたことがあるよ』


 それを聞いたクレシル姫は、ヤンの腕をガシっと掴んだが、バチン! と大きな音がする。


『痛っ!!』

「えっ!?」


 もしかして、互いに魔力が反発しあっているとか?

 クレシル姫は痛みを感じなかったみたいだけど、ヤンは腕を強く押さえている。

 咄嗟に、護衛騎士が間に入ってきた。剣を抜いて、ヤンに切っ先を向ける。けれど、クレシル姫は「止めて!」と叫んでいた。


「今のは、わたくしが悪いから、剣を納めてちょうだい。この人は無害よ」


 クレシル姫の一言で、場が収まった。


「ヤン、大丈夫?」

『平気。びっくりしただけだから』

「よかった」


 動揺しているヤンには悪いと思ったけれど、扉をみてもらう。


「確か、扉の彫刻の馬の目に不自然なくぼみがあって」

『ああ、それ、竜人ドラークの爪が引っかかりやすいようになっているんだ』

「えっ、そうなの!?」


 てっきり、宝石か何か入れる物だとばかり。

 なるほど。ヤンの手先を見ればわかる。竜人ドラークの爪先は丸くなっていた。ちょうど、彫刻の馬の目の部分にはめ込むのにちょうどいい大きさだった。


『これ、開けてもいいの?』

「ぜひ!!」


 クレシル姫が元気いっぱいに返事をした。

 ヤンは馬の目に爪を引っかけ、扉を横に引いた。

 横に引くんだ――と、その場にいた者全員が思ったに違いない。


 周囲の期待に応えるように、ゴゴゴと重たい音を鳴らしながら、扉が開いていく。


「わあ、凄い! あなた、本当に凄いわ!」


 クレシル姫は適度に距離を取った位置から、称賛の言葉を贈る。

 私も思わず手を叩いてしまった。


 そして、とうとう扉が開いた。


「ああ、ありがとう……竜人ドラークのヤン! わたくしの、念願が叶いました……」


 クレシル姫は涙を流して喜んでいた。ずっと、扉を開くことを夢見ていたので、喜びもひとしおなのだろう。


「しかし、中に何があるのかが、問題だな」


 冷静なアルフレートの一言。同意するメーガス。

 夢がない二人である。


 扉の向こうには階段があった。

 誰が先に降りるかで揉める。


「わたくしが行きます! 王族の敷地内なので!」


 もちろん、取り巻きの老齢の侍女さんに反対される。護衛の騎士にも。


「では、二番目に!」

「二番目もダメですよ」


 とまあ、そんなわけで、話し合いの結果、暗闇でも目が見えるヤンを先頭に、アルフレート、私、メーガス、ホラーツ、クレシル姫、護衛一行という順番になった。


 階段を降りると、長い廊下があった。


 この先に何があるのか。薄暗く、不気味な雰囲気なので、思わずアルフレートの服を掴んでしまう。


「エルフリーデ」

「何かな?」

「握っているそこは、私の――」

「あ、ごめん、お尻の布なんだよね。今回はちょっと狙ったというか」

「何をしているのだ!」


 アルフレート渾身のツッコミが、廊下の中に響きわたる。


「だって、なんか怖くて、お尻の布握っていたら、落ち着くかなって」

「変な場所を触って不安を解消しようとするな!」


 怒りつつも、私の手を握ってくれる優しいアルフレート。

 そして、周囲のみんなは私達のやりとりは聞かなかった振りをしてくれる。優しい人達だ。


 薄暗い道を魔法の光で照らしつつ、進んでいった。

 何枚もの扉があり、そのたびにヤンが開いてくれた。


 そして、開けた場所に辿り着く。


『これは――』


 足元とその周囲を照らすだけの魔法では、部屋の全貌は見えない。

 夜目が効くヤンだけが、部屋の様子を把握していた。


「何がありますの? ねえ――」


 ホラーツとメーガスが部屋全体を照らす光球を作りだした。

 明るくなった部屋にあった物は――


「え?」

「なんだ、あれは……」

