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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第八十話 ついに――結婚式!

 アルフレートやホラーツ、お義母様は私がショックを受けないように、隠したほうがいいと決めた。けれど、アルフレートは嘘を吐けなかった。


 魔神は、私を花嫁と呼んでいた。あれが事実だとしたら、ゾッとする。


「まさか、私がここの時代にいるから、魔神もついてきちゃったとか?」

「それは違う。中位魔物出現の事件は、随分と前から頻発していた」

「でも、無関係じゃないよね」

「関係ない」

「……」


 責任を感じて、胸を抑えていればアルフレートに引き寄せられ、強く抱きしめられる。

 ぴったりと密着すれば、アルフレートの動揺が魔力を通して痛いほど伝わってきた。


「だから、元の時代に帰そうとしたのに――」

「え?」

「爺が言っていたのだ。神杯エリクシルを持つエルフリーデのことを、狙う可能性が高いと」

「そっか、そうだったんだ。アルフレートの言った遠く離れていても私が笑顔なら幸せって話がちょっと理解できなかったんだけど、もしかして、それを隠そうとしていたとか?」

「それもあるし、本心でもある。家族は、誰にでもなれるわけではないから……」

「……うん」


 幼い頃、心のよりどころだった母親と引き離され、さらに、その原因だと陰で囁かれたことは、アルフレートの中の大きな傷として残っている。だから、家族の大切さを痛感し、私を元の時代に帰そうとしてくれたのだろう。


「元の時代に帰れって、アルフレートから言われるの、結構衝撃だったんだけどね」

「複雑な気分であったとは言っておく。その辺も、爺と寝ないで話し合った」

「だから、目の下クマがあったんだ」

「今もだろう」


 うん。アルフレート、とっても疲れた顔してる。今から結婚式をする幸せいっぱいの新郎には見えない。だから、いつも以上に顔が怖かったのか。


「この先も、先ほどと同じようなことが起こりかねない」


 それは、とても怖いことだ。途方もない暗闇を思い出し、震える。

 アルフレートは私の背を、優しく撫でてくれた。


「渡すものか」


 そんな力強い言葉と、抱擁のぬくもりを感じていると、不安もはらはらと落ちていく。

 じっと視線を交わし、口付けをする。

 心のモヤモヤはすべてなくなった。憑き物が払われるようだと思う。


「二度と、離れてはいけない。そのためには、結婚をしなければ」

「そうだね」


 話のオチがついたところで、扉が叩かれる。どうやら、挙式の時間になったようだ。


「うわ、大変!」

「どうした?」

「口紅が!」


 慌ててテーブルの上のナプキンを手に取り、アルフレートの唇を拭く。これで証拠隠滅……にはならない。私の口紅も落ちているだろうから。


 チュチュかドリスを呼んでもらうように頼み込む。

 開始前にバタバタして申し訳ないと思った。


 ◇◇◇


 挙式はありえないほど心臓がバクバクしていた。

 礼拝堂にはたくさんの参列者がいて、緊張でステンドグラスの美しさに感動している余裕なんてなかった。

 途中、チュチュとドリスを発見して、ホッとできたけれど。けれど、そのあとすぐに国王陛下を見つけてしまい、さらに目も合ったので心臓は口からでてきていたと思う。


 そんな状態だったから、神父さんのお話なんてほとんど耳に入らなくて。


 誓いの口付けはそっと軽く。

 それでも、参列者に見られるのは大変恥ずかしい。

 厳かな儀式なんだと言い聞かせても、照れのほうが勝ってしまう。


 そんな感じで、挙式は終了した。滞りはなかったと思いたい。

 次に、披露宴を行う宮殿へ移動。始まる前に、国民への報告会が行われるらしい。

 案内された部屋に行き、バルコニーにでたら、たくさんの人が迎えてくれた。

 顔をだした瞬間、ワッと歓声が。


「アルフレート、大人気だね」

「王族だから騒いでいるだけだろう」

「またまた~、ご謙遜を!」


 頑張っているアルフレートのことを、みんな知っているに違いない。

 それにしても、こんなたくさんの人に結婚を祝福してもらえるなんて、嬉しい!

