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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十四話 対決――スイメール妃

 魔物憑きって、そんな~~!!


 スイメール妃は驚愕の変化を遂げる。

 羽根が生え、口は裂け、牙が生えた。白い肌には緑色の鱗が浮かび、獣の咆哮をあげる。

 変化中、周囲には魔法陣が浮かび、ガラスが張ったような結界ができている。

 試しに光球を投げつけたところ、魔法陣に近づく寸前で弾かれた。

 どうやら、強力な結界の模様。


 ホラーツも結界を張り、被害が外部にいかないように防ぐ。アルフレートはメルヴを呼んで戦闘に備えていた。私も、炎狼フロガ・ヴォルクを召喚し、杖を手元に転送して構える。


 念のため筋肉妖精マッスル・フェアリを召喚しようとすれば、術式は弾かれてしまった。

 どうやら、外部との連絡を妨害されているようだ。ホラーツが教えてくれた。炎狼フロガ・ヴォルクやメルヴは近くにいたので召喚できたらしい。

 もう一点、気になることがあったので聞いてみる。


「ね、ねえ、ホラーツ、魔物を倒したら、スイメール妃、元通りになるよね?」

『………………ええ』


 なんだ、今の長い間は。

 戦うのが億劫になってきた。嫌な予感しかしない。

 まだ、間に合う。

 私は目の前に立つアルフレートの服を引っ張った。


「ね、ねえ、アルフレート……」

「心配はいらない」

「え?」

「いろいろと、覚悟はできている」


 そんな決意を聞いてしまえば、これから言おうとしていたことも口にできなくなる。

 この状況をどうにかするには、魔法で倒すしかない。でも、そうすれば、スイメール妃はよくて大怪我。きっと、関わった私達は罪人扱いを受けるだろう。アルフレートだけでも別の場所へ移動したほうがいいと思ったけれど、覚悟はできていると言われてしまった。それを、止めることはできない。


 変化が完了したスイメール妃は、想定外の行動にでる。

 自らを取り囲んでいた、魔法陣より浮かぶ透明な結界を叩きだしたのだ。


「あれって、スイメール妃を守っていたものじゃないの?」

『まさか――封印でしょうか!?』

「いったい、誰が?」


 叩けば、結界にヒビが入りだす。

 あれが破れたら、スイメール妃は暴れだすのだろう。

 どうするべきなのか。

 結界の強化ができればいいけれど、他人の術式なので干渉なんかしたら危険だ。

 現状、身動きも取れず、その場に佇むばかりであった。


 スイメール妃がどんどんと結界を叩けば、パリ、パリと、結界が壊れていく。

 もしもでてきたら、戦わなくてはならない。

 心がぎゅっと締めつけられる。せっかく、アルフレートの疑いが晴れそうだったのに。


「エルフリーデ」

「ん?」


 アルフレートは私に背を向けたまま、話しかけてくる。


「大丈夫、悪いようにはならない」

「でも……」

「私は、エルフリーデに出会って、自分にさまざまな可能性があることを知った。今は、第五王子として国のために働いているが、それ以外にも、道があると思っている。安住の地は、一つではない。それに、気づくことができた」

「アルフレート」

「だから、気落ちしないように」


 その言葉に、涙がでそうになる。

 現状を悲観していない強さを、嬉しく思った。


「うん、わかった」


 だったら、私にできることをしよう。

 全力で、アルフレートを支えるのだ。


 結界全体にヒビが入り、今にも壊れそうだ。

 各々、杖を構えていたら、結界が霧散した。と、思いきや?


 私達の目の前に、光の柱が出現する。

 中から現れたのは――小さな子猫。


『アレ、セイチャンダ!』

「え、なんで!?」


 セイは背中の毛を逆立て、『にゃう、にゃう』とスイメール妃に威嚇をしていた。

 結界のヒビが修復されていく。


「私達を、助けようとしてくれているの?」

『しかし、それはあの魔法の術者でないと不可能です』


 他人の魔法に干渉できるのは、聖獣だから? その憶測を、ホラーツが否定する。


『いいえ、どんな生き物であろうと、他の魔法に干渉することなど不可能です』

「爺、ならば、あの封印はセイが作ったとでも?」

『そう考えるほうが自然です』


 セイ、いつの間にスイメール妃に近づいていたのか。

 さっきみたいに、転移術で?


