第八十四 驚愕――新しい家族!?
メーガスと別れたあと、アルフレートにお礼を言いに行った。
おかげさまで視力が回復したし、メルヴの薬草のおかげで元気も取り戻しつつある。
「そうか、良かったな」
「ありがとうね」
いろいろと判明したことを話したいけれど、まだ心の整理ができていない。説明しているうちに泣きだしそうだから止めた。
それよりも、せっかくの新婚旅行なので、アルフレートとのんびりゆっくりと過ごしたい。
長椅子に腰かけるアルフレートの隣にぴったりと寄り添うように座れば、「近い!」と怒られてしまった。
久々の塩対応に、笑ってしまった。
◇◇◇
アルフレートが魔法で作ってくれた雪だるまじゃなくて氷だるまは時間が経っても解けないので、家に持って帰り、テーブルの上に飾っている。
水晶のように澄んでいて、とっても美しいのだ。
大きさはメルヴと同じくらいで、まんまるのチョコレートの目に、シナモンの眉、ニンジンの鼻に、三角ビスケットの口をつけた。とっても可愛い。
メルヴが拾ってきた枝を手のようにつけ、チュチュがベレー帽を、ドリスがマフラーを作ってくれた。
「あ~もう、震えるほど可愛い~!」
毎日眺めては可愛がっていたら、アルフレートに呆れられてしまった。
「そんな物が可愛いのか?」
「うん、すっごい可愛いの!」
家に持って帰ってもいいかと聞けば、好きにするようにと許してくれた。
「だったら、名前をつけようかな~」
何か良い名前がないか。メモ帳を取りだし、ペンを握るも、なかなか思いつかない。
「う~~ん」
せっかくなのでかっこよくって、素敵な命名をしたいのに、ペペとかポポとか、単純な名前しか思いつかない。
「アルフレート、何か良い名前ある?」
「氷だるまの名か……そうだな、凍り氷るとか」
「あ、素敵!」
さすが、アルフレート! ペペとかポポとかしか思いつかない私とは大違い。センスのある名前をつけてくれた。
「というわけで、命名、グラセ・グラソン! よろしくね!」
『ハイ! アリガトデスワ、母様!』
「……ん?」
なんか、今、グラセが喋ったような? 微妙に動いたようにも見える。
アルフレートは眉間に皺を寄せ、グラセに近づく。
どうやら異変に気づいたのは私だけではなかったようだ。
『父様、産ンデクレテ、嬉シ、デス』
「なんてことだ……!」
グラセはグラグラ揺れている。もしかして、照れているのか。
もじもじしながら、アルフレートにお礼を言っていた。
「もしかして、精霊作っちゃった?」
「まさか!」
わからないので、ホラーツとメーガスに相談してみることにした。
「これは……」
『精霊ですね』
ホラーツとメーガスに囲まれて、グラセは手で顔を覆い、恥ずかしそうにしている。
やっぱり、グラセは精霊のようだ。
『元々、アルフレート様の魔力が籠っている物に、エルフリーデ様が目や鼻をつけ、話しかけたことによって命が宿ったようですね』
「そうだったんだ」
なるほどな~と返事をしていれば、メーガスにじろりと睨まれる。
「エルフリーデ、お前には前に教えただろう。炎狼を勝手に作った時に、魔力の籠った物に顔を作り、まるで生きているかのように接すれば、息を吹き込んでしまうことがあると」
「あれ、そうだったっけ?」
「聞いていなかったな!」
ということは、グラセに命を吹き込んでしまったのは、私が原因のようだ。
グラセを抱き上げれば、すりすりと頬ずりをしてくる。
ああ、なんて可愛い子なの……!
