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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第八十二話 メーガス――ああ、メーガス

 新しく始まったメーガスとの生活。

 やって来て三日ほどは寝たきりだったけれど、四日目からは起き上がれるようになった。

 体には目以外に異常はないみたいだし、ホッとひと安心。

 五日目からは、起き上がって部屋をうろついている模様。

 鼠妖精ラ・フェアリの奥様方が見守ってくれているようで、危ない方向へ進んだら助けてくれるらしい。

 食事量も増えてきているとのことで、良かったなと思っている。

 嬉しくって、お世話を焼こうとするけれど、たいてい怒られて終わるのだ。


師匠せんせい、あ~ん!」

「何があ~んだ! 食事くらい目が見えなくとも自分で食えるわ!」

「遠慮しなくてもいいのに~」


 メーガスはひどくやせ細っていた。なんでも、囚われている間、一日一回の食事しか与えられなかったらしい。ただでさえ細身なのに、さらにげっそりしていて悲しくなった。

 どうか、鼠妖精ラ・フェアリの村で美味しい物をたくさん食べて、ほっぺたふくふくになって欲しいと思う。


 目の呪いについては、ホラーツが全力で調べてくれているようだ。大丈夫だと言っているので、心配はないだろう。


 もう一つ気になることと言えば、神官の首輪の存在だ。

 魔法使いの魔力を吸い取る悪しき魔道具。

 雪の大精霊様、メーガスの分も外してくれないかな、などと考えたり。

 今度交渉してみようと、アルフレートと話し合っている。


 今日は窓辺に置いた一人掛けの椅子を二脚用意して向かい合って座り、日向ぼっこをしながら話をする。

 暇だと言うメーガスに、私はちょこちょことここでの出来事を語った。


「――それで、筋肉妖精マッスル・フェアリっていうただの筋肉質なおじさんにしか見えない妖精さんを召喚してしまって」

「せっかちな奴め」


 ここで発覚したのが、筋肉妖精マッスル・フェアリがかなりの高位妖精だったということ。


「魔力などは大丈夫なのか? かなりの数を使役しているようだが?」

「あ、うん。対価はね、魔力じゃなくて、幸せな心なんだって」

「嘘だろう?」

「本当、本当」


 メーガスはびっくりしていた。普通、妖精はそんな契約を持ちかけてこないらしい。


「清らかな妖精なのだな」

「うん、実物を見たらびっくりするけれど」

「お前は、見た目で判断しよって」

「そ、そうなのかな?」


 今度から清い心をもって筋肉妖精マッスル・フェアリと向き合うことにした。


「あ、そうだ! メルヴも紹介しよう」


 いまいち謎な精霊、メルヴについても、メーガスならば何か知っているかもしれない。

 まだきちんと紹介していなかったので、連れてくることにした。


「ちょっと待っててね、メルヴ連れてくるから」


 庭で遊んでいたメルヴを捕獲し、メーガスの部屋へ連れていく。

 私に抱き上げられたまま、メルヴは片手を挙げて挨拶をする。


『ハジメマシテ、メルヴハ、メルヴダヨ!』

「メルヴ、このお爺ちゃんは凄い魔法使いの先生なんだよ」

『老師サン!』

「そう」


 『ヨロシクネ~』と言って葉っぱのついた手を差しだすメルヴ。

 目の見えないメーガスに握手を求めていると教えてあげれば、訝しげな表情で手のひらをだしていた。メルヴの葉をメーガスの手のひらへと持って行き、手と葉を握り合う二人。


「この子、アルフレートが召喚した精霊なんだけど」

「メルヴか……初めて聞く名だ」


 あら、メーガスも知らない?

 メルヴをメーガスの膝の上に乗せる。


「な、なんだ?」

「メルヴを膝に置いてみた」

「精霊が、私の膝にいるだと?」

「うん」


 葉を揺らしながら、メルヴは『ヨイショ』と言いながらメーガスの膝にちょこんと座った。


「なんてことだ……。契約者以外に気を許すとか」

「メルヴ、人懐っこいから」

「犬じゃあるまいし」

『老師サンノオ膝、暖カクテ、気持チガイイネ~』

「そ、そうか……」


 その一言で、眉間の皺はあっさりと解れる。

 メーガスを秒速で陥落させてしまうメルヴ、凄過ぎる……!


