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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十九話 結婚式――だけれど大事件

 アルフレートに一緒に寝ようと誘ってみたけれど、全力でお断りされてしまった。なぜなのか!

 ブリゼール妃は好きにしてもいいと言っていたのに、いろいろと抵抗してくれるアルフレート氏。本気で嫌がっていたので、添い寝してもらうことは諦めた。

 代わりに、チュチュに一緒に寝て欲しいと頼み込んだら、了承してくれたのだ。

 恐れ多いとか言っていたけれど、そんなことはぜんぜんない。

 遠慮をして、私から遠い位置に横たわる謙虚なチュチュ。

 良いではないか~良いではないかと小さな体を引き寄せ、眠った。

 緊張しているのか、体がピーンと伸びていたけれど、モフモフと頭を撫でていたら、リラックスしてくれた。

 寒かったので、抱きしめれば、その、なんていうか、すごくモフモフで……。

 我が人生に悔いなし! と思ったのだった。


 翌朝、ブリゼール妃は笑顔で私を迎えてくれた。


「元気そうでよかったぞ。息子の身を捧げただけある」

「ありがとうございました、とっても……よかったです」


 私達の会話を聞いていたアルフレートは、またしても水を気管に引っかけていたようだ。

 執事のおじさんが優しく背中を摩っている。


「それよりも、お主らはいつ結婚する?」

「え~っと、なるべく早いほうがいいかなと」

「そうだな」


 雹が降る前に、なんとか終わらせたい。少しでも長く傍にいて、備えなければ。


 魔導研究局の忙しさのピークは過ぎたようだった。

 現在は魔王対策に追われている。

 王都には魔物避けの砦があり、いくつか魔法の仕掛けがある。それが使えるか、使えないか確認して回った。


 同時に、結婚式の準備も始まった。

 王族の結婚ということで、大々的に行うとか。今から緊張してしまう。

 初めは身内だけでひっそりしたいと思っていたが、王族の結婚は国民の楽しみでもあると聞いたので、協力することにした。


 招待状書きに、ダンスレッスンをしたり、優雅な身のこなしを習ったりなど、やらなければならないことは山積みであった。


 アルフレートに恥をかかせないために、頑張らなければ。


 さらに、師匠メーガス召喚計画も進められた。

 魔法陣を作成し、条件を書いていく。中心に、メーガスと蜂蜜を使って書いた。

 条件は私と同じ。もしも、困っている状態にあれば、ここに来るようになっている。

 健康で元気に暮らしていればいいけれど、最後に見た姿は神官に取り押さえられているところだった。多分、良い待遇を受けていないだろう。

 助けることができたらいいなと思う。

 そのために、万全を期すつもりだった。


 ◇◇◇


 あっという間に結婚式の当日を迎えた。

 ふんわりとボリュームのあるドレスは素晴らしく可愛い。レースもリボンもたくさん飾りつけられていて、見るたびにうっとりとなる。

 朝から、侍女さん達と格闘して、身支度を整えたのだ。長い戦いだった……。

 純白のドレスを纏い、花嫁のヴェールを被る。

 心を落ちつかせるように息を吸い込んで吐いていたが、あまり効果はない。


「なんとか間に合ったな」


 なぜか、窓の外を見ながら呟くブリゼール妃、ではなくて、お義母様。

 空色のドレスを纏っているが、花嫁より綺麗だとか反則だろう。


「挙式は、早く切り上げたほうがいいだろう」

「それは――」


 ひゅうと、外では強い風が吹いている。

 空は曇天。すぐにでも雨か雪が降りそうな雰囲気だ。

 もしかして、今日、雹が降る?


「あの、おかあ――」


 振り向けば、そこは闇の中だった。


「え、何? ここ、どこ」


 王宮の控室にいたのに、周囲は真っ暗になっていた。

 お義母様は? 侍女さんもいないの?


 ――花嫁、ワタシノ、花嫁……エルフリーデ!


 背後より聞こえるしわがれた声に、ぞっとする。

 振り向いてはいけないと思った。

 ドレスの裾を掴み、先の見えない空間を走る。


 懸命に駆けながら、師匠メーガスの言葉を思い出した。


 ――『いいか、エルフリーデ。魔導教会の信仰する魔神の正体は闇だ。もしも呑み込まれた時、決して、振り向いてはいけない。闇と同化してしまうから』


 もしかして、魔神のお迎えってやつ?

 なんだ、なんなんだ~~!! この野郎!!

