第九十一話 新しい仲間!――ヤン、よろしくね
ヤンは躊躇うことなくあっさりと、魔導研究局に入ってくれると言ってくれた。
『あ、ごめんね、玄関先で。どうぞ中へ』
大きな玄関をくぐり抜けて、中へと入る。
今まで木造建物の竜人の住処にしか行ったことがないので、ドキドキである。
見た目は普通の大木。中に作られた部屋は――。
「わあ、綺麗にしているね」
『アル殿下とエルフリーデ妃殿下が来るから、頑張って掃除したんだ』
「そっか、ありがとうね」
ここで、王都で買ってきたお土産を渡す。
「これ、よかったら食べてね」
『わあ、ありがとう!』
昨日、街で人気のお土産を、チュチュやドリスと一緒にこっそりお忍びで買ってきたのだ。
袋から箱を取り出し、パッケージを見たヤンは『うは!』と笑いだす。
尾が揺れているので、喜んでくれた模様。
「エルフリーデ、ヤンに何を買って行ったんだ?」
「アルフレート第五王子様お饅頭」
「は?」
「アルフレートの顔が付いたお饅頭なの」
アルフレートもパッケージを覗き込む。
絵は画家の手による物のようで、美しい第五王子の姿が描かれていた。
本人よりも睫毛が長くて、目付きが色っぽいのはご愛敬だろう。今、このアルフレート第五王子様お饅頭が飛ぶように売れているらしい。
開封すれば、饅頭に眼鏡が焼き印された物がでてくる。想像以上に可愛い。
中には白い木の実の餡が入っていた。ヤンと味見をしてみたが、非常に美味なり。
「な、なんだ、これは!」
「王族の悲しい宿命だよね……」
「私は聞いていない」
「国王様が許可をだしているみたいだよ」
「父上……」
他に、『リチャード殿下の家内安全お守り』(※騎士団の入隊申込書入り)とか、『大砲姫クレシルのお転婆に効くお薬』(※中身は蜂蜜)とか売っていた。
「お店の人にね、アルフレート第五王子様八頭身人形の予約受付用紙をもらったよ」
「そんな物まで……」
王族って大変だなと思いました。
ちなみに、アルフレート第五王子様八頭身人形(※王子をイメージした香水付き)は予約しました。頑張って働いたお給料の、素敵な使い道があって私は幸せです!
話は戻って。
ヤンの大木のお部屋は丸くて、木の優しい香りがする。
大きな机に、天井から吊るされたハンモック、木の蔓を編んだような座布団もある。座るように勧められたけれど、結構硬い。
だされたお茶は、懐かしの蟻茶。お茶請けは赤蜥蜴の干物。相変わらず、カップやお皿が竜人サイズで、圧倒されてしまう。
アルフレートは親の仇を見るような目で、振る舞われたお茶とお菓子を眺めていた。どうやら初挑戦らしい。
蟻茶を一口飲んで思いっきり顔を顰め、赤蜥蜴を食べて口元を手で覆っていた。
『アル殿下、どう?』
「不味い」
言っちゃった!
