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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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幕間 メルヴ、頑張る!

 鼠妖精ラ・フェアリの村へエルフリーデとアルフレートが新婚旅行で滞在をする日も一週間が過ぎた。明日、王都に帰ることになっている。

 のびのびと過ごす夫婦を、メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクが眺めていた。


『アル様とエルサン、幸セソウダネ~』

『わふ~』


 なぜか猫耳になっているアルフレートを前に、万歳をしているエルフリーデ。

 満足げに頷くブリゼールの姿もある。


「母上、早く、術を解いてください」

「いいだろう。少し可愛げがあっても。なあ、嫁子よ」

「はい、お義母様!!」


 どうやら、ブリゼールの魔法で猫耳になっているようだった。

 家族の団欒を前に、メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクは温かな視線を向けている。


『ア、ソウダ!』

『わふ?』

『結婚ノ、オ祝イ、マダシテナイヨネ~?』

『くうん』


 何か結婚祝いを贈りたい。

 メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクは何がいいか考える。

 腕を組み、しばし頭を悩ませた。


『ウ~~ン。ワカラナイカラ、チュチュチャンニ、聞キニイコウ』

『わっふ!』


 二人は部屋をでて、チュチュの実家に向かうことにした。

 鼠妖精ラ・フェアリの村に行けば、メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクは子ども達に囲まれる。