 これって、魔神のいる空間に呑み込まれたという認識でいいのか。

 結婚式の日にこんな目に遭うなんて、不幸にもほどがある。


 炎狼フロガ・ヴォルクを呼んでみたけれどこない。

 杖の転移術もできなかった。


 魔法も、具現化できない。

 動揺から、集中力が落ちているだけかもしれないけれど。


 走って、走って、走って、ひたすら走った。


 尽きない闇。背後から追ってくるナニ・・か。正体なんて考えたくもない。

 息も絶え絶えになりながら、必死になって逃げる。


 せっかくの婚礼衣装も、汗でびっしょり。どうしてくれるんだ。


 それにしても、魔導教会とはなんだったのか?

 世界中から魔法使いを集めて、王族や貴族相手に商売をする小さな箱庭のような場所。

 神官に首輪をつけて、魔力を奪い――魔神復活を目論んでいた?

 そうだとしたら、その悪事に手を貸していたことになる。

 ぞっとした。


 私は、魔神に攫われてしまったのだろう。

 不覚だ。


 左指の薬指に輝く青い光をチラリと見る。


 結局、急な結婚だったので、指輪とか間に合わなかった。なので、羊獣人の村で買ってもらった品が結婚指輪となっている。

 昨日、アルフレートに魔力を込めてもらったので、水晶は綺麗な青に染まっていた。


「――ん?」


 指輪の青がバチっと弾けたように見えた。気のせい?

 余所見をしたまま走っていたので、転倒してしまった。

 もう、体力も限界だったのかもしれない。

 ゼエハアと肩で息をして、ぎゅっと身を縮める。

 ぞわりと背筋に悪寒が走り、悲鳴を呑み込んだ。

 何かが、左の足を引っ張っていたのだ。

 抵抗する元気なんて、残っていない。

 けれど、悲観はしていなかった。

 なぜかと言えば、指輪から発する魔力に守られているような気がしたからだ。

 パチパチと、点滅していた。指輪が光っているのだ。


「アルフレート……助けて」


 その刹那、指輪が発光し、暗闇は青に包まれる。

 闇は凍り、パキンと音が鳴ってヒビが入ると、パラパラと崩れていく。


「エルフリーデ!」

「!?」


 青い光に包まれたかと思えば、景色がくるりと変わった。

 ガバリと起き上がる。目の前には、怖い顔のアルフレートの顔が。

 どうやら、私はアルフレートの膝枕で眠っていた模様。

 え、何このご褒美。いやいや、それよりも。


「怖っ!!」

「何がだ。何がいる!?」

「あ、ごめん。アルフレートの顔が怖かったって話」

「なんだと!?」


 怖かった顔がさらに怖くなる。

 半笑いで謝りつつ、周囲を見渡した。ここは、さっきまでいた控室だ。


「いきなり倒れたと母上から聞いて、心配した」

「あ、そうなんだ……」


 だったら、さっきのは夢?

 妙に現実味があって、今もドキドキしている。


「医者は疲労だと言っていた」

「そっか」


 魔神に囚われそうになったことが夢でよかった。あれが現実ならば、恐ろし過ぎる。

 連日の結婚式の準備で疲れていたのだろう。

 お休みをたくさんもらったので、ゆっくりしようと思う。


 結婚式は中止にしようと思うとアルフレートは言っていたけれど、集まってくれる人もいるし、国民も顔見せを楽しみにしている。


「大丈夫だから、ちゃっちゃと終わらせよう」

「しばらく休んだほうがいいと思うが」

「平気平気!」


 立ち上がって健康をアピール。


「うわ!!」

「どうした!?」

「アルフレート、すっごくかっこいい!! これぞ、正統派王子様って感じ」

「……」


 はあと、盛大な溜息を吐かれる。褒めたのに、なぜ。

 でも、正装姿のアルフレートってば、本当に素敵。こんな人が旦那様になってくれるなんて夢みたい。


「倒れたと聞いて、死ぬほど驚いたのに……」

「いつも通りの私だから脱力?」

「いや、脱力を通り越して――」


 顔を両手で覆うアルフレート。そのまま動かなくなった。

 ちょっと様子がおかしい。

 もしかしなくても、泣いてる? 気のせい?

 いつもと違う反応をまえに、ある恐ろしい憶測が脳内に過り――口にした。


「もしかして、私、本当に誘拐されてた?」


 アルフレートは私の質問に答えない。

▼notice▼


エルフリーデの婚礼衣装

ブリゼール妃とサリアの合作。

裁縫が苦手なブリゼール妃は苦戦。

こっそり持ち帰り、息子に泣きつく。結局、アルフレートがほとんど縫った。

エルフリーデは知る由もない。

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