 夢中になって両手で手を振り返したら、危うくバルコニーで転倒しそうになった。

 部屋に引っ込んだあと、アルフレートに説教されてしまったのは言うまでもない。


 披露宴では必死になって練習したダンスを実践することになる。

 実は、忙し過ぎてアルフレートと合わせる時間もなく、ぶっつけ本番となった。

 楽団の演奏と共に優雅な会釈。

 ドレス、すごく重たくて、足が悲鳴をあげているけれど。

 白鳥は湖の中の頑張りを外に見せない。それと同じで、辛い気持ちは押し隠し、微笑みを浮かべる。半笑いか苦笑いになってそうだけど。

 アルフレートは涼しい顔をして踊っている。ステップも完璧だ。

 私はくるくると回る度に、偉いおじさん達を発見してしまい、冷や汗タラタラだった。

 なんとかやりきる。

 そのあとはたくさんの人に囲まれて、挨拶と祝福の言葉を受けた。

 今回こそは顔と名前を覚えようとしたけれど、十組目あたりから無理だった。

 アルフレートの抜群の記憶力に期待したい。

 披露宴は三時間ほどで終了。

 控室に戻り、ドレスを脱ぐ。矯正下着コルセットを外し、化粧を落とした時の開放感がなんとも言えない。お風呂が用意されていて、ホッとひと息吐くことができた。

 今晩はここの宮殿で一泊かと思いきや、ドレスを着せられてアルフレートの離宮へ帰る。


「眠たいよ~」

「帰るまで一時間はかかる。寝ているといい」

「……だ、大丈夫」


 二人きりだったら「わ~い」とか言ってアルフレートの膝枕を借りているけれど、目の前にはお義母様が……。あと、ホラーツもいる。

 なんだろう、この、見張られている感は。まあ、いいか。


 離宮に帰れば、チュチュとドリスが寝間着を着せてくれた。

 なんと、結婚式の晩に着る専用の寝間着があるらしい。なんでも、その服はボタンなどなく、背中を直接縫うのだ。背中でチクチクされるのはドキドキする。チュチュのお仕事なので、うっかり肌を刺してしまった、なんてことはありえないけれど。

 ものの数分で完成となった。

 真っ白い寝間着で、レースがふんだんに使われており、可愛らしい意匠デザインだ。

 脱がす時は、前の編まれたリボンを解くことになる。面倒な服だと思った。


「ついに来たか……」


 窓際に立っていたお義母様が、ぽつりと呟く。どうやら、雹が降りだした模様。なんというタイミングなのか。

 私はアルフレートのいる寝室へと急ぐ。


 はしたないのは承知の上。

 寝間着の裾を掴み、駆けていった。

 寝室の扉をバンと開く。

 アルフレートは寝台の上で身を縮めていた。


「アルフレート!」


 薄暗い部屋の中、アルフレートは額に玉の汗を浮かべ、苦しんでいた。

 傍に寄り、背中を摩る。


 アルフレートの魔力生成の条件は、雹が降る日。つまり、今この瞬間なのだ。

 横になっている体をごろんと仰向けにして、申し訳ないと思いつつも、お腹の辺りに跨らせていただく。

 アルフレートの頬を両手で包み、口付けをした。

 じっくりと、時間をかけて魔力を吸い取る。


 強張っていた様子から、力が抜けたように感じる。

 少しは楽になったのか。


「ねえ、大丈夫?」

「ああ、すまない……苦しみは、薄くなった」

「そっか」


 返事をしつつ、アルフレートの上から退いて、隣に寝転がる。

 ぴったりと身を寄せて、瞼を閉じた。今日はこのまま寝よう。

 そう決心したけれど――ダメだ、このまま眠れそうにない。


 またしても、私はアルフレートの魔力をいただくことによって酩酊状態となっていた。

 むくりと起き上がり、息を整えている旦那様となった人を見下ろす。


「エルフリーデ、どうし――うわ!」


 良いではないか~良いではないかと言いながら、アルフレートの服を脱がす。

 落ち着けとか、正気に戻れとか聞こえたけれど、止まらなかった。


 しかし、想定外な事態となる。


 アルフレートの魔力を摂取すればするほど酔っ払ってしまい、最終的にはべろんべろんな状態になって身動きもままらなくなってしまう。

 その時になれば、アルフレートは魔力量もほどよくなり、健康状態になる。

 あっという間に立場が逆転してしまうのだ。


「さてと、どうしようか?」

「あ、あの、どうぞ、お手柔らかに……」


 完全に想定外であった。


▼notice▼


初夜寝間着

ブリゼール妃が用意する予定であったが、手先が不器用で(以下略)

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