表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/125

第八十五話 話し合い――からの、○○様!

 楽しかった新婚旅行はあっという間に終わってしまった。

 鼠妖精ラ・フェアリのみんなが祝福してくれたし、無事に子どもも生まれたし、メルヴや炎狼フロガ・ヴォルク、チュチュから素敵な贈り物も戴いたし、大満足の旅行だっただろう。


 けれど、浮かれてばかりではいけない状況となっていた。

 大陸の端にある小さな島国では、魔王軍らしき魔物の群れに襲われ、壊滅状態だと聞いた。

 勢力は確実に広がりつつある。


 各国は勇者の不在に焦っているようだった。


 私達、魔導研究局は集まって、話し合いをする。

 メンバーはアルフレート、ホラーツ、メーガス以上。お義母様は離宮でメルヴや炎狼フロガ・ヴォルク、グラセらとお留守番。

 アルフレートは数日間に起こった事件や、報告などが書かれた書類を手に、苦渋の表情を浮かべていた。


「勇者不在のままというのは、どうにもまずいらしい」


 なんというか、勇者というのは絶対的な力があるのはもちろんのことなんだけど、象徴的な存在でもあるらしい。


「え~っと、つまり、国民や兵士が勇気づけられるってこと?」

「そうだ」


 偽勇者を立てて、どうにか兵士達を奮い立たせる計画も立っているらしい。

 けれど、誰も勇者役をやりたがらないとか。


「私、思ったんだけど」

「駄目だ」

「まだ、何も言ってないじゃん」

「どうせ、勇者役をするとか言いだすんだろう」

「半分正解で半分不正解!」


 訝しげな視線を向けるアルフレートとメーガス。ホラーツは優しい視線を向けてくれていた。


「あのね、みんなで勇者役をしようと思って」

「はあ?」

「魔導研究局が一つのチームで、勇者なの」


 アルフレート、ホラーツ、メーガス、お義母様、それからメルヴに、筋肉妖精マッスル・フェアリ炎狼フロガ・ヴォルク、グラセ、……みんなの力を合わせれば、勇者と同じような凄い力になると思う。


「本気なのか?」

「うん、本気」


 勇者を立ててみんなが頑張れるならば、協力したいのだ。

 アルフレートは腕を組み、険しい顔だ。メーガスは無表情。ホラーツは困った表情を浮かべている。


「わかった。検討しておこう」

「よろしくね」


 次に話し合うのは、戦力強化について。

 魔導教会で教わった魔力の使い方は、威力を半減させるものだったらしい。

 この辺はメーガスが夜の時間が空いた時にでも教えてくれるとか。


「まずは、体の作りから見直さなければならない」


 アルフレートは氷山に、私は活火山に行き、魔力の強化訓練を行わないといけないとか。

 いったい何をするのか。

 氷に囲まれて精神統一をしたり、マグマの滝に打たれたりとか?

 考えただけでぞっとする。


「体が仕上がれば、精霊魔法を伝授しよう」

「精霊魔法……?」

「自らの魔力だけでなく、あらゆる自然の力を借りて作りだす魔法のことだ。それを習得すれば、精霊憑依術を覚えてもらう」


 精霊憑依術とは言葉の通り、自らに精霊を宿すもので、大きな力を得ることができると言う。


 その昔、魔導教会の神官達は外にでて、魔力の質を上げる修業にでかけていたのだとか。


「あと、白きエリクシルの勇者の話を読んでおけ。それから、歴代の魔王と勇者の伝承も」


 白きエリクシルの勇者の物語について、すっかり忘れていた。このあと、アルフレートと二人で図書室に調べに行こう。


 勇者役をするならば、課題は山積みであった。

 一つ一つクリアしてから、名乗りを行わなければならない。


「もう一点は、魔導研究局の人員増加についてだが――」


 魔導研究局は震えるほど人手不足なので、スカウト活動をするらしい。


「まずは、竜人ドラークのヤンに声をかけてみようと思う」


 竜人ドラークのヤン!