『母様ハ温カイ、デス』
「グラセは冷たいね~」
「氷だからな」
グラセが服に張り付いてしまった。アルフレートがバリっと剥してくれる。
『父様、アリガトデスワ』
二人のやりとりにも、ほっこりしてしまう。
それにしても、なんだか照れる。
「どうした?」
「いや、こんなに早く子どもに恵まれるなんて……」
『おめでとうございます、アルフレート様、エルフリーデ様』
「ありがとうね!」
私達、幸せになります! と宣言したら、アルフレートとメーガスの呆れたような視線が突き刺さった。
祝福してくれたのは、ホラーツだけだった模様。
と、思っていたけれど、お義母様は大変喜んでくれた。
「孫よ!」
『祖母様!』
お義母様は片手にグラセ、片手にメルヴを抱えて、満足げな顔でいた。
嬉しそうで何より。
メルヴのことは『大兄様』と呼んで慕っている模様。
兄と呼ばれたメルヴは、胸を張って誇らしげでいた。
炎狼は『小兄様』と呼んでいたけれど――
『小兄様~~!』
「ま、待って、グラセ、あんまり近づいたら、溶けちゃうから!」
精霊と言っても、まだそこまで力はないので、炎の集合体である炎狼に近づいたら溶けてしまう。
炎狼は困った様子で、突撃してくるグラセから距離を取っていた。
一番喜ばしいことは、アルフレートの魔力をグラセに込められる能力が発覚したことだろう。
朝、グラセがうっかり暖炉に突っ込んでしまい、体が溶けかけてしまったのだ。
アルフレートが慌てて回復させたところ、ホラーツが魔力の移行ができることに気づいた。
これで、雹が降っても安心だろう。
この先、体に魔力が溢れて苦しむことはないのだ。本当によかったと思う。
新婚旅行はあっという間に終わってしまった。
楽しい時間は瞬く間に過ぎていくのだ。
リチャード殿下に新しい家族を紹介する。
「この子はグラセと言って――」
『父様ト、母様ノ、愛デ、生マレタデス』
「むう、ハネムーンベイビーと言うことか」
「そうなんです!」
さすがリチャード殿下! 呑み込みが早い!
「私はもう何も突っ込まない」
「婿殿、心中察すぞ」
背後でアルフレートとメーガスが何か言っているけれど、気にしたら負けだ。
メーガスも紹介する。貴重な魔法関係者ということで、歓迎してくれた。
「開かずの扉も師匠なら何かわかるかも!」
「そういえばあったな、そんな物が」
アルフレートは忙しさで忘れていた模様。
私もそうだったんだけど、リチャード殿下の背後に目を輝かせているお姫様がいて、思い出してしまったと言いますか。
皆にお土産も買ってきた。
鼠妖精の魔法の陶器に、アイスクリーム、蜂蜜など。
喜んでくれたら嬉しい。
王都を開けている間、特に事件などはなかった模様。
また明日から、魔導研究局の一員として、働かなければならない。
今日は離宮に戻って、ゆっくりしてもいいと言われた。お言葉に甘えさせていただく。
離宮に移動する間に、すっかり陽が暮れてしまう。
グラセはお義母様の腕の中で眠ってしまった。隣に座るメルヴもキリッとした顔をして座っていたけれど、馬車の揺れが眠気を誘うのか、ウトウトし始める。
結局、眠ってしまったようで、アルフレートが抱き上げて運んでいた。
アルフレートはメーガスの部屋を離宮に用意してくれていた。
一緒に住めるなんて嬉しい。
「私はまず、杖作りから取りかからなければならぬ」
「そっか」
拘束された時にメーガスの杖は没収され、破壊されてしまったらしい。なんとも許せない話である。
「まあ、大昔に支給された品で、使うことも規制されていたし、そこまで思い入れはない」
「だったらよかった」
メーガスの時代は杖の支給もあったようだ。
やはり、十五年前から杖を持ち歩いてはいけないなどの決まりができたらしい。
「まあ、しばらくはのんびりと過ごさせてもらうぞ」
「そうだね」
改めて、よろしくお願いしますと頭を下げた。
◇◇◇
アルフレートの元へと戻る。
グラセやメルヴはお義母様の元で眠っているようで、一人で夜の庭園を眺めていた。
今日は月灯りが綺麗で、僅かに積もった雪を美しく照らしている。
「アルフレート、ありがとう」
「なんのお礼だ?」
「いろいろ」
後ろから、アルフレートの体をぎゅっと抱きしめる。
平和な時間がいつまでも続けばいいけれど、この先、そういうわけにもいかないだろう。
だからせめて今だけは――
アルフレートが幸せでありますようにと、綺麗な月に願う。
かならず叶うよう、頑張ろうと思ったのだった。
第三章 【王都にて、氷解】 完
▼notice▼
最終章魔神編(仮)は来年の一月~二月より連載開始いたします。お待ちいただければ幸いです。
来年も、よろしくお願いいたします。




