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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第六十九話 調査――そして、調査

 若干昨日の疲れを引きずっている感じだけれど、今日も一日頑張らなければ。

 そうそう。メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクの王都自由行動許可がようやくでた。なので、今日から魔導研究局の一員として出勤している。 メルヴと炎狼の制服であるマント姿が、なんとも言えない。


『メルヴ、頑張ル!』


 マントを背に、キリっとした表情で決意を表明するメルヴ。

 頼りにしているよ!

 ちなみに、セイはまだ申請が通っていないのでお留守番です。


 本日の仕事は炎の魔石作り。

 助手としてメルヴと炎狼、チュチュをつけてくれるらしい。


「――というわけで、みんなよろしくね!」


 魔石の運用については、リチャード殿下の『熊刃』で試用し、管理が上手くいくようであれば、遠征部隊などで活用したいとのこと。

 魔石一個あれば、大鍋を沸かすことができるので、そこまで大量の数は必要ではない。

 一部隊につき、二、三個あれは十分だろう。


 ほどよい大きさに砕いた石は鼠妖精ラ・フェアリの村から運ばれていた。あとは加工をするだけだ。


 炎狼が石を運び、メルヴが器用に石を洗う。チュチュが乾燥させて石の角を削り、私が呪文を刻んで魔力を込めれば完成。


 精霊であるメルヴの手が加わっているからか、いつもより上質な魔石が仕上がったように思える。

 石の色合いも、完全な赤ではなく、それとなく緑っぽい部位もあった。不思議だな~。

 完成した試作品は、耐久試験に回す。

 長時間使用して、熱暴走などの問題が起きなければ、『熊刃』に渡ることになる。


 夕方からはアルフレートのお母さんの事件の解明をするために行動に移した。

 炎狼とチュチュは魔導研究局にお留守番。私とメルヴは調査を開始。


 本日は潜入調査である。

 栗色の鬘を被り、女中のお仕着せに袖を通し、目の色がこの国でよくある黒に見える眼鏡(※ホラーツ特製魔道具)をかけてみた。

 メルヴは鉢に植えた。

 これを抱えれば、私達はどこにでもいる、植物の鉢を運んでいる女中になれるのだ。


「メルヴ、準備はいい?」

『イイヨ~』


 頭部の葉っぱで親指をピッと立てるような形を作ってくれる。

 よっこらせとメルヴ鉢を持ち上げ、移動開始。


 魔導研究局の制服で調査した時はチラチラ見られていたけれど、お仕着せ姿だと目立たないみたい。

 アルフレートに魔導研究局の制服だと調査しにくいと言ったら、女中の恰好で歩き回ればいいと助言してくれた。

 怪しまれた時のことも考えて、きちんと、身分もある。

 偽名:ユーリン・ギルミギット。『熊刃』専属召使い。

 アルフレートがリチャード殿下にお願いしてくれたのだ。その辺ぬかりはない。


 まず、調べたいのはアルフレートのお母さんの話。

 現在、離宮に当時の召使いは残っていない。事件の壮絶さを目の当たりにして、全員辞めたらしい。

 調べたら、一人だけ当時アルフレートのお母さんに仕えていた人が王宮で働いているらしいのだ。名前はミーナさん。

 その人は現在、召使い専用の食堂で働いているとのこと。


 螺旋状の階段を下り、労働区域に向かう。

 ここでは洗濯や新人の教育及び指導、食材の管理などが行われている。

 周囲の人達は忙しなく動き回っていた。

 食堂は現在準備中。

 近くを通った料理人の恰好をした人に、話を聞いてみた。


「あの、すみません、ここにミーナさんって方はいますか?」

「料理長だったら休憩室だよ」

「ありがとうございます」


 なんと、ミーナさんは料理長だった。

 食堂の隣にある部屋を覗き込めば、うな垂れたように座る一人の痩せた中年女性が。なんだか、かなりお疲れのご様子。


「こんにちは」

「……どうも」


 まずはご挨拶から。


「リチャード殿下の率いる騎士隊熊刃の専属召使いのユーリンと申します」

『メルヴハ、メルヴダヨ!』


 片手を上げて、元気よく挨拶をしてくれるメルヴ。

 植物の振りをしておくように頼んでおくのを忘れていた。今になって気づく。


 けれど、ミーナさんの反応は薄く、「ユーリンさんと、メルヴさんね」と呟いていた。

 メルヴの存在をあっさりと受け入れたので、ちょっとびっくり。いや、疲れているだけだと思うけれど。


「すみません、ちょっと聞きたいことがあるのですが」

「私に?」

「はい」


