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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十五話 氷解――明らかとなる謎

 絹のような金の髪をなびかせる美女は、おろおろするばかりの私を見て、目を細める。

 腕の中のメルヴは眠っているようだった。ひとまず、ホッとひと安心。

 しかし、こちらの美しいお方は、もしかしなくても――。


「娘、近う寄れ」

「あ、はい」


 何用かと思えば、メルヴを手渡された。

 一瞬触れた指先は、驚くほど冷たい。同時に、バチンと音が鳴る。その衝撃に、メルヴを落としそうになった。


「やはり、お主とは相性が悪い」


 みたいですね。

 魔力と魔力が反発している。炎と氷は元より相性が悪いのだ。

 そんなことよりも、気になることがある。


「あ、あの……」

「なんだ?」


 氷のような冷たい視線を向けられ、背筋がぞくっとする。

 凄まじい美貌と魔力の圧力に「なんでもないです」と言いたくなる。

 なんとか堪えて、聞いてみることにした。


「アルフレートの、お母さんです、よね?」

「然り」


 やっぱり。目の前におわす美しい御方はアルフレートのお母さん、ブリゼール妃だったのだ。でも、どうしてここに? 氷の中に囚われていたのでは?


 でも、それを聞く前に、スイメール妃をどうにかしなくては。このまま、凍らせた状態で放置することもできないだろう。それに、皆の状態も気になる。


「メルヴ、ごめん、起きて!」

『ンン……』


 背中をポンポンと叩けば、メルヴは目を覚ます。壊れたテーブル、捲れ上がった床、裂かれたカーテンなど、周囲の状況を目の当たりにして、驚いていた。


『アッ、アル様! 猫サンモ!』

「ごめん、葉っぱ、もらってもいい?」

『ウン、メルヴノ葉ッパ、使ッテ!』


 私はホラーツの元に行き、メルヴはアルフレートの元へ。

 契約関係にあるメルヴならば、近づいても問題はないだろう。

 幸いにも、ホラーツは無傷だった。酷い攻撃を受けているように見えて、きちんと防御魔法は展開させていた模様。魔力を大量消費したので、今まで動けなかったらしい。


「大丈夫、ホラーツ?」

『はい、お陰様で。しかし、凄いですね、メルヴさんの葉は』

「うん、そうだね」


 その効果は、私も十分に知っているのだ。

 チラリとアルフレートのほうを見る。

 メルヴはアルフレートの口に、ぐいぐいと葉っぱを詰め込んでいた。大丈夫かな、あれ……。


 ブリゼール妃は、険しい表情で氷漬けとなったスイメール妃を見上げている。

 二人の間に、いったい何が起こったのか。


『ア、アル様~~!』


 嬉しそうに万歳するメルヴ。どうやらアルフレートが復活した模様。

 起き上がって、メルヴの頭を撫でている。

 そして、私のほうを見てくれた。目が合い、ドクンと胸が高鳴る。

 近づいても大丈夫かとホラーツを見れば、コクリと頷く。どうやら問題ないらしい。


「アルフレート~~!!」

「!?」


 走って近づく私を見て、ぎょっとするアルフレート。

 そのまま抱きついて、頬を寄せる。メルヴも真似て、ヒシっと抱きついていた。


「おい、まだ終わっていないだろう」

「そうだけど~~!」

『アル様、ヨカッタ~~!』


 メルヴが『クシュン』とくしゃみをした。気づけば、部屋の温度がぐっと下がっているような。それに、背中に何かチクチク刺さっている気がする。

 振り返れば、ブリゼール妃がこちらを睨んでいたのだ。

 息子に抱きつく謎の女――心穏やかなわけがない。慌てて離れ、頭を下げる。

 アルフレートは、この時になってブリゼール妃の存在に気づいた。

 立ち上がり、一歩、一歩と近づいていく。


 ブリゼール妃は、アルフレートの接近を手で制す。


「母上?」

「話はあとだ。息子よ」

「!」


 その瞬間、スイメール妃を閉じ込めていた氷にヒビが入った。割れたガラスのように散り散りとなる。


 スイメール妃は全身を覆っていた氷を振り払い、羽を広げて跳び上がる。


『グルオオオオオオオ!!!!!』


 耳を突き破るような激しい咆哮。頭がくらくらしてしまう。

 スイメール妃は先ほどよりも興奮しているようだった。

 目標は、ブリゼール妃一点に集中している。

 腕を振り上げ、長い爪で裂こうと接近していたが、突然現れた壁が攻撃を遮る。