正直過ぎるアルフレート氏。
でも、そんなにはっきり言って、ヤンが傷ついたら……。
『そっか~、人には微妙か~。了解です』
うん、大丈夫そう。
ひと息ついたところで、近況について話し合う。
「翼竜便は大分人手も集まっているようだな」
『そうそう!』
なんでも、鼠妖精のアイスクリーム屋さんが他種族との交流の場となっていて、従業員確保が進んだらしい。
『昼間に配達可能な種族を迎えたから、俺が頑張らなくてもよくなったんだよね。交流をきっかけに、竜人の村にも来てもらえるようになったし、最近は宿屋とか食堂の建設も進んでいて――』
アルフレートと目と目を合わせ、微笑み合う。
私達が頑張ったことは、きちんと実を結んでいたのだ。
『これも、アル殿下やエルフリーデ妃殿下のおかげかなと思って、恩返しをしたいなって、ずっと考えていたから』
あっさりと了承しているように見えたけれど、ヤンはヤンなりにいろいろ考えてくれて、話を引き受けてくれたのだ。
「ありがとう、ヤン」
『水臭いなあ、俺達、友達でしょう!』
アルフレートはヤンの発言に目を見開く。
『あ、ごめん。俺、王子様になんてことを――』
「違う。友と言うから、驚いただけだ。お前は、私をそのように思ってくれていたのだな」
『当たり前じゃん!』
いいなあ、友情の確認ができるなんて。
アルフレート、とっても嬉しそうだ。
今まで、そういうことに気づく余裕すらなかったのだろう。
これから、じっくりと友情を深めてほしいと思う。
そんなわけで、魔導研究局に新しい仲間が増えた。
合流はもう少し先らしいけれど、翼竜と共にやって来てくれるヤンの存在は力強い。
『魔導研究局って今、どんな人員?』
「え~っと、アルフレートが局長で、ホラーツが副局長、メーガスっていう私の師匠がいて、お義母様……アルフレートのお母さんがいるでしょう、それからメルヴっていう葉っぱ精霊に、炎狼、あと、喋る聖剣と魔剣の夫婦がいて、アーキクァクト様っていう神鳥もいるんだけど……」
もはや、混沌としか言いようがない。
世界の不思議生物を一ヶ所に集めましたみたいな人員構成になっていた。
「あ、そうそう! 私とアルフレートの子ども、グラセもいるよ」
『え、子ども!?』
「あ、ごめん、まだ話していなかったね」
せっかくなので紹介する。
召喚術で呼べば、床に魔法陣が浮かび上がり、グラセが来てくれる。
『父様~母様~』
「グラセ~~」
朝に会ったばかりだけど、寂しかった。ぎゅっと、抱擁を交わす。
「ヤン、紹介するね。アルフレートが産んだ子なんだけど」
『ア、アル殿下が、産んだ!?』
「そうなの!」
『へえ~~。アル殿下がお腹を痛めて産んだ子か~~。生命の神秘だな~~』
「いや、ちょっと待て」
ヤンの思い込みに、アルフレートより待ったがかかる。
「グラセは妊娠、出産を経て産まれたのではない。私が作った氷塊に、エルフリーデが話しかけて生を得た存在になる」
『ああ、なるほどね!』
納得したヤンは、グラセに自己紹介していた。
『俺、竜人のヤン、よろしく!』
『ワタシは、グラセ、デス。よろしくデス』
手と手を握って挨拶をする二人であった。
◇◇◇
鼠妖精の村に移動する。ヤンが翼竜で送ってくれたので、あっという間に到着をした。
村長のお家に挨拶に行く。チュチュの近況を話せば、喜んでくれた。
しばし、和やかな雰囲気の中、会話を楽しむ。
このままほのぼのとしていたいけれど、本題は別にある。
鼠妖精騎士団の戦力を借りることはできないかという、申し入れと、チューザーの協力についてだ。
まず、鼠妖精騎士団について。
彼らはずっと王都にいてもらうわけではなく、魔王軍との戦いになったら遠征してもらうという話になった。
チューザーは今、村長代理を務めることがあり、力を貸すのは難しいと言っていた。
まあ、仕方がないだろう。
『すみませんね、愚息は家をあけてばかりで、何も教えていなかったものですから』
「いえいえ、こちらこそ、無理なお願いをしてしまい――」
代わりに、お手伝いの人手、チュチュの心の支えにチュリンを王都へ送ることを約束してくれた。
「あの、村長、チュリンさんは、新婚ですし、その、連れだしても大丈夫なのでしょうか?」
『ええ、ええ、問題ありません。チュリンとはずっと家族のように暮らしておりましたので、新婚のような特別な感じでもないですし』
だったら、ありがたく好意に甘えようと思う。
チュリンが一緒だったら、チュチュも嬉しいだろう。
と、まあ、こんな感じで話は纏まる。
魔導研究局の戦力なども固まりつつあった。
あとは、私達の魔法習得に集中する時だろうが。
メーガス、厳しいだろうなあ……。
気合を入れ直さなければと思った。
▼notice▼
蟻茶、赤蜥蜴の干物
竜人の村ではドメジャーなお茶とお菓子。
蟻茶は酸っぱくて舌先がピリピリする独特な風味。赤蜥蜴は味付けが激辛。




