表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/125

第八十六話 報告――リチャード殿下へ

 午後から、アルフレートと共に王宮の図書室に向かった。

 王族専用とあって、中には誰もいない。

 司書さんに『白きエリクシルの勇者』を探してもらう。


「こちらの棚すべてですね」

「おお~」


 ざっと百冊以上はありそうな。

 司書さんにオススメの一冊を選んでもらった。

 分厚いので、離宮に持って帰ってから読む。


 その後、定例会議に参加した。

 国王陛下にリチャード殿下、それから偉そうなおじさま達が、苦渋の表情を浮かべて座っていた。

 各国の状況を直接聞くことになり、周囲の人々は悲壮感が漂っている。

 日々、魔物の勢力は増していき、被害が大きくなっていた。

 魔王降臨については、まだ正式に発表はしていないらしい。けれど、商人などから聞き入れる噂を耳にして、不安に思っている人達が国王陛下への謁見を訴えているとか。


 アルフレートの顔を見る。

 こちらに視線は向けずに、厳しい表情で机の下でぎゅっと私の手を握った。

 時期尚早だと言いたいのだろう。

 わかっている。

 今の私達には、勇者を名乗れる実力はない。


 一応、リチャード殿下にだけ相談しておこうと、みんなで話し合って決めていた。

 定例会議が終わったあと、時間を作ってもらう。


「それで、話とは?」

「まだ、実行に至れるかわからない話なのですが」

「うむ」


 私達はリチャード殿下に、勇者計画を話した。

 どういう反応をされるかドキドキだったけれど、案の定、反対されてしまった。


「自ら世界の期待を背負い込むなど、あってはならぬ。お主らには、静かに暮らし、幸せな日々を過ごして欲しい」


 魔導研究局は騎士団の所属になっているけれど、戦場の前線には行けないような決まりを作っていたらしい。

 そもそも、魔導研究局はアルフレートの能力を最大に発揮できて、心穏やかに過ごせるように作った組織だったとか。


「けれど、私達には、世界を救えるかもしれない可能性がある。兄上、どうか、家族としてではなく、王族としての理解を示して欲しい」

「……」


 リチャード殿下は腕を組み、険しい表情を崩そうとしない。

 こんなに怖い顔のリチャード殿下を見たのは初めてだ。それだけ、心配なのだろう。アルフレートはこんなにも愛されているんだと、胸が温かくなった。


「まったく、主の頑固は誰に似たのか」

「兄上だと思います」

「なるほどな。互いに引かないわけだ」


 この件に関しては保留と言われてしまった。今、この場で認めるわけにはいかないと。

 私達も、『白きエリクシルの勇者』の物語を読んで、勇者の苦労を知らなければならない。

 その後、夕食に誘われたので、リチャード殿下の離宮に一緒に向かった。


 ここで、久々にリリンと再会する。

 どうやら寂しい思いをしていたようで、深く反省することになった。


「ごめんね、私、リリンのお姉さんなのに」

「ううん、いいの。チュチュもたまに来てくれるし」

「そっか」


 チュチュとリリンは良いお友達付き合いをしているようだ。絵を描いたり、絵本を読んだりしているらしい。羨まし過ぎる。仲間に加わりたいけれど、忙しくてどうにもタイミングが合わない。

 今度、一緒にアイスクリーム会をやろうと約束した。

 雪の大精霊様と会ったら、リリンも喜びそうだ。


 お食事会は終始和やかなムードで、美味しかったし楽しかった。

 ここ数日、魔王について考えていたことによる張り詰めた心も解けていく。


 夕食後、サリアさんにお茶に誘われた。

 テーブルの上には三段のお菓子スタンドが。一番下はサンドイッチ、二段目はスコーン、三段目はケーキと果物。一段目から順に攻略していくらしい。夕食後だったけれど、どれも一口サイズなので、ぺろりと食べてしまう。


「こんなに食べて、太らないかな?」

「エルフリーデさんはもうちょっとふっくらしたほうがいいですよ」


 最近、結構太ったかなと思ったけれど、そうでもないようだ。

 一方で、サリアさんは相変わらずお美しくて、どうやったらそんなに綺麗になるのか。

 聞いても、特に美容法などないと言われてしまう。


「強いて言うのならば、家族に愛していたくことでしょうか?」

「良いことを聞きました。それ、実行してみます!」


 お義母様の愛はビリビリするけどね!

