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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十一話 薬草採取と――スイメール妃

 鼠妖精ラ・フェアリの地下に移動して魔法薬について調べる。

 目的のレシピはすぐに見つかった。


 材料は以下の通りである。

 ・曼陀羅華ダチュラの種子

 ・美しき女性ベラドンナの根

 ・聖水


曼陀羅華ダチュラ美しき女性ベラドンナは共に毒があります』

「そ、そうなんだ……」

『はい。聖水で毒性を散らします』

「なるほど」


 扱いは要注意らしい。


『私の知る森にどちら共生えております。聖水は、この前行った水竜の湖から採れるでしょう』


 薬草は毒性が高いので、ホラーツが採取してくれるらしい。

 目や口などに草の汁が入ったりしたら大変なんだとか。

 採取メンバーは私、ホラーツ、メルヴ。

 炎狼フロガ・ヴォルクはリリンの絵のモデルを務める日なのでお留守番。

 チュチュとドリス特製のお弁当を持って出発した。


 転移魔法を使うので、移動は一瞬。

 景色が代わり、目の前に広がるのは、鬱蒼とした薄暗い森。


『これは――』

「どうかしたの?」

『かなり、瘴気が濃くなっています』


 ここは国の西北に位置する森で、以前まで瘴気の量はごく微量だったらしい。

 これもきっと、魔王の影響だろう。


「そういえば、勇者って召喚されているんだよね?」

『そのはずですが』


 各国、探している最中らしい。

 まだ、危機宣言はだされず、ひっそりと国家間で情報交換が行われている状況だとか。


『大丈夫ですよ、心配いりません』

「だよね」


 今、考えても仕方がないだろう。目の前にある問題を解決することに集中しなくては。

 瘴気が漂っているので、杖を取りだしておく。


 今まで大人しくしていたメルヴは、マントをはためかせながら森の奥をじっと見ていた。


「メルヴ、どうかした?」

『ンン~、ナンカ、変?』

「変?」


 どういうことなのか。ホラーツは何も感じないと言う。


『他の場所にしましょうか?』

『多分、大丈夫。メルヴモ、ヨク、ワカラナイノ』


 意味もなく心がざわつくらしい。

 けれど、他の森を探すとなれば、大変な手間となる。判断はホラーツに任せた。


『そうですね……そこまで森の深い場所に薬草があるわけではないので』

「ちゃっと採取して、ちゃっと帰れば大丈夫?」

『ええ。ですが、いつも以上に警戒をしておきましょう』

「了解」


 ホラーツを先頭に、森の中を突き進む。


 薄暗い森の中は、息苦しくて甲高い鳥の鳴き声がこだまし、不安を煽ってくれる。

 魔物の気配はない。

 けれど、奥に進むにつれてどうしてか心がざわざわする。

 メルヴは、これを早い段階で感じ取っていたに違いない。ホラーツも、落ち着かないと漏らしていた。


 警戒していたけれど、驚くほど魔物はでてこない。それも、とんでもないものが潜んでいるように思えて、なんだか落ち着かない。


 目的の薬草はすぐに見つかった。手袋をつけたホラーツが深重な手つきで摘んでいる。

 曼陀羅華ダチュラは普通の綺麗な花に見える。これに毒があるなんて信じられない……。美しき女性ベラドンナはその辺によく生えている葉っぱ風。これも猛毒なのだ。


『こんなもんですかね』

「お疲れ様」


 これで確保完了。早く帰ろうと踵を返せば、先ほどまでになかった人影に驚くことになった。


「――ん?」

『あ、あなた様は?』

『エエ~~!?』


 一同、驚きの声をあげる。

 手を振りながら背後に立っていたのは――アルフレートだった。


「え、アルフレート、どうしたの?」

『みんなが、心配デ』

「え?」


 それは、甲高い声だった。アルフレートの声色ではない。

 しかも、笑い方が不自然で、小刻みに震えている。思わずぞっとしてしまった。あれは、人の笑い方ではない。

 メルヴは手先の葉っぱをすぐに鋭くさせる。ホラーツも杖を構えた。私も続く。

 口に出さなくてもわかる。あれは、アルフレートではないと。


『なんで、こっちに、おいデ?』


 偽アルフレートはこっちに手を差し伸べる。が、指先はぐにゃりと曲がり、触手のようになってこちらへと伸びてくる。


「いや~~!」

『エルサン、下ガッテ!』


