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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十二話 謎を追い駆け――夜会へと

 なんか嫌な予感がするので、スイメール妃について調べてみた。

 変装をして王宮の召使いに噂を聞きに行ったのである。もちろん、潜入調査の相方であるメルヴ鉢と一緒に。

 王宮召使いの共同休憩スペースに行けば、皆、お喋りを楽しんでいるようだった。

 まず、メルヴ鉢をテーブルに置いて腰かける。


「お疲れ様。これ、ご主人様から下賜されたお菓子なんだけど」


 街で人気らしいクッキー缶を差しだす。

 本当はサリアさんからもらったお菓子なんだけど、理由はどうでもいいだろう。

 皆、喜んでお茶請けとして食べてくれた。

 それを情報料として、質問をする。


「そういえば、スイメール妃様について聞きたいんだけど」


 その発言をした刹那、皆の表情が強張る。

 どうやら、安易に名前をだしてはいけない御方らしい。収穫はゼロかと思いきや、ヒソヒソ話で情報が提供された。


「あのね、名前をだしてはいけない御方は、遠い場所で囁かれた悪口も聞いてしまうらしいのよ。だから、大きな声で名前を呼んではいけないわ」

「そ、そうなんだ」


 なんだろう。その、人外的な能力は。噂はかなり誇張されているようだ。


「名前をだしてないけない御方、あまり公式な社交場にでてこないらしくて、見たことないんだけれど、ぞっとするくらい美人で、睨まれたら石になるらしいの」

「へ、へえ~」

「あと、これも聞いたわ! 悪魔を召喚して従えているらしいの」

「それは、凄い」

『怖イネ~』

「私が聞いたのは、仕事を失敗した侍女を、塔の上に一日中吊るし上げたって話」

「ひ、酷い」

『エゲツナイ~』


 でるわ、でるわ。スイメール妃のとてつもない噂。いったいどんな人物なのか、非常に気になる。皆、興奮した様子で教えてくれた。

 途中からメルヴも会話に参加していたけれど、誰も気づいていない。


 噂話を纏めれば、権力もあるしとんでもなく怖い人物なので、近寄らないほうがいい、である。


 サリアさんの助言は的確だったのだ。


 けれど、私は確信する。

 ブリゼール妃がスイメール妃に会ったあの日、何かあったのだと。


 それを、知りたい。

 多分、何か理由があって、氷漬けとなっているに違いないと思った。

 はっきりと判明すれば、アルフレートも苦しまずに済む。


 だから、勇気をだしてスイメール妃に接触をしなければならないのだ。


 ◇◇◇


 召使いとして夜会に潜入したかったけれど、給仕係は男性だけらしい。

 なので、ユーリンとして参加をすることにした。招待状もリチャード殿下がわざわざ用意してくれたのだ。


 茶色の鬘を被り、侍女さんが綺麗に編んでくれる。

 眼鏡をつけてドレスを着ると悪目立ちしてしまうので、瞳の色はホラーツが幻術で黒に見えるように細工をしてくれた。

 本日のドレスは生成り色の地味な逸品。飾りが少ないので、似合っているような気がする。

 そして、アルフレートは何かあった時のためにと、メルヴを傍につけてくれた。

 メルヴはリチャード殿下から招待状をもらったと、喜んでいる。そして、首にはタイが巻かれていた。きちんと正装姿なのが微笑ましい。

 キリッとした顔で振り返ると、素敵な言葉をかけてくれる。


『エルサンノコト、メルヴガ、守ルカラ……!』

「メルヴ……!」


 まあ、歩く植物がいれば目立ってしまうので、メルヴもホラーツの幻術で姿を消されてしまうんだけどね。


 今回、付添人は変装したドリス。

 色っぽさが隠しきれていない。私より目立っているような気がする。

 けれど、心強いと思った。


 こうして挑むことになった夜会。

 受付は滞りなく終了。今回は舞踏会なので、誘われたらどうしよう的な不安がある。なるべく人と目が合わないようにしなければならない。


「メルヴ~、逸れないように注意ね~」

『ウン、頑張ル!』

「ドリスも、無理しないでね」

「ええ、わかっているわあ」


 皆で気合を入れ直し、会場に足を踏み入れる。

 以前の夜会よりも会場の規模は大きいのに、中は人でごった返している。


「メルヴ、踏まれないようにね」

『大丈夫! デモ、タイガ、ズレタヨ!』