「セイって、よくわからない」

『それは、具体的には?』

「私やアルフレートにだけ懐かないし、この前ブリゼール妃の部屋に行こうとすれば、威嚇されて」

『ふうむ』


 そこで、ハッとなったようになるアルフレート。

 どうしたのかと聞けば、驚きの一言を呟く。


「……母上?」

「え!?」

「母上、でしょうか?」


 セイに向かって、母と呼ぶアルフレート。

 アルフレートの声に反応して、セイが振り向く。


『まさか!?』

「え、何、ぜんぜんわかんな――」


 アルフレートがセイに手を伸ばす。が、突然パアンと何かが弾けたような音が鳴る。


『グルオオオオオオオ!!!!!』

「うっわ!」

『にゃう~~~~!!!!』


 状況は悪化。

 結界が壊れた。そして、セイが……。


『セイチャ~~~ン』


 血を吐いて倒れるセイ。メルヴが駆け寄る。


『セイチャン、セイチャン、メルヴノ、葉ッパ……!』

「メルヴ、危ない!」


 羽の力で浮上し、鋭い爪先を振り上げながら飛んでくるスイメール妃。目標は――アルフレートとメルヴ。

 アルフレートがメルヴに腕を伸ばし、頭の上の葉っぱ掴んで後方に跳ぶ。

 なんとか攻撃は避けられたけれど。


『セイチャ~~~ン!!!!』


 セイは、スイメール妃の爪の餌食となり……。


『ウワ~~ン!!!!』


 ポロポロと、涙を流すメルヴ。アルフレートの体に抱きつき、震えていた。

 今、悲しんでいる余裕はない。

 スイメール妃はこちらに鋭くなった赤い目を向け、舌なめずりをしていた。

 アルフレートはメルヴを、ホラーツの深い頭巾の中へと入れる。

 メルヴはまだ、すんすんと泣いていた。励ましてあげたいけれど、今は我慢。スイメール妃を止めるのが先決だ。


 もはやスイメール妃の面影はなく、羽の生えた蜥蜴のような姿となっていた。

 長い爪や尾、牙などで攻撃してくる。


 とにかく素早くて、皆、攻撃を避けるのでいっぱいいっぱい。欠片も余裕はなかった。

 炎狼フロガ・ヴォルクは途中でスイメール妃の攻撃を受け、身動きが取れなくなってしまった。回復させるため、姿を消しておくように命じる。


『まずい!!』


 叫ぶホラーツ。

 攻撃を避けた時に、フードの中に入れていたメルヴが飛びだしてしまったのだ。


「うわ、メルヴ!」


 孤を描いて、空中を飛んで行くメルヴ。ポテンと落ちた先は、セイの亡骸の近くだった。


『セ、セイチャン……』


 無残な姿となったセイを、メルヴはギュッと抱きしめる。


『セイチャン、ゴメンネ、メルヴ、守レナクテ、ゴメンネ……!』


 止めどなく流れる涙。その雫はセイに降り注ぎ、そして――


「えっ!?」


 メルヴを囲むようにして突然浮かび上がる青い魔法陣。強く発光し、輝いていた。

 その光を受けて、スイメール妃は身動きが取れなくなる。

 隙を見て、アルフレートは魔法を発動させた。


 いまだスイメール妃の首にかけてある宝石の首飾りを媒介として、術式を展開させる。

 チャンスは一度だけの大魔法だ。

 スイメール妃の足元から、凍っていく。

 アルフレートの額から、汗が滴っていた。

 展開させているのは氷漬けの魔法。どうか成功してくれと、願ったが。


 バキンと音が鳴る。足元を凍らせていた氷にヒビが入っていた。

 アルフレートは杖を構えたまま、顔面蒼白状態になっている。今にも倒れそうだ。

 傍に駈け寄ろうとしたけれど、ホラーツに止められてしまう。


『エルリーデ様、危険です』

「でも、アルフレートが!」

