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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】

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第九十五話 お義母様――お願い申し上げます!

 精霊化について、お義母様に大反対をされてしまう。

 思いがけないことだったので、ただただびっくり。


「たかが魔王退治のために、息子や嫁子がそこまでする必要はない」


 お義母様は言う。魔王の侵略は長い歴史の中でいくども起こり、そのたびに人類側が勝利をしていると。放っておいても、世界の危機が迫ればどこからか勇者が勝手にやって来て、魔王を滅ぼすだろうとのこと。


「えっと、その件なんですが、どうやら私が今回の選ばれし勇者のようで」

「なんだと!?」


 お義母様は立ち上がり、わなわなと拳を震わせている。

 俯いていたかと思えばカッと強い視線をこちらに向けながら、ずんずん近づいてきた。

 あまりの迫力に、悲鳴を上げそうになるけれど、アルフレートの上着を握ってぐっと我慢。

 凄まじく怖い顔で私を見下ろす。

 ごくりと、生唾を呑み込んだ。いったい、何をするのかと思いきや、突然私の体をぎゅっと抱きしめる。


「国にも、魔王にも、誰にも渡さぬ!! 私の嫁子だ!!」

「母上のエルフリーデではないですよ」


 この状況で、冷静なツッコミができるアルフレートは凄い。

 私は硬直してしまった。


「勇者については、神鳥アーキクァクトが言ったことなので間違いないかと」

「違う、嫁子は勇者なんかじゃない!!」


 そういえば、触れた時のビリビリがなくなっていた。これも、魔力強化の成果なのか。

 これからは遠慮なく抱きしめて欲しい。

 そんなことよりも、お義母様が大変だ。今までにないくらい、感情に揺さぶられているようだ。


「せっかく息子は幸せになれたのに、また自ら不幸に身を突っ込むことになるなど、あってはならぬ」


 お義母様は荷物をまとめて国をでようと言う。


「心配いらない。勇者が役目を果たさずとも、世界の危機が訪れたら、次の勇者が召喚される。そういう風になっておるのだ」

「母上」

「お義母様……」


 気持ちは痛いほどわかる。

 可能ならば、みんなで一緒に静かに暮らしたい。けれど――


「私には、守りたい人達がいるんです」


 ぐっと、私を抱きしめていたお義母様の肩を押し、目と目を合わせながら話す。

 健気な鼠妖精ラ・フェアリ達、優しいリチャード殿下に、サリアさん。それから、リリン。チュチュやドリス、私達を支えてくれるみんなが、笑顔でいられる未来を私は望んでいる。

