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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第七十話 追及――事件の真相

 今日はアルフレートの離宮に寄る。婚約者なので、堂々と訪問することができるのだ。

 鉢に埋まったメルヴと、チュチュも一緒だ。


「メルヴ、ごめんね」

『何ガ?』

「鉢に植えちゃって」


 息苦しくないと聞けば、ぶんぶんと首――はないか。頭部の葉っぱを左右に振る。


『大丈夫! メルヴネ、土ノ中、大好キ!』


 なんでも、たまに庭の土の中で日向ぼっこすることがあるらしい。


『デモネ、寛ギ過ギテ、出ラレナクナッテ、炎チャンニ、抜イテモラウノ』

「そうなんだ」


 一度、メルヴを炎狼フロガ・ヴォルクが銜えて歩いていたので、目撃した離宮の使用人達の中でちょっとした騒ぎになったことがあったらしい。


「そんなことがあったんだ」

『ウン。炎チャンガ、メルヴヲ食ベヨウトシテイルッテ、慌テタミタイ』


 なんと微笑ましい事件なのか。


 それにしても鉢の中、平気みたいでよかった。

 この先も、潜入調査をする時はメルヴ鉢に協力いただこうと思っている。


 チュチュ、メルヴとお話をしているうちに、アルフレートの離宮へと辿り着く。主はまだ帰ってきていないみたいだけれど。

 今日はアルフレートのお母さん、ブリゼール妃の元へ行こうと思っている。

 メルヴは執事さんに託した。鉢の中からだされ、泥を落としてくれるらしい。

 私はまっすぐ、ブリゼール妃の私室へと向かった。


 凍りついた廊下へ足を踏み入れる。相変わらず、この辺の魔法は凄い。緻密に編まれた術式が、ざわざわと私の魔力を震えさせる。


 突然、背後より強い魔力を感じ、全身鳥肌が立つ。反射的に振り返えったが――


『にゃう!!』


 それは、小さな子猫セイだった。

 また、背中の毛を逆立てて私に向かって鳴いている。まるで、何かを警告するかのように。


「セイ、どうしたの? 何が言いたいの?」

『にゃう、にゃう!!』


 近づこうとすれば、後退される。

 う~む。気になるなあ。


「この先に、行くなってこと?」

『にゃう!!』


 来た道を戻れば、毛の逆立ちもだんだん治まっていく。

 やっぱり、ブリゼール妃の元へ行くなという警告のようだった。

 首を傾げつつ、廊下を歩く。

 セイはテッテケテ~と走り去ってしまった。


 ◇◇◇


「――というわけでした」


 アルフレート帰宅後、調査の報告をする。

「なるほど」と呟いたあと、執事を呼びだしていた。何をするのかと思えば、来客名簿を持って来るようにと命じていた。


「そんな物があったんだ」

「ああ。当時の執事がきちんと記録をつけていればいいのだが」


 数分後、分厚い本が運び込まれる。ここの離宮の来客名簿だ。

 アルフレートは手袋を脱ぎ、パラパラとページをめくっていく。


「どう?」

「……驚くほど、誰も訪問していない。たまに、リチャード兄上が来ていたみたいだが」

「そ、そっか」


 きっと、アルフレートに会いに来ていたのだろう。

 噂通り、ブリゼール妃は筋金入りの人嫌いらしい。


 来客名簿に視線を落としていたアルフレートの目が、ハッと見開かれる。何か、見つけたようだ。


「何かわかったの?」

「ああ……事件の当日、確かに来客があった」

「誰? 知り合い?」

「……スイメール妃と、書かれてある」


 それは、国王様の第二王妃様らしい。


「もしかして、事件の当日、アルフレートのお母さんとトラブルがあった、とか?」

「その可能性は大いにある」


 騎士団の調査書もあるので、明日にでも調べてくれるとのこと。


「もしかしたら、魔法の発動には理由があるかもしれないね」

「そう、だろうか……?」

「多分。なんか、そんな感じがしてならないんだ」


 亡くなった王妃様。その座を狙うお妃様。誰よりも美しいブリゼール妃。悲惨な事件。

 それらが、氷漬けの件と無関係には思えなかったのだ。


「アルフレートは辛いかもしれないけれど、もう少しだけ、頑張ろう」

「ああ」


 ちょっとだけ、切なそうな顔をしているので、立ち上がってアルフレートの隣に腰かける。

 背中をバンと叩きたかったけれど、途中でこれは気合を入れる方法だと思い、止めることにした。果たして、こういう時はどうすればいいのか。わからないので聞いてみる。


「アルフレートは、何をしたら元気になってくれる?」

「何も。エルフリーデが傍にいれば、私はいつでも元気だ」


 やだ~~、この、謙虚な王子様!