 綺麗になるのならば……ああ、でも、ちょっと怖い。

 サリアさんは淡い笑みを浮かべながら、質問してくる。


「結婚して、どうですか?」

「いや~幸せですね~」


 自然と頬が緩んでしまう。

 なんといっても、夜アルフレートと一緒に眠れるのが一番素敵。人の温もりがあると、夜もよく眠れるのだ。

 アルフレートも魔力の負荷による体調不良がなくなったと言うし、本当に結婚してよかったな~と、幸せを噛み締めているのだ。


「エルフリーデさんのお話を聞いていたら、新婚時代を思い出してしまいました」

「新婚時代のリチャード殿下、どんな感じだったんでしょう?」

「今とほとんど変わらないですね」


 そうか。リチャード殿下は若い頃から熊みたいだったのか。

 サリアさんとリチャード殿下は幼馴染だったようで、初恋が実っての結婚だったらしい。素敵だな~。

 いろいろと、夫婦円満の秘訣も聞かせてもらう。


 お茶会、とっても楽しかった。

 今度は社交界の奥様方の集まりに誘ってくれるらしい。こちらも楽しみ。


「結婚をしたけれど、ここはエルフリーデさんの実家なので、いつでも遊びに来てくださいね」

「ありがとうございます」


 リリンも寂しがっていたし、暇を見つけて遊びに来ないとな。

 私の実家だと言ってくれて、ちょっと泣きそうになってしまった。

 ここの国の人達は、みんな優しい。


 だから、ずっと笑顔で暮らせるように、守れたらいいなと思った。


 ◇◇◇


「アルフレート、サリアさんにお菓子もらった! リチャード殿下からはメルヴ達にって、蜂蜜をもらったよ」

「良かったな」


 馬車の中で、本日の戦果を報告。

 頭を撫でてもらい、でへへと変な笑い声がでる。

 楽しい夜だった。たくさんお喋りして、美味しい物を食べて。


「でも、びっくりしちゃったね」


 リチャード殿下に勇者計画は猛反対されてしまった。

 賛成されるとは思っていなかったけれど、想像以上に怒られてしまったのだ。

 それくらい、大変なことをしようとしていることはわかっている。


「納得してもらえるほどの、実力をつけるしかないだろう」

「うん」


 なんとなく引っかかっていたことだけど、勇者計画にアルフレートを巻き込んでいいのかなと、改めて思ってしまった。

 その辺も、メーガスと話し合わなければならない。


「エルフリーデ、今、しようもないことを考えていなかったか?」

「え、ううん、そんなことないヨ!」


 指摘されてどきっとした。まさか、考えていることを読める魔法を習得したのではと、戦々恐々としてしまった。


 お義母さん達が寝ないで待っていてくれた。

 メーガスは寝ちゃったって。お爺ちゃんだもんね。たくさん睡眠を摂って欲しい。

 扉を開けば、グラセが飛び込んでくる。


『母様~父様~』

「ただいま、グラセ!」


 帰って早々、我が子を抱きしめる。

 グラセは頬をすりすりしてくれた。あ~~、うちの子、世界で一番可愛い~~。

 視界の端で、炎狼フロガ・ヴォルクがチラチラとこちらを見ていたので、傍に寄ってヨシヨシする。大きくなっても、甘えん坊なのだ。

 メルヴは一日あったことの報告をしてくれる。


『アノネ~、今日ハネ~、オ庭デ追イカケッコシテ、遊ンダノ!』

「そっか」


 楽しい一日だったようで何より。


 お風呂に入り、お義母様とお話する時間を過ごしてから、寝室に戻った。

 寝台の近くにある灯りを点し、借りてきた『白きエリクシルの勇者』を読む。

 アルフレートが読み聞かせをしてくれるらしい。

 隣にごろんと転がる。

 アルフレートは本を開き、ゆっくりと読み始めた。


「――その昔、この大地に突如として魔王が降り立った」

「ふぁあああ~~」

「おい、まだ一行しか読んでいないだろう」

「うん、頑張る」


 アルフレートが読み始めれば、すぐに眠気が襲ってきた。瞼を摩りつつ、身を乗り出して、真面目に聞いている体を見せておく。


 その昔、魔王が降り立ち、人の世は魔物に蹂躙された。

 困った国々は魔力を集め、勇者の大召喚をすることになった。

 各国より魔法使いを呼び集め、行われた召喚術。

 魔法陣を通じて異界より現われた勇者――スノウ・ノーヴァ。彼こそが、史上最強と呼ばれる存在であった。


▼notice▼


白きエリクシルの勇者

世界最古の勇者の物語。それは、創作なのか、事実なのか、いまだ明らかにされていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