『今近寄れば、あなたが氷漬けになりますよ!』

「そんな……」


 どうすることもできないなんて。悔しい。

 メルヴの周囲に展開された魔法も気になる。発光は止まり、現在は淡く光っているばかりだ。


「ホラーツ、メルヴの周囲にあるのは何かわかる?」

『あれは――』


 とうとうバキンと氷が割れてしまった。魔法は失敗。だけど、アルフレートは諦めていなかった。重ねて、同じ魔法をかけようとしている。


『アルフレート様、二度目はなりません!!』


 あの魔法は首飾りの媒介あって成功するものだ。それが壊れてしまった今、自分の魔力だけで発動させるのは、無謀というもの。


「アルフレート、止めて!!」


 叫んだ刹那、アルフレートは血を吐き、地面に膝を突く。

 ゲホゲホを咳き込み、その場に倒れてしまった。恐らく、魔力切れだろう。

 駆け寄っていこうとしたけれど、ホラーツに腕を取られ、遮られてしまった。


「アルフレート!!」

『エルフリーデ様、落ち着いてください。今、近づけば、死にます』


 もう、頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。

 いつの間にかメルヴも、魔法陣の上で倒れている。何があったのか。

 終わった。

 そう思ったその時、突如として咆哮をあげるスイメール妃。

 足元の氷を振り払い、飛び上がる。


 こちらに向かって爪を振り上げてきた。

 私は今日初めての、攻撃系の炎魔法を発動させた。

 倒さなければ、殺される。そう思い、炎の球をスイメール妃に飛ばした。

 これで終わるはず。そう思っていたが……。


『グルオオオオオオオ!!!!!』


 咆哮をあげれば、炎は吹き消されてしまった。

 こんなことってありですか!?


「ま、まさかの、耐魔の高さだ!」

『困りましたね』


 ホラーツにも、焦りが浮かんでいるように見えた。

 攻撃を避けるにも、限界がある。

 そろそろ体力切れを起こしそうだ。


「――あ!」


 逃げ遅れたホラーツが、爪の餌食となる。

 壁に縫いつけられるように抑えつけられ、首筋に噛みつこうとしていたので、杖で殴りに行った。攻撃が止まる。

 ダメ元の一撃だったけれど意外にも、ダメージがあった模様。以前、魔法書で読んだことがあったのだ。耐魔の高い敵には、物理攻撃が有効だと。


『エルフリーデ様、逃げ……!』

「そんなのできないよ!」


 スイメール妃は高く飛び上がり、狙いを定める。

 今度は、私の番だ。

 可能な限り強力な結界を作ってみたけれど、どれくらいの衝撃を耐えてくれるのか。

 術式を作る時間も短いので、自信がない。

 スイメール妃は足を突きだし、私に向かって蹴りを繰りだす。

 結界は攻撃を受け止めた。

 ホッとしたのも束の間、パキンと音が鳴る。やはり、そこまで耐久度はないようだ。

 結界が壊れている様子を目の当たりにする。

 結界は攻撃に耐えきれず、消えてしまった。

 そして、眼前に迫るスイメール妃。

 思わず瞼を閉じる。

 衝撃に備えていたが、何も起きない。

 不思議に思って恐る恐る瞼を開けば――氷漬けになったスイメール妃が。


「まったく、手間をかけさせおって」


 聞こえたのは苛ついた女性の声。

 そちらに目を向ければ、メルヴを腕に抱いた長身の美女の姿が。


 あ、あれは……!


▼notice▼


メルヴの涙

精霊の美しき涙。宝石のように輝く雫が、奇跡を起こす。

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