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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十三話 愕然として――事件に迫る

 スイメール妃は瞬く間に人に囲まれる。とても近づけそうにない。う~む、困った。

 それよりも問題なのは――


「お嬢様、よろしければ私と踊っていただけますか?」

「あ、その、すみません……」


 先ほどからひっきりなしにダンスに誘われるのだ。どうやら夜会という催しは私みたいな者でもチヤホヤされるらしい。なんて恐ろしい場所なんだと思った。


 上手く断れなくて、その度にアルフレートが助けてくれた。

 今も、一人娘を持つお父さんのような険しい顔で、私を視線で追ってくれているに違いない。


 ここでの作戦の実行は無謀だと思った。


 そもそも、上手く接近できたとしても、初対面の者が持って来た酒など飲まないだろう。

 はてさて、どうするか。


 スイメール妃の取り巻きの輪に近づいたけれど、やっぱり凄い人。

 ゆっくり話もできそうにない。


 アルフレートと視線を合わせ、作戦変更を試みる。

 私は個別の更衣室に移動し、ドレスからお仕着せへと着替えた。

 ドリスとメルヴは休憩室で待機をしてもらう。

 移動したのは夜会会場に用意されたスイメール妃の私室。

 もちろん見張りや侍女がいたけれど、アルフレートが偽装して作った入室許可を示せばあっさりと中に入れた。

 部屋のテーブルの上にはお酒や軽食がある。水と酒に、お湯にホラーツ特製の自白剤を混ぜた。


 これで、仕込みは完了。

 あとは、別室で待機。


 二時間後、パチンという音で目が覚める。ドアノブを捻れば結界が壊れるという仕組みを作っていたのだ。

 スイメール妃は私室へ戻ったよう。

 すかさず、正装姿のアルフレートとお仕着せ姿の私は行動を開始する。

 途中で合流したホラーツも共に行動。


 身分のある女性達が宿泊するエリアに足を踏み入れても、誰も止めない。アルフレートが王子様だからだ。顔パスなのである。

 ちなみに、スイメール妃と面会の約束はしていなかった。

 部屋の警護をしている女性騎士に話をすれば、難色を示される。

 約束のない面会は誰であろうと基本お断りだと言われてしまったのだ。

 しかし、そんなことなど想定内である。

 アルフレートは土産があると女性騎士へ伝えた。片手を挙げ、後方にいる私に合図をだす。

 一歩前にでて、絹に包んだ箱を取りだし、蓋を開いて見せた。

 箱の中身は大粒の美しい宝石の首飾り。薄暗い廊下で、淡い青色の輝きを放つ。それが特別な宝石だと気づいた女性騎士は、宝石を借りてもいいかときいてくる。アルフレートは、もちろんだと答えた。


 あれは本物の宝石ではなく、アルフレートが魔法で作った氷の塊である。宝石よりも綺麗なので、偽装できないかと私が提案したのだ。溶けないような魔法も施されているので、バレる心配もない。


 数分後、中に招かれる。スイメール妃もアルフレートの作った宝石を気に入ってくれたようだ。


 先を歩くアルフレートは堂々としていた。

 私は、いろんな噂を聞いたせいで、どうしてもビクビクしてしまう。

 不安から、斜め前を揺らめいているホラーツのふわふわの尻尾を掴みたくなった。


 問題のスイメール妃は、長椅子に優雅に腰かけていた。目の前には、自白剤入りのお酒が。部屋は小さな角灯が点るばかりで薄暗い。

 贈った品物はお気に召したようで、さっそく身に着けていた。


「スイメール妃、お久しぶりです」

「ええ、そうですわね。突然来たので、驚きましたわ」

「不作法とは思いましたが、そうでもしないと会えないので」


 初っ端から雰囲気がピリピリとしていた。

 部屋には侍女などおらず、一人きりであった。共を傍に置いていないなんて不思議に思ったけれど、その方が秘密話はしやすい。

 スイメール妃は何かを探るように、じっとアルフレートを眺めていた。


「この宝石は?」

「母の実家、ストラルドブラグ家に伝わる、精霊石です」

「なるほど。見たことがない宝石だと――で、なぜこれをわたくしに?」

「以前、母が起こした騒動の、お詫びの品です」


 その発言後、目つきが急に鋭くなるスイメール妃。恐ろしや!