 幸い、私達には、魔王に対抗できるかもしれない力があるのだ。


「だから、私は戦いたい」


 私の決意を聞き、瞠目していた。それから、くしゃりと顔が歪む。

 お義母様はぽろぽろと涙を流していた。強い人だと思っていたけれど、そうじゃなかった。

 その身は人ではなく、精霊だと聞いていたので、どう接していいか最初はわからなかったけど、今ならわかる。お義母様は、家族を大切にする、ごくごく普通の女性なのだ。


「お義母様」


 静かに肩を震わせている義母を、そっと抱き締める。


 勇者だと告げただけでもこの様子なので、歴史改変で消えてしまう件に関しては言えるはずもない。

 一応、アルフレートと話し合って、報告するつもりだったんだけど。


「嫁子よ、精霊なんて、いいものではない。感情が薄いと言われ、畏怖の対象にもなる」

「お義母様の感情は薄くないですよ。それに、怖いとも思いません」


 だって、お義母様の一挙一同には、愛が溢れているのだ。

 精霊になったら人とは違う存在になってしまうと聞いていたけれど、別に、何も変わることはないと気付いた。

 だって、メルヴや、炎狼フロガ・ヴォルク、グラセだってそうだ。みんな、感情豊かで心優しい。


「それに、精霊になったら、ずっとお義母様とも一緒に暮らせます」

「!」


 お義母様、しばらくすればここをでて行くと言っていた。人と生きる時間が違うから、空しいとも。


「家族みんなが精霊だったら、怖いものなしだと思いません?」

「嫁子……だが……」

「お願いします。どうか、認めてください」

「母上、私からも、頼みます」


 お義母様から離れ、アルフレートと二人で頭を下げる。


「頭を上げよ」


 言われた通りにすれば、再び怖い顔になったお義母様と目が合った。これはダメなパターンか。そう思ったけれど――


「少し、時間をくれ。神鳥とも、話し合いたい」

「わかりました」


 お義母様ははあと盛大な溜息を吐き、椅子に腰かける。

 親不孝者でごめんなさい。心の中で謝った。


 みんなが笑顔で暮らすというのは、本当に難しいことなのだと実感することになる。


 ◇◇◇


 あっという間に月日は経ち、ついにヤンが王都にやって来てくれた。


『みなさん、お久しぶりで~~す』


 相変わらず明るくて、魔導研究局の雰囲気も朗らかになる。

 部屋は狭く感じるようになったけどね。

 翼竜は王宮の裏にある森を拠点にしているらしい。一日一回、餌の家畜を与えに行くとか。


「翼竜って、猪豚一頭丸々食べるんだ」

『そうそう。飼育費、高いんだよね~~』


 けれど、魔導研究局に所属しているので、餌代は経費になる。助かったと、ヤンは言っていた。


 ヤンと初めましてなメーガスは、見上げるほどに大きな竜人ドラークの姿を見て、驚いていた。


『エルフリーデ妃殿下のお師匠様! お話はうかがっておりました。お会いできてうれしいです!』

「そ、そうか」


 友好的なヤンに、戸惑っているメーガス。

 研究書などでは、竜人ドラークは自尊心が高く、閉鎖的な一族とあるので、印象が覆っているのだろう。最近は他部族との交流も盛んになって、開放的になりつつあるとか。よきことかな~。


 人通り挨拶が済んだところで、ずっと気になっていたことを質問してみる。


「ねえ、ヤンは竜について何か知っている?」

『竜って、翼竜のことじゃなくて、希少種のほうだよね?』

「そう」


 翼竜は蜥蜴寄りで、竜は精霊や妖精に近い存在なのだ。

 ヤンは一度も見たことがないと言う。


『伝説の存在とも言われているけれど、確かに存在はしていると思う』


 竜人ドラークの村には、いくつかの伝承があるらしい。


『世界の危機に降り立つとか、仲睦まじい夫婦がいるとか、とある国の王宮に封印されているとか』

「なるほど」


 気になるのは、とある王家に封印されている竜の存在だ。

 詳しく聞いてみる。


『なんでも、古代の王族に恋をした竜がいるらしい。ずっと、伴侶として傍にいたらしいけれど――』


 その王族は寿命を迎えてしまった。悲しんだ竜は、王族の墓の傍で共に眠ることになった。

 竜は今も眠り続けているという。


『ってな感じ』

「なるほど」

『なんか、開かずの扉みたいな感じになっていて、誰も近づけないようになっているとか』

「開かずの扉?」


 なんか、どこかにもそんな物があったような。


「エルフリーデ。それは大砲姫……ではなく、クレシル姫が開こうとしていた扉のことではないか?」

「それだ!」


 もしかしたら、そこに竜が眠っているかもしれない。


「でも、そんな伝説とかあった?」

「聞いたことないな。爺はあるか?」

『いえ、残念ながら』


 ホラーツも知らないようだ。

 でも、ヤン曰く、神話時代の話なので、災害などで資料が紛失している可能性もあると言っていた。もう一度、調べてみてもいいかもしれない。


「アーキクァクト様とか何か知っているかな?」

『ごめんなさい。さすがに知らないわ』

「おっと!」


 天井に魔法陣が浮かび、アーキクァクト様が下りてくる。

 会釈をして、迎えた。


『うわ、なんだ、この真っ赤で綺麗な鳥!』

『ごきげんよう、竜人ドラークの青年』


 ヤンとアーキクァクト様は初対面なので、紹介をする。

 アーキクァクト様は頬に手を当て、うっとりしていた。


竜人ドラークの体って、とても逞しくって素敵よねえ』

『うわ~、ありがとうございます。嬉しいです』


 ヤンはアーキクァクト様のお言葉を素直に喜んでいた。

 二人共ニコニコ笑顔で、なんて平和な光景なんだと思う。


 ヤンが純粋でよかったと、今日ほど思った日はないだろう。


『どういう意味よ、娘っ子!』


 アーキクァクト様、心の中を読むのだけは、勘弁してほしいデス。


▼notice▼


母の愛

息子を差し置いて、義理の娘を愛するのも、愛なのだ。多分。

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