「うん、あとで、直してあげるね」


 周囲を見渡せども、現状把握は難しい。ドリス曰く、スイメール妃はまだきていないとのこと。きっと、主役は遅れてやってくるのだ。

 適当に、ケーキでも食べて待機していようと思い、人と人の間を縫うように歩く。

 が、途中で男の人とぶつかってしまった。


「おっと、失礼」

「いいえ、こちらこそ……」


 一言謝ってお別れと思いきや、じっと見つめられる。

 背が高く、なかなか男前の若いお兄さん。アルフレートよりも、一つか二つ年上といったところか。ちょっと、面差しというか、雰囲気も似ているような? 金髪だからだろうか。目の色は濃い緑だけど。


「君、どこかで会ったかな?」

「え!?」


 ど、どこだろう。そう言えば、会ったことがあるような、ないような。

 もしかしたら、婚約発表のあとに挨拶に来てくれた人かもしれない。

 でも、ユーリンの姿で会うのは初めてのはずなので、返事は否である。

 ここで、背後にいたドリスが耳打ちをしてくれた。


「ユーリン様、あちらは、スイメール妃のご子息ですわ」

「おっと、それは……!」


 ということは、アルフレートの義兄となる。なるほど。だから雰囲気とかが似ていたわけか。

 祝賀会の晩の記憶は曖昧になっていた。王族とかが一気に挨拶にきてくれたので、いっぱいいっぱいだったのだ。


 アルフレートのお義兄さん、名前は、う~~ん。思い出せない。

 それはいいとして、ここでは誤魔化さなくては。


「き、気のせいかと」

「そうだよね。お嬢さんみたいな可愛い娘、忘れるわけないし」


 反応が難しい返しをしてくれるお義兄さん。

 スイメール妃は怖い印象があったけれど、その息子は愛想が良いようだった。


「よかったら、一曲踊らない?」

「え!?」


 まさかのお誘いに、飛び上がるほどびっくりしてしまった。

 一応、ひと通りダンスレッスンはしたけれど、正直に言えば自信がない。


「わ、わたくし、下手なので……」

「大丈夫、リードするから」


 ぜんぜん、ぜんぜん大丈夫ではないのです。

 丁重にお断りをしようとすれば、間に割って入ってくる者が現われた。


「――お嬢様、あちらで、婚約者様がお待ちです」


 栗色の髪の従僕姿の、眼鏡をかけた男性に手を取られ、その場を離れる。アルフレートのお義兄さんには従僕が「連れがおりますので、失礼します」と挨拶をしてくれたようだ。

 しかし、この従僕、私が大好きな人に声がそっくりだった。背丈や雰囲気も似ている。


「も、もしかして、アルフレート?」


 人の少ない飲食スペースに辿り着き、聞いてみる。

 振り返ったその顔を見て、確信した。


「アルフレート!」

「声が大きい」


 メルヴもアルフレートを発見して嬉しかったようで、足元にヒシっと抱きついている。

 その様子を、困った表情で見下ろしていた。私もアルフレートにヒシっと抱きつきたい。人目のあるところでそんなことをした場合、冷たい眼差しを受けることは必須だけれども。


「その、ありがとうね、助けてくれて」

「どこかで絡まれることは想定していたが、まさか義兄上が声をかけるとは想定外であった」

「うん、そうだね」


 隙だらけなのか、会場に入った途端に、私を見ていた人が数名いたらしい。気づかなかった。

 参加者に捕まって、スイメール妃と接触が取れなくなったら大変だ。

 アルフレートは給仕をする振りをしつつ、危なくなったら助けてくれると言ってくれた。


 その後、せっかくなのでケーキやお菓子などをいただく。蜂蜜のメレンゲ焼きをメルヴにこっそり渡せば、美味しかったのか、頭の上からパアッっと小さなお花をさかせていた。

 その様子を愛でていれば、急に会場がざわつく。


 どうやら、スイメール妃が登場したようだった。


 遠目だったけれど、しっかりその姿は確認できた。


 白銀の髪に、切れ長の瞳、すっと通った鼻筋。とても、二十代の息子がいる人には見えない美しさ。

 けれど、その印象は冷たい。

 周囲の人達の表情も、穏やかではないようだった。


「……魔女ですか」


 そんな感想を、思わず呟いてしまった。


▼notice▼


蜂蜜のメレンゲ焼き

口の中でさっくりほろろと解れる優しい味のお菓子。

メルヴは気に入った模様。

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