 本題に移る前に、アルフレートはテーブルの上の酒を一瞥し、話しかける。


「スイメール妃、まずは乾杯からにしませんか?」

「ええ」


 アルフレートは私に視線で酒を注ぐようにと命じる。正直ガクブル状態だったけれど、頑張って自白剤入りの酒を注いだ。アルフレートは事前に対抗薬を飲んでいるので効果は心配いらない。



「では――何を祝しましょうか?」

「あなたの褒章を祝いましょう。素晴らしい働きに、乾杯」


 杯は軽く掲げられるばかり。スイメール妃は杯の中を一気飲みした。良い飲みっぷりである。私はすかさず二杯目の酒を注ぎ、傍らに自白剤入りの水を注いでおいた。


「それで、何を詫びるつもりで?」

「スイメール妃は、母の事件現場にいたそうで」

「ええ」

「悲惨な騒動に巻き込んでしまい、申し訳なかったなと」


 スイメール妃は優雅な笑みを浮かべ、「よろしくってよ」と尊大な態度で返す。


「けれど、どうして今更このようなことを?」

「今、母の事件について真相を調べていまして、そこで、スイメール妃がその場にいたと知ったものですから」

「ああ、そういうことですの」 


 悲惨な事件だったと語る。


「わたくしもびっくりして、突然、ブリゼール妃が魔法を発動し、氷漬けになってしまったものですから」

「魔法は――母上自身が?」

「ええ、確か、そうだったと」

「騎士団の調査では、私が母を氷漬けにしたことになっていました。証言したのは、その場に居合わせたあなただったのでは?」

「そのほうが――都合がいい・・・・・と思って・・・・


 自白剤はきちんと効いているようだった。

 スイメール妃は、騎士団の調査とまったく違うことを話し始める。


「都合がいいとは?」

「あなたが、ブリゼール妃が氷漬けになったあと、ちょうど部屋にきたので」


 アルフレートは事件現場にいなかったのだ。多分、騒ぎを聞きつけて部屋を覗いたのだろう。

 そこで見たのは、氷漬けとなった母親。なんて悲しい事件なのだと思う。


「なぜ、私のせいにしたのですか?」

「王位継承権……下げるため……」

「王位継承権はあなたのご子息の方が上ですよね?」

「違う……違うっ!!」


 二度目は、悲痛な叫びであった。ポロリと、涙を零している。

 それにしても不思議だ。妃の位はブリゼール妃よりもスイメール妃が上だ。いったいなぜ、アルフレートの王位継承権を下げようと思ったのか。

 アルフレートが何回か質問したが、答えない。

 問いかける内容を変更するようだ。


「ではなぜ、母は自ら氷漬けに?」

「……」


 反応がない。

 アルフレートは重ねて同じ質問を問いかける。けれど、スイメール妃は微動だにしていない。

 ホラーツはそっと、アルフレートの肩に手を置く。


『アルフレート様……』

「ああ、おかしいな」


 口には出さなかったけれど、私もそう思っていた。

 事件について話すスイメール妃は、どこかおかしかった。

 今も目を見開き、まったく身動きを取らない。まるで、時計が止まっているかのようだった。


 情報は十分得たので、撤退をするらしい。

 けれど、スイメール妃の状態も気になる。心配して振り返っていれば、ホラーツが耳打ちしてくれた。


『あれは自白剤霊薬の影響ではありません。恐らく、薬に耐性があるのでしょう』

「そっか。だったら、いい……いや、よくないか」


 スイメール妃は普段から禁止薬物に手を染めているようだ。快活な息子の様子を思い出し、切なくなる。


 早くここから脱出しよう。そう、目配せあっていると、今まで動かなかったスイメール妃に異常が起こる。


 ガタガタと、全身が震えだしたのだ。


「うわあ、何、あれ!?」

「禁断症状か!?」

『いいえ、違います』


 尋常じゃなく震えていた。お医者さんを呼びに行こうとすれば、ホラーツに制止される。あれは、医者の手でどうにかできる類のものではないらしい。また、薬物の禁断症状でもないと。


「ホラーツ、それってどういうことなの?」

『あれは――』


 急に空気が重たくなり、一瞬眩暈を覚えた。ふらついた私を、アルフレートが支えてくれる。

 不可解なことに、どこからか瘴気が流れ込んでいた。

 いったい何がと、周囲を確認していれば、突然何かが破れるような音と絹を裂くような叫びが聞こえた。


「なっ……!?」


 目の前の光景に絶句する。


 なぜかといえば、スイメール妃の背から、蝙蝠のような大きな二枚の羽根が生えていたからだ。


 スイメール妃は顔を覆い、苦しんでいる。

 手先の爪も長く鋭く伸びていた。


「ど、ど、どういうことなの!?」

『魔物憑き、です』


 ホラーツの言葉に、ゾッとする。初めて聞く言葉だけど、恐ろしさは十分に伝わっていた。

 スイメール妃の叫びは、女性の声から低く、悍ましい魔物の叫びへと変わっていった。

▼notice▼


自白霊薬

魔法の力で作られた自白剤。後遺症もなく、気楽に使える一品です。

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