 触手はメルヴが切り裂いてくれた。地面に落ちてもビタン、ビタンと動いていたので、気持ち悪くなって炎で焼き尽くした。


 偽アルフレートは首を傾げる。すると、そのままポキリと折れたように曲がり、そこからも触手が。


「もう、なんなの、あれ!」

『幻覚系の魔物かと』


 ここは神経に作用する薬草が生える森なので、あのような魔物がでるのだろうと、ホラーツは推測を語ってくれた。


「あれ、アルフレートに魔物が寄生したとかじゃないんだよね!?」

『ええ、それはありえません。恐らく、私達の記憶に干渉して、影響が大きな人物を選んで幻覚を見せているのかと』

「えげつない!」


 でも、アルフレートじゃないってはっきりわかれば、遠慮はいらない。


「こいつ、アルフレートの姿を借りるなんて許さない!! 滅んでしまえ!!」


 特大の炎魔法をぶつける。

 大きな球体となって形となった炎は、偽アルフレートの体を包み込んで焼き尽くした。


『お見事です、エルフリーデ様』

「良かった、倒せて」


 ホッとひと息。

 途中で触手とかがでてきたので、倒しやすかった。アルフレートの姿のままだったら、躊躇っていたかもしれない。


 ざわざわしていた心が、落ち着く。

 原因はあの触手魔物のせいだったらしい。メルヴもいつも通りに戻っていた。


『早く帰りましょう』

「そうだね」


 転移陣のポイントまで早足で急ぐ。

 なんとか、無傷で王都まで辿り着いたのだった。


 ◇◇◇


 聖水はホラーツが採りに行ってくれるらしい。自白剤も作ってくれるとか。その間、サリアさんにスイメール妃への面会ができないか、お願いをしてもらうのだ。


「スイメール妃、ですか」


 さっそく、どうにかできないか頼んでみれば、サリアさんの表情が曇る。


「え~っと、難しいですか?」

「いいえ、可能です。けれど――」


 話を聞いてみれば、スイメール妃は裏社会の女王と呼ばれており、王妃不在の中で大変な権力を握っているらしい。誰も逆らうことができず、サロンはいつもピリピリとしているとか。


「できれば、エルフリーデさんには会わせたくない人ですね」

「そう、ですか」


 私がスイメール妃の前でヘマをすれば、サリアさんやリチャード殿下にも迷惑がかかるのだ。約束を取りつけて会うのは微妙だなと思う。


「スイメール妃に何か御用でも?」

「いえ、アルフレートのお母さんと会ったことがあったみたいで、話を聞きたかったなって」

「ブリゼール妃ですね」

「はい」


 スイメール妃は非常に他人に厳しい御方で、笑顔を見せることはないらしい。なかなか、喋りかけるのにも勇気がいるとか。

 気軽に話を聞けるような人ではないようだ。


「え~っと、だったら止めます」

「ええ、それがいいかと」


 サリアさんはホッとした表情でお菓子を勧めてくれた。


 どうやら、正面突破は難しい模様。


 こうなれば、潜入しかないかと思う。

 どうにか自白剤入りの紅茶とか飲んでもらって、話を聞いて……ううむ、上手くいくだろうか。


 召使いの恰好でお妃様の離宮に潜り込むのは至難の業だろう。

 王宮のように、仕える人も多くないだろうし。


 そういえば、近日中に夜会があると言っていたような。

 その時、どうにか接触したい。


 一度、アルフレートに相談してみないと。


 それにしても、サリアさんでさえ警戒するスイメール妃とはいったい……。

 会うのが一気に恐ろしくなる。


 けれど、事件の真相究明のため、頑張らなければ。


 ◇◇◇


 夜会は一週間後。スイメール妃も参加をするらしい。

 アルフレートと二人で参加をすれば目立ってしまうので、私が単独で行くことになった。


「エルフリーデ、危険を感じたら、すぐに撤退をしてほしい」

「うん、わかった」


 何やら、スイメール妃には黒い噂が流れているらしい。

 若い娘を捕え、生き血を浴びているとか、毒の花を離宮の庭で育てているとか。

 まあ、ただの噂だと思うけれど。


「私も当日は会場にいるから」

「心強いよ」


 こうして、私は一人で夜会に行くことになった。


▼notice▼


偽アルフレート

幻覚系の魔物が見せた幻の姿。実際は触手の集合体。

記憶に干渉し、相手が一番大切に思っている存在に姿を変える。

そこまで強力な魔物ではないが、相手の弱みにつけこんで攻撃をしてくるえげつない魔物。

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