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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十七話 衝撃――そして、衝撃

 会議のあと、個室へと連れ込まれてしまった。


「あの、アルフレート……」

「エルフリーデ、頼むから、召喚のことは言わないでくれ」

「え、なんで?」

「周囲が勇者だと、勘違いしてしまうだろう」

「まあ、そうだけどね」


 確かに、勇者だと期待されても困る。私の魔法なんて、スイメール妃に憑りついた魔物が跳ね返す程度なのに。魔王など倒せる力などないのだ。


 アルフレートは私が勇者だと名乗り、周囲の期待を浴びてしまうのが心配なのかもしれない。全国民、全世界の希望を背負うなんて恐ろし過ぎる。言わないので安心してほしい。

 窓の近くでウロウロ歩き回るアルフレートを捕獲し、背中から抱きついた。


「アルフレート、大丈夫だからね」


 手を握って宣言すれば、そっと指先を重ねてくれた。

 もう落ち着いただろうか。

 一度離れて、正面に回り込む。

 アルフレートは、いまだ思いつめたような顔をしていた。


「エルフリーデ」

「何かな?」

「まとまった休日をもらっている。だから、御両親に挨拶に行きたい」

「わ~お!」


 何を考えているのかと思いきや、私の両親への顔合わせについてだったか。

 まあ、そろそろいいかなと、決心もついている。だから――


「ありがとう、アルフレート。嬉しい」


 アルフレートは私の手を握り、盛大な溜息を吐く。どうやら、まだ早いと言われるかと不安に思っていたらしい。


「了承を得たら、すぐに結婚しよう」

「え、早くない?」

「なん、だと……!?」


 挨拶くらいならいいけれど、結婚は……。そんなコメントをすれば、アルフレートは目を見開いて信じられないという表情を浮かべた。


「いや、私だって今すぐアルフレートと結婚したいよ! ずっとイチャイチャしたいし、もふもふだってしたい!」


 でも、花嫁道具的な、ドレスとか、持参金的な物とかぜんぜん用意できていない。

 どれだけ働いてお金を稼いだら揃うのかわからないけれど。


「いや、そんな物必要ない。身一つでいい」

「そういうわけにもいかないでしょう」

「エルフリーデの準備を待っていたら、あっという間に人生終わってしまう」

「さすがにそこまでかからないよ」

「とにかく、それについては心配しなくてもいい」

「う~ん」


 曖昧な態度でやり過ごそうと思っていたのに、ガシっと肩を掴まれる。

 じっと顔を見つめられ、冷や汗をかいた。これは、とっても怖い顔。夢にでてきそうだ。


「ア、アルフレートの、言う通りにします」

「わかればいい」


 やっと解放された。ふうと安堵の息を吐きだす。


「ところで、エルフリーデの実家の場所なのだが」

「あ、地図とかあれば説明できるけれど」


 残念ながらここの部屋にはない。けれど、アルフレートが紙に書いてくれるらしい。

 素晴らしいことに、何も見なくても手書きで世界地図を書いてくれた。


「ここが、我が国の領土」

「え!?」

「どうした?」

「小さくない?」

「いや、そんなことはない」

「でも、私が習ったこの国の領土は……」


 魔導神殿で習った記憶を頼りに、この国の領土を指先で囲む。


「これくらい、だったと思うけれど」

「その部分は他の国だ」

「ええ~~」


 記憶違いだと思いたいけれど、世界情勢については厳しく叩き込まれた。なので、はっきりと覚えている。


「それで、エルフリーデの村はどのあたりなんだ?」

「え~っと、この辺?」

「そこは森だ。それに、その辺りは国も何もない」

「嘘……?」

「嘘を言ってどうする」

「だ、だよね」


 とある可能性が頭に浮かび、指先が震える。

 気のせいでありたいと思った。


「エルフリーデ、どうした?」

「あ、その……」


 さすがに様子がおかしいと気づかれてしまった。具合でも悪いのかと聞かれたけれど、首を横に振るしかない。


「アルフレート……」


 声が震えてしまった。全身に鳥肌も立っている。

 言いたくない。でも、言わなくちゃ。こんなこと、私一人では抱えきれない。アルフレートには悪いけれど。勇気を振り絞り、言葉にする。


「えっと……その……多分、私はこの時代の過去か未来から、来たんだと、思う」


 シンと静まり返る室内。アルフレートもびっくりしていた。