 よくよく見れば壁ではなくて、床に敷かれていた大理石でできたゴーレム。ホラーツの魔法だ。

 天井に向かって掲げられたゴーレムの左手に、私は炎を纏わせる。続いて、アルフレートも右手に氷を纏わせた。

 魔法を宿したゴーレムの拳は、続けざまに打撃を与える。

 スイメール妃は地面に叩きつけられ、動かなくなった。 


 ゴーレムは馬乗りとなり、バリバリと、魔物の皮を剥いでいく。


「ひえっ……!」


 顔を覆う前に、アルフレートが私の肩を寄せ、抱きしめてくれた。

 上着に顔を埋め、目の前の光景から目を逸らす。


 ホラーツが『もう大丈夫です』と教えてくれた。

 アルフレートから離れれば、ゴーレムの姿はすでにない。

 床に倒れるスイメール妃の姿と、それを無表情で見下ろすブリゼール妃の姿があった。


「メルヴ、頼みがある」

『ウン?』

「スイメール妃のために、葉を分けてくれるだろうか?」

『イイヨ!』


 もう憑いていた魔物は倒したので、問題はないとのこと。

 メルヴの葉を食べたスイメール妃は顔色が良くなり、すぐに目覚めた。


「ここは――?」


 その問いかけに、ブリゼール妃が答える。


「地獄だ」

「!」


 ブリゼール妃の発言にハッと身を震わせ、起き上がるスイメール妃。その姿を目の当たりにすれば、悲鳴をあげていた。

 そこで、騎士達が部屋に入ってくる。

 荒れ果てた部屋を見て驚き、さらに、入れた覚えのないブリゼール妃を見て顔を強張らせていた。


「娘よ、人を呼べ。なるべく、偉い地位の者を」


 ブリゼール妃は騎士に命じる。

 アルフレートも続いて「頼む」と願った。


 騎士達は姿勢を正し、敬礼をすると部屋をでて行った。


 ◇◇◇


 部屋には、国王陛下、王太子様、リチャード殿下、アルフレート、スイメール妃にブリゼール妃と、錚々そうそうたるメンバーが集まっていた。


 そこで、ブリゼール妃は事のなりゆきを語りだす。


「この愚かな女は、王妃亡きあとの座に、私が収まると勘違いをしておったのだ」


 当時、一番美しく、聡明だったというブリゼール妃を、次期王妃にと望む一派があったらしい。国王も噂を否定しなかったことから、話は大きくなって真実味を増してしまったのだ。

 第二妃の位にあったスイメール妃は、面白くないどころか、恨めしく思っていた。

 ブリゼール妃が王妃の座に収まれば、息子の継承権も下がってしまう。以前よりライバル視もしていたので、憎しみは募るばかりだった。


 このままではいけない。

 そう思ったスイメール妃は、古い魔法書で魔物召喚の記述を見つける。

 自分の手を染めたくなかった彼女は、ブリゼール妃は魔物に殺されたことにしようと、禁じられた術式を展開させてしまったのだ。


「この女の先祖は魔法使いだったらしい。まさか、その身に魔物を憑かせてやってくるとは、死ぬほど驚いたものよ」


 魔物召喚は失敗した。知識のない素人が簡単に扱えるものではなかったのだ。

 体と精神が魔物と混ざってしまったスイメール妃は、狂った状態で離宮へとやってくる。


「魔物憑きの対処など知る訳もなく、私は愚か者の悪しき力を封じた。自らが、結界の柱となることと引き換えに」


 自ら氷漬けになったわけは、封印のいしずえとするためだったのだ。


 国王様は静かな声で話す。スイメール妃に、これらのことは真実であるか、と。


「……はい、間違いありません」

「左様か」


 国王様が片手を挙げれば、騎士がスイメール妃を拘束する。

 そのまま、連行されて行った。

 この先の話は聞かないほうがいいだろう。そう思い、私も部屋をでる。


 窓の外から朝日が差し込んでいた。そこで、眠気を思い出してしまい、欠伸をする。

 これからどうなるのか。

 でも、ブリゼール妃の氷を解かすことができたし、アルフレートもお母さんと再会できて嬉しいだろう。いろいろと、複雑だろうけれど。


『エルサン……!』


 メルヴは廊下で待っていたようだ。葉っぱのない頭部がなんとも寂しいことに。


「メルヴ、ありがとうね」

『ウン!』


 メルヴを抱き上げ、部屋に戻って蜂蜜水でも飲もうと誘う。


「蜂蜜メレンゲも用意してもらおうか」

『ヤッタ~!』


▼notice▼


魔物召喚

禁術の一つ。どういった理由で生み出され、使われていたかは謎。

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