 いきなりやって来たので拒絶されると思いきや、あっさりと「私が知っていることならばなんでも」と言ってくれた。


「あの、二十年位前の話なんですけれど、ミーナさん、ストラルドブラグ家のお妃様の元で働いていましたよね?」

「……ブリゼール妃?」

「そうです」


 ブリゼール・ストラルドブラグ。アルフレートのお母さんの旧名だ。

 お仕えしていたのかと聞けば、そうだと頷く。


「あの、それで、事件について聞きたいなって」

「ああ、あの日のことを聞きたいのね。ごめんなさい。私、覚えていないの」

「!」


 アルフレートのお母さん――ブリゼール妃が氷の中へと閉じ込めた日の当日、ミーナさんも出勤日だったらしい。

 けれど、事件の日の記憶がすっぽりと抜け落ちているのだと話す。


「医師は、魔法の衝撃で記憶がないのだろうと」

「なるほど」


 そういうことは、ありえる。大きな魔法の力は、人に多大な影響を及ぼすのだ。


「お役に立てなくて、ごめんなさいね」

「いえ、いいんです」


 何か事件の欠片でも判明すればと思っていたけれど、そう簡単にはいかない。

 まだ、使用人はいたはずなので、調べなければ。


「――あ」

「どうかしました?」

「いえ、僅かに、記憶が」


 メルヴと共に、詳しく聞かせてくれと身を乗りだす。


「ささいな記憶なんだけど――その日、茶器を二つ運んだ気がするの」

「それは、アルフレート殿下の分ではなく?」

「いいえ、違うかと。殿下は、猫舌で、紅茶は飲まなかったので」

「そっか」


 ということは、事件の当日、ブリゼール妃を誰かが訪ねてきたということになる。

 残念ながら、それが誰かという記憶は戻っていないようだった。


「覚えているのは、これだけ」

「いいえ、助かりました」

「だったら、よかった」


 疲れたように微笑むミーナさんを見ていたら、故郷の母親を思い出してしまい、胸がぎゅっと切なくなる。

 母も、疲れているのに無理をして、あんな表情をよくしていたのだ。


「えっと、ミーナさん、大丈夫ですか?」

「何が?」

「いえ、疲れているように、見えるので」

「ええ、そうね……」


 なんでも、結婚とかでまとめて数人退職してしまったようで、人手が足りていない模様。


「社交期って、これだから困るのよね」


 夜会はお見合いの場でもある。

 召使いも、王宮などで見初められてあっという間に結婚というパターンが多いらしい。

 目の下のクマを見ていたら、気の毒になってしまった。


『ダッタラ、メルヴノ葉ッパ、食ベル?』

「え?」


 メルヴは『ヨイショット!』と言って頭部の葉を引き抜き、ミーナさんへ手渡した。


「これは?」

「え~っと、疲労回復の薬効がある物なんですけれど、騙されたと思って食べてみてください」


 ミーナさんは不思議そうな表情でメルヴから葉っぱを受け取り、裏表をひっくりかえしながら見ている。


「そのまま食べて大丈夫なの?」

「はい。甘味があって、コリコリと食感もよくて、結構美味しいですよ」


 以前、私もこれを食べて元気になった。凄い力がある薬草なのだ。

 ミーナさんは戸惑う様子を見せながらも、メルヴの葉に噛りついていた。咀嚼し、飲み込む。

 すると、目を見張った。


「これは――」


 その一言をきっかけに、メルヴの葉っぱをどんどん食べ進む。あっという間に、一枚食べきったようだ。


「凄いわ、これ!」


 ミーナさんの肌ツヤはよくなり、目の下のクマはなくなっていた。

 うな垂れていた背中も、ピンと伸びている。

 どうやら元気になったようだ。


「驚いたわ、本当に」

「良かったです」


 でも、メルヴのことは内密にと口止めしておいた。

 噂が広まっても、すべての人に葉を分けられるわけではないから。


「ありがとう。本当に助かったわ」

「いえいえ。よかったら、他にお手伝いをしますよ」


 農家の娘なので、野菜洗いは得意だ。


「いいの?」

「はい」


 せっかく元気になったのに、また無理な労働をすれば疲れを貯めてしまう。

 少しでも手伝いができればと、申しでてみた。


「だったら、お願いできる?」

「お任せあれ!」


 こうして、私は猛烈なスピードで芋を洗い、メルヴは皮を剥くことになった。

 期待の大型新人コンビとか言われたけれど、今日限りのお手伝いだからね。


 っていうか、メルヴをあっさり受け入れる食堂の人達って凄いなと思いました。


▼notice▼


メルヴの葉っぱ

最高レベルの万能薬草。

食べればひとたび元気に。数日経てば再び生える。

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