「そういえば、師匠せんせいの治療に、メルヴの葉が使われていたんだよ」


 メルヴの頭部から生える万能薬草についても聞いてみた。けれど、メーガスは知らないと言う。


「そもそも、エルフリーデの夫の属性は氷だろう? ならば、氷の精霊が召喚されるはずだが、なぜ、植物系の精霊が召喚されたのだ」

「そういえばそうかも」

『アル様ハ、坊ッチャンノ、血縁ダカラダヨ』

「坊っちゃん……?」

「前の契約者か?」


 コクリと頷くメルヴ。

 なんでも、前のご主人様と別れる時に、「家族が困ったことになったら助けてほしい」と頼まれていたらしい。


『アル様、坊ッチャンニ、チョット似テイテ、ココロガ、キュウトナル時ガ、アルヨ』


 前のご主人様も氷魔法が得意で、アルフレートみたいにハキハキとした物言いをする人だったらしい。

 メルヴのつぶらな瞳は、若干潤んでいるようにも見えた。


「悲しい?」

『ウウン、嬉シイノ』


 前のご主人様は亡くなってしまったらしいけれど、その血は今も続いていて、その片鱗を感じ取ることができる。メルヴにとっては、それが嬉しいことなんだとか。

 ちょっぴり悲しくて、切ない話だと思う。


 この後、アルフレートは遠乗りに行く予定だ。

 メルヴはこのままメーガスと日向ぼっこをしているらしい。

 二人の様子にほのぼのしつつ、部屋をでることになった。


 ◇◇◇


 空は晴天! 素晴らしい遠乗り日和である。

 うっすら雪が積もっているけどね。まあ、寒さは魔法でどうにかできるので、無問題。

 外ではお久しぶりな馬の青毛ちゃんにご挨拶。走りたくてうずうずしているのか、足取りは軽やか。

 葦毛ちゃんは相変わらず美しい。アルフレートが跨れば、白馬の王子様が爆誕する。

 今日は鼠妖精ラ・フェアリ騎士団が警護でついてきてくれるとか。

 騎馬隊があるなんて、知らなかった。馬にちょこんと跨る姿はとっても凛々しくてかっこよくて、それから、素晴らしく可愛い。


 馬を走らせて向かった先は、雪宝石の森と呼ばれる場所。

 枝垂れた木に雪が降り積もって固まり、宝石のように見える美しい風景が見える場所らしい。とても楽しみだ。


 一時間ほどで到着する。


「う、わあ~~!」


 鼠妖精ラ・フェアリ騎士団の先導で辿り着いた雪宝石の森。

 そこは、幻想的な雰囲気で、太陽の光を浴びて輝く氷雪は果てしなく美しい。

 枝に軽く触れたら、重なり合った氷雪がシャラリと、澄んだ音を鳴らす。


「綺麗だね」

「ああ」

『でっしょ~~』


 背後から突然声が聞こえ、ぎょっとしながら振り返る。

 雪の大精霊様だった。


「お、お久しぶりです」

『ええ、相変わらず、あなたは能天気そうね』

「お、おかげさまで……」


 冬毛になったばかりなのか、凄くフワフワモコモコな姿だった。叶うならば、顔を埋めたい。実行に移した瞬間、吹雪が発生しそうだけれど。


『そういえば、あなた達、結婚したんですって』

「はい」

『おめでとう』

「ありがとうございます」


 雪の大精霊様の祠に、祝賀会の招待状を村長が届けてくれていたらしい。当日、参加はしなかったみたいだけれど、招待状はきちんと読んでくれていたみたいだ。


『お祝いに、雪を降らせておいたから』

「うわあ、嬉しいなあ……」


 鼠妖精ラ・フェアリの村ではいつもより早い雪だとチュチュが話していたけれど、まさかお祝いで降らせていたものだったとは。

 子ども達が嬉しそうに雪遊びをしていた姿を思い出し、ほっこりとなる。


『他にも、お祝いをしてあげようかと思っているんだけど』


 その瞬間、私とアルフレートは視線を合わせる。

 きっと、考えていることは同じだろう。


「エルフリーデ」

「うん」


 私達はあることを願う。

 それは、メーガスの首輪を取ってもらうこと。


『それって、お祝いでもなんでもないじゃない』

「でも、それが一番嬉しいです!」

『大きな雪だるまが欲しいとか、雪の家が欲しいとか、そういうのじゃなくてもいいの?』


 な、なんだろう。そのメルヘンチックな贈り物は。

 横にいるアルフレートより、それを欲しがっているのではないよな? という疑惑の視線が集まる。ぶんぶんと首を振って否定しておいた。


師匠せんせいの首輪外しでお願いします」

『わかったわ』


 メーガスの首輪はなんとかなりそう。よかったと、安堵の息を吐く。

 雪だるまと雪の家は、アルフレートが魔法で作ってくれた。

 雪じゃなくて、よくみたら氷だったけどね。


▼notice▼


雪宝石の森

白銀のカーテンとも呼ばれている。

美しい森は、雪の大精霊の地味な努力で作られており、村人が感嘆する様子を見て、木の陰からニヤニヤしている。

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