「ちょっと、何がありますの!?」


 クレシル姫は護衛や使用人をかきわけ、前にでてくる。


「なっ――!!」


 絶句するクレシル姫。


 そこは、お墓だった。

 白く、美しい墓石に、『エレンディア姫、ここに眠る』という文字が彫られてある。

 お墓を抱くように、竜が眠っていた。


「えっ、これって……」

『竜は、息をしていない』


 つまり、亡くなっているということになる。

 なんだか、お墓を発く形になってしまった。可能性はわかっていたけれど、なんていうか、悲しい光景に映ってしまった。

 違う時間を生きる者の末路というか、なんというか。


  クレシル姫は、呆然とした後ろ姿を見せている。


「あの、クレシル姫……」


 顔を覗き込んだら、ボロボロと涙を流していた。

 慌ててポケットを探り、ハンカチを探したけどなくて、アルフレートのお尻のポケットに入っていた物を借りて渡す。


「あり、がとう」

「う、うん。大丈夫?」

「ええ、大丈夫。でも、どうしてか、悲しくって……」


 クレシル姫はずっと開かずの扉を気にかけていた。

 けれど、内部にあったのは悲しい愛の形で、悲しくなったのかもしれない。


 ここは、詳しく調べずに、そのままにしておこうという形になった。

 皆で祈りを捧げ、地上に上がる。


 最後に、目を真っ赤にしたクレシル姫がお礼を言ってくれる。


「みなさん、ありがとう。おかげさまで、いろいろと吹っ切れることができそう」


 付き合いの長い騎士や使用人なのだろうか。慈しむように、クレシル姫を支えている。


「わたくし、これから――」

「いいのですよ、姫様。しばらく、ゆっくりされても」


 老齢の侍女が優しく背を撫でている。

 けれど、クレシル姫の思いは揺らがなかったようだ。


「いいえ、決めたの」


 凛とした表情で、宣言する。


「これから起こる戦争に備えて、騎士隊の衛生兵として、参加しようと思うの!」


 その言葉を聞いた瞬間、護衛と使用人達が一斉にズコーとずっこけた。


「あら、みんな、どうしたの?」

「姫様、今の流れだったら、結婚を決意する場面でしょう!?」

「あら、そんなこと思っていたのね。不正解よ」


 クレシル姫は騎士達のために、戦場に赴くらしい。

 他の王族にできないことをやりたいと言っていた。


 さすが、大砲姫と言うか、なんというか。


 護衛や使用人の皆さんは「勘弁してください!」と叫んでいる。

 でも、元気がなさそうな様子を見たあとだったので、ホッとしてしまった。


 やっぱり、クレシル姫は元気な姿が似合っている。

 だから、無理のない範囲でそのままのあなたでいてくださいと思った。


 ◇◇◇


 事件が解明したあと、離宮に戻った。

 ヤンは翼竜の滞在場所の近くにある屋敷で生活するようになっていた。

 居間でアルフレートと寛いでいると、上から声がかかった。


『こんばんは』

「あ、どうも」


 アーキクァクト様。今日も、唐突にでてくる。

 どうしたのかと聞けば、とんでもない事実を聞かせてくれる。


『あの大砲姫、地下に眠っていた王族の生まれ変わりっぽいのよ』

「そっか。だから、あんなに気にしていたんだ」


 涙の意味も、そういうことだったのかと、納得する。


『やっぱり、伴侶に先立たれるのは辛いのよねえ』

「うん……」


 これは私達にも訪れるかもしれない問題でもある。

 なんだか、切なくなってしまった。


▼notice▼


エレンディア姫と竜のお話

相思相愛であったが、種族の違いが二人の道を分かつ。

けれど、遠い未来で再会した。

まだ、互いに気付いていないが。

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