 まさかの発言に、照れてしまう。


 ……いや、そうじゃなくって、具体的なことを聞きたいのに、そんな返しをされるなんて想像もしていなかった。


 私はどうだっただろうと振り返る。

 両親は、落ち込む私をどうやって慰めてくれたのか。

 思い出した。優しく抱擁をして、それから――


「アルフレート、ちょっといい?」

「なんだ?」


 不思議そうな顔で見下ろすアルフレートを、ぎゅっと抱きしめる。

 突然の抱擁に驚いたのか、体を堅くしているように思えた。大丈夫だよと伝えるように背中を撫でれば、肩の力なども抜けたよう。

 リラックス状態になれば、一度離れて、アルフレートの膝に手を置く。

 そして、無防備な状態になっていた頬に、唇を寄せた。

 一瞬のキスだったけれど、凄く恥ずかしかった。顔がだんだんと熱くなる。恐らく、頬は真っ赤だろう。

 けれど、それ以上に、アルフレートも顔が赤くなっているような気がする。

 頬に手を当て、こちらに驚愕の目を向けていた。


「エルフリーデ、こ、これは――」

「げ、元気でるかなと思って」

「……」


 そう申告すれば、バッと顔を逸らすアルフレート氏。これは、恥ずかしがってる?


「ねえ、アルフレート、顔見せて」

「断る!」

「いいじゃん。照れているんでしょう?」

「そうではない!」


 アルフレートは今日も安定の塩対応。でも、本気で拒絶しているわけではないと知っているので、ついついからかいたくなるのだ。


「結婚をしたら……覚えておくように」

「え!?」


 な、なんだろう。すっごいおしおきが待っているのだろうか。まったく想像できない。


「ドキドキする……じゃなくて、楽しみにしている……じゃなくて、は、反省、シテイルヨ?」

「……」


 からかったことを申し訳なく思う素振りを見せたけれど、口が滑ってつい本音が。


「本当に、覚えておけよ……」

「あ、うん、ごめんね」


 なんだろう。結婚するまで触れてはいけないとかの決まりでもあるのか。

 まあでも、いつものアルフレートに戻ったからいいことにした。


 ◇◇◇


 翌日、アルフレートより騎士団が纏めた資料についての報告があった。


「やはり、スイメール妃は事件当日、母上と会っていたようだ」

「そっか」


 アルフレートはまったく記憶にないと言う。


「妃本人は、事件の日について、覚えている可能性はごくごく低いだろうな」

「う~~む」


 でも、ミーナさんみたいに僅かに記憶がある可能性がある。

 それよりも気になるのは、いったいなんの用事でブリゼール妃を訪問したかという点だ。

 来客記録を見ても、交流などまったくなかったのに。


「アルフレートのお母さんをどう思っていたかというだけでもわかればいいのに」

「それこそ語らないだろう」


 なんとか聞きだしたい。どうすれば――そんな言葉を呟けば、今まで静観していたホラーツが着想を提案してくれる。


『自白霊薬とか使っては?』


 なるほど。魔法薬の力で聞きだすとな。それもいいかもしれない。そうでなければ、お妃様みたいな高貴な人から本音を聞きだせないだろう。


「そういえば、鼠妖精ラ・フェアリの地下研究室に、魔法薬の本がたくさんあったね」

『はい。あの魔法書のシリーズを書いている著者は魔法薬の専門家ですから』

「だったら、自白霊薬の作り方もあるかも」


 薬はホラーツと協力して作ることになった。


『いやはや、ドキドキしますね』

「そうだね」


 材料や作り方を調べたあと、森に薬草探しにでかけなければならないらしい。ホラーツはお弁当を持って行きましょうと話す。

 なんか、遠足みたいだ。

 そんな話をしていれば、アルフレートから「遊びじゃないからな!」と怒られてしまった。

 ホラーツと二人、深く反省することになった。


▼notice▼


リンゼイ・アイスコレッタ著 現代魔法薬

古代から伝わる魔法薬の知識や技術をわかりやすく書いた書物。

研究者は世界で一番の魔法薬の専門書だという評価している。

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