 翼竜を使役していて、大剣を操る戦士だ。確かにうちのチームは前衛不足なので、ヤンがいたら力強いかも。


「それから、鼠妖精ラ・フェアリ騎士団や、村長の息子にも声をかけようと思っているが、この辺は村の警護が優先なので、強くは誘えない」

「なるほどなあ」


 そうそう。村長の息子でありチュチュのお兄さんでもある、チューザーは、最近旅から帰ってきて、婚約者のチュリンと結婚した。真面目に村の役所で働いているらしい。

 お兄さん夫婦が王都に引っ越してくれたら、チュチュも安心できるだろうな~と思ったり。


 仕事も課題も山積みな魔導研究局に来てくれる御方はいらっしゃるのか。

 アットホームで未経験者大歓迎な職場です。週に一回、アルフレートのアイスクリーム会があります。なんて、勧誘をしてはどうだろうか。


「私のアイスクリームにつられる者などいるわけないだろう……」

『え、アイスクリーム食べ放題?』


 テーブルの上に白銀の魔法陣が浮かび上がり、中からでてきたのは――白いもふもふの小さな狼さん。


「あれ、雪の大精霊様?」

『ええ、そうだけど』

「えっと、なぜ、ここに?」

『アイスクリーム食べ放題の話が聞こえたから』


 なんでも、鼠妖精ラ・フェアリの村のアイスクリーム屋さんは連日大盛況で、行列が絶えないらしい。


『なんか、新作の蜂蜜林檎味とかが人気らしくて、近づけもしないのよ』

「そうなんですね~」


 雪の大精霊様はアイスクリーム食べ放題ならば、私達に手を貸してくれると言う。


「いいのですか?」

『ええ』


 基本的に村にいて、こちらが助けを求めた時にのみ、来てくれるとか。


『でも、週に一度のアイスクリーム食べ放題の時はここに来るから』


 アルフレートにいいかと聞いてみる。もちろんだと、頷いてくれた。


 雪の大精霊様がいたら、戦力的にも大きな力になるだろう。

 それにしても、さすが、アルフレートのアイスクリーム。雪の大精霊様まで魅了をしてしまうとは。


 まさかの戦力にホッとしていれば、雪の大精霊様はとんでもないことを口にする。


『私、メルヴ味が食べたいわ』

「え?」

『あの甘酸っぱい葉っぱを刻んで入れるの』

「いや、それはちょっと……」


 メルヴに聞いたら『イイヨ!』とか言って葉っぱを材料として提供してくれそうだけど。食べたらメルヴの哀愁漂う姿が浮かんできそうで、切なくなる味になりそうだ。


『メルヴの炒め物とかも美味しそうよね~~』

「おお……」


 千切りにして、塩コショウを振って、さっと炒めて……。カリカリに焼いたパンに載せて、粉チーズを振ったら、美味しそう。

 雪の大精霊様はさらなる料理を提案する。


『あ、あれもいいかも! メルヴのパフェ!』


 果物と角切りにしたメルヴの葉を重ねて、アイスクリームを置いて、生クリームを絞る。

 甘酸っぱいメルヴの葉と、みずみずしい果物、あま~い生クリームの相性は抜群だろう。


「ああ、魅惑のメルヴ料理……!」

『どんな食材、調理にも合いそうなのよねえ~』


 アルフレートとメーガスの呆れた視線が突き刺さる。

 冗談だって、という柔らかな微笑み顔を向けたが、信じてくれなかった。


「あ、えっと、メルヴのアイスクリームはご提供できないのですが、それ以外の物ならば、なんとかできるかと」

『ま、そうよね。大精霊の薬草なんて、滅多に食べられる物でもないわ』

「だ、大精霊……?」

『ええ、そうよ。メルヴ・メディシナルは世界で唯一の人工大精霊なんだから』


 シンと、室内が静まり返る。

 メルヴが大精霊!? まさか!! と思ったけれど、薬草の効果といい、水竜と意志の疎通が取れたことといい、今までも実力を垣間見ることがあったのだ。


「あの、人工精霊とは?」

『あなたの炎狼フロガ・ヴォルクと一緒。人の力によって、精霊になったみたいね』


 今更明らかになる、メルヴの秘密。人の力で大精霊に至るまでに、どんなことがあったのだろうか。


『あなたの魔力でいちから作った炎狼フロガ・ヴォルクとは違って、メルヴは元魔物だけど』

「えっ!?」

『元々の気質が優しかったから、精霊になったみたい』

「そんなことがあるんだ」

『稀よ、本当に。奇跡のような現象だわ』


 魔物が精霊に……。

 もしも、それができたら、世界は一気に平和になるだろう。


 なんだか、考えさせられる話であった。


▼notice▼


メルヴアイスクリーム

HP、MP全回復。

フルーティーな特別フレーバー!(非売品です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