 信じられないことなのはわかっている。私も、自分で何を言っているんだと思うくらいだ。けれど、地図の情報を確認する限りは、そうとしか言いようがない。

 すぐに受け入れられる話でもないだろう。もう少し検証しなければと考えていれば、アルフレートは「大丈夫だ」と言って私の頭を撫でてくれる。


「信じてくれるの?」

「こんな途方もない嘘など吐かないだろう」

「そうだけど」

「ホラーツを呼んでくる」

「ごめん……」


 ホラーツならば何か知っているかもしれない。

 わからないことを整理して、一つ一つ、謎を紐解いていかなければと思った。


 ◇◇◇


『申し訳ありませんでした!!』


 説明が終わるなり、ホラーツは床に額をつけて謝る。

 なんでも、私の召喚条件の中に過去、現在、未来のすべてと書き込んでいたらしい。

 その事実を知りながら、今まで隠していたと。


「爺、今回ばかりは許されることではない」

『は、はい……この身を捧げることで許されるのであれば』

「私も責任を取る。爺だけ散らすわけにはいかない」

『ア、アルフレート様……!』

「いやいやいや!!」


 怖い会話をしている二人を止める。

 なんでも、私は未来の世界からやってきたらしい。しかも、百年や二百年先どころではないとか。


『本当に、なんと謝ればいいのか』

「もう、過ぎたことだから」


 突然の発覚でまだ受け入れることができないのかもしれない。

 いろいろと、考える時間がほしいと思った。


「エルフリーデ。私達は、しばらく距離を置いたほうが、いいのかもしれない」

「なんで?」

「憎たらしいと思わないのか?」

「ぜんぜん。だから、気に病まないで。ホラーツも」

『エルフリーデ様……!』


 ボロボロと涙を流すホラーツ。可哀想になって、袖で拭ってあげた。


「私は、ホラーツが召喚してくれなかったら、死んでいたし、それに、ここでアルフレートやみんなに会えたから、嬉しかった。家族や師匠メーガスに会えないことは……ごめん。まだ、気持ちの整理がついていないから、何も言えないけれど」

『そう、ですよね。これでは、誘拐と変わりません』

「いやいや、そんなことないって!」


 いつか家族と会って話せるものだと思い込んでいたから、今はびっくりしているだけ。

 その辺の問題に関しては、すっきり整理するまでもう少し時間がかかると思う。


「だから……一緒に悩んで欲しい」


 アルフレートとホラーツの手を取り、お願いをした。

 二人共ポカンとしている。


「ダメ?」

「いや、そんなことは、ない」

『精一杯、努めさせていただきます』

「よかった」


 わからないことは皆で考えればいいのだ。

 時間がかかっても、じっくり納得するまで話し合いたいと思った。


 ◇◇◇


 衝撃の事実が発覚してから一週間経った。

 今日はなんと、アルフレートの離宮にお泊りの許可が下りたのだ。

 王都にきて初めての外泊である。嫁入り前の娘がと呆れられてしまいそうだけれど、リチャード殿下やサリアさんは「楽しんできてほしい」と笑顔で送りだしてくれた。

 馬車での移動中、チュチュが悲しそうな顔をしていたので、どうかしたのかと聞いてみれば、私の元気がなかったので心配していたらしい。

 無意識だった。いつも通りにしていたつもりだったけれど。

 それだけ、ショックだったんだろうと思う。ずっと、遠く離れた国に召喚されたと思い込んでいたのが、実は違いましたとかなかなか受け入れられないだろう。

 離宮に到着すれば、ブリゼール妃は私の体をむぎゅっとする。黙って、背中を撫でてくれた。

 アルフレートから事情を聴いたのだろう。ただただ、優しく、抱きしめてくれた。

 一瞬、バチンと弾かれて痛かったけどね。私達、魔力の相性がすこぶる悪い。

 けれど、嬉しかった。小さい頃、母もこうやって抱きしめてくれたのだ。

 故郷の記憶を蘇らせてしまい、泣いてしまった。

 私はずっと強がっていたのだと、この時になって気づいたのだ。


 夕食後、ブリゼール妃が素敵なことを言ってくれる。今宵、アルフレートのことは好きにしてもいいと。

 お母様の突然の発言を聞き、飲んでいた水を気管に引っかけ、噎せるアルフレート。

 背中を摩って心配していたけれど、まさかの提案に顔がにやけていたのは言うまでもない。


 さて、何をしようかな~~?


▼notice▼


アルフレートの身柄

だいたい母上が握っている。

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