『あ、メルヴ様と炎狼フロガ・ヴォルク様だ!』


 村の子ども達はメルヴと炎狼フロガ・ヴォルクを精霊として慕っているのだ。

 メルヴは集まって来た子ども達の頭を撫でていく。


『大キクナ~レ、大キクナ~レ』


 撫でられた子どもは、目を輝かせ、お礼を言って走り去る。

 こうしてメルヴが祝福をした子どもは、風邪も引かずに元気よく育つのだ。


 途中、屋根の雪下ろしを手伝ったり、薪割りをしたりして、寄り道をしつつ村長の家に辿り着く。


 炎狼フロガ・ヴォルクが爪先でトントンと、扉を叩いた。

 キイと戸が開く。顔を出したのは、村長の息子の嫁、チュリンであった。


『コンニチハ、メルヴダヨ!』

『あらまあ、精霊様。いらっしゃいませ』

『今日ハ、チュチュチャンニ、会イニキタノ』

『かしこまりました。どうぞ、中へ』


 炎狼フロガ・ヴォルクは体が大きく、鼠妖精ラ・フェアリの家の中に入れないので、外で待機する。

 メルヴは村長に一言挨拶をして、チュチュの部屋に案内された。


『まあ、メルヴ様』

『来チャッタ!』


 片手を挙げて挨拶をするメルヴに、驚きの顔を見せるチュチュ。

 プライベートなので、チュチュは青空色のフリルたっぷりのワンピースに、頭にリボンを巻いた姿でいた。


 メルヴにふかふかのクッションを差し出しながら座るように勧めた。メルヴは『ヨイショ』と言いながら座る。


『それで、何か御用でしょうか?』

『ウン。アノネ、アル様ト、エルサンニ、結婚ノオ祝イヲシタクテ。チュチュチャン、何カ良イノ、知ッテイルカナッテ』

『そういうことでしたか』


 チュチュはしばし考え、ぽんと手を打つ。

 本棚より、分厚い一冊の本を取り出す。


『今の時期、森に生えているという言い伝えのある物なのですが』


 それは、雪の花と呼ばれる、花びら、茎、葉と、全部が真っ白な花だった。冬の、雪が降り積もる時期に、鼠妖精ラ・フェアリの村の近くにある森に咲くという言い伝えがある。


『ワ、キレイ!』

『ええ、ですが、女性と子どもは冬の森に行くことは禁じられていて、本当に生えているかどうか、わからないのです』

『デモ、アッタラ、アル様トエルサン、喜ビソウ』

『ええ、ですね』

『メルヴ、雪ノ花、探ス!』


 だったらと、チュチュも同行を申し出る。


『ワカッタ。チュチュチャンは、炎チャンノ背中ニノレバイイネ!』

『そ、そんな……! 恐れ多いです』

『炎チャンニ、キイテ、ミヨウカ』

『はい』


 こうして、チュチュも雪の花探しに同行することになった。

 冬の森は雪が深く降り積もり、白銀の世界と化していた。

 葉が散った木に雪が降り積もり、美しい景色となっている。

 メルヴと二人、炎狼フロガ・ヴォルクの背に乗って、森に移動していた。


『真っ白なので、雪に紛れてわかりにくいかもしれないですね』

『ウ~~ン』


 キョロキョロと、森の雪道を確認しながら進んでいく。


 見つけたと思ったら、落ちていた枝に雪が張りついていた物だったり、ただの雪の塊だったり。


『そろそろ、諦めましょうか?』

『ウ~~ン』


 調査は難航していた。

 メルヴはどうしても、雪の花を見つけてアルフレートとエルフリーデに贈りたいと思う。


『ン、炎チャン?』

『どうかなさいましたか?』


 炎狼フロガ・ヴォルクピタリと動きを止めたのだ。じっと、一点を見つめている。


『あ!』

『あれは――』


 メルヴとチュチュも、異変に気づいた。

 木々の間に、雪がこんもりと積もっており、いただきから尻尾のような物がでていたのだ。

 メルヴは炎狼フロガ・ヴォルクから飛び降りて、雪の積もった小さな塊に近づく。


『コンニチハ、メルヴダヨ』

『……』


 反応はない。

 メルヴは頭から蔓を生やし、尻尾に巻きつけると、一気に引いた。


『ぷはっ!』

『ア、雪ノ大精霊様だ!』


 雪の中に埋まっていたのは、小さな狼の姿となった雪の大精霊だった。

 魔力切れを起こしているようで、息も切れぎれである。


『はあ、はあ……! あ、あなた、エルフリーデのところの』

『ウン、メルヴダヨ』


 メルヴは雪の大精霊を地面へと下ろす。


『大丈夫?』

『あ、あまり、大丈夫じゃないわ』


 頑張って雪を降らせたので、疲れて眠っていたのだと雪の大精霊は話す。


『ダッタラ、メルヴノ葉ッパ、食ベル?』

『え、いいの?』

『イイヨ。ハイ、ドウゾ』


 雪の大精霊は受け取ったメルヴの葉を、前足でくるくると丸め、シャクシャクと音を立てながら食べる。


『なんか、ちょっと凍っていて美味しい』

『ヨカッタ~』


 メルヴの葉は、雪の大精霊の魔力を回復させた。


『ありがとう。助かったわ』

『イエイエ~』


 何かお礼をと言っていたが、メルヴは『オ気ニナサラズ~』と頭部の葉を揺らす。が、途中で目的があって、この場にいたことを思い出した。


『ア、ソウダ! メルヴ、雪ノ花ガ、ホシイノ!』

『雪の花? なんで?』

『アル様ト、エル様ノ、結婚ノ、オ祝イニ』

『ああ~そう。確かにあの二人、好きそうだわ』

『ウン!』


 雪の花が咲いている場所があるならば、教えてほしいと乞う。


『そもそも、あれ、私が気まぐれに咲かせたものだから』

『ソウダッタンダ』

『ええ、だから――』


 雪の大精霊は地面を肉球でペンペンと叩く。すると、にょきっと白い花が生えてきた。


『ウワ~~!!』


 美しい花を前に、メルヴは目を輝かせる。

 チュチュも地面に降りて、花を見にやってきた。


『これは……本当に夢のようなお花です』

『綺麗ダネ~』


 雪の大精霊はメルヴの葉のお礼に雪の花をくれると言う。


『イイノ?』

『ええ、お礼にあげるわ』

『アリガトウ!!』


 チュチュが鉢を家から持って来ていた。そこにメルヴと二人で雪を入れ、雪の花を植える。

 最後に、雪の大精霊がふうと花に息を吹きかける。


『これで、枯れないと思う』

『ワア、アリガト~~!』


 メルヴは鉢を抱きしめ、雪の大精霊にお礼を言った。


 陽が暮れる前に、鼠妖精ラ・フェアリの村へと帰る。

 メルヴはアルフレートとエルフリーデを、居間へと呼びだした。


「メルヴ、どうしたの?」

「いったい、何があると言うのだ?」

『見テカラノ、オ楽シミダヨ!』


 部屋の前で待ち構えていた炎狼フロガ・ヴォルクが、扉を開く。

 中で待っていたのは、鉢を持ったチュチュだった。


『アルフレート殿下、エルフリーデ妃殿下、ご結婚、おめでとうございます! こちらは、メルヴ様と、炎狼フロガ・ヴォルク様からの、お祝いです』

「え、嘘!」

「いつの間に、そんなことを」


 エルフリーデはかけ寄って、鉢をチュチュごと持ち上げた。


「ありがとう、メルヴ、炎狼フロガ・ヴォルク! とても嬉しい! 大切にするね!」

「おい、エルフリーデ。村長の娘は違うからな」

「あ、うん。そうだよね」


 エルフリーデはチュチュに謝り、降ろしてやる。


『アノネ、チュチュチャンモ、一緒ニ、探シテクレタノ!』

「そうだったんだ。チュチュも、ありがとうね」

『いえ、わたくしは、一緒に行っただけで』


 もじもじとするチュチュの姿を見て、エルフリーデは胸を抑える。


「か、可愛すぎる……!」

『はい?』

「あ、ううん、なんでもない」


 いつものやりとりをするエルフリーデとチュチュであった。

 アルフレートはテーブルに置かれた花を眺め、感嘆していた。


「しかし、このような美しい花を見たのは初めてだ」

「そうだね。綺麗……」


 夫婦は花を気に入ったようで、一安心。

 メルヴと炎狼フロガ・ヴォルク、チュチュは顔を見合わせ、微笑んだのだった。


▼notice▼


雪の花

雪の大精霊が作りだした、美しい花。

これが将来、とんでもないものに……。

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