第六十八話 話し合いをしよう――冷静になって
じっくり落ち着いて話し合いをする。
「え~っとまず、結婚についてだけど……」
「かならず幸せにする」
「うん、ありがとうね」
手を握られ、熱烈的な目線を向けつつ言ってくれる。
もちろん嬉しい。嬉しいけれども。
「アルフレート、結婚というものはですね、互いに想い合うだけでは解決できないことがございましてね」
「どういうことだ?」
「貴族の奥方は、その、夫を陰から支えるために、社交界のお付き合いとか、いろいろ頑張らなければならないでしょう?」
「そんなことなどしなくていい」
「え?」
「私は王都でどうこうしたいとは思っていない。日々、仕事に打ち込んでいるのは兄への恩もあるが、一番はエルフリーデと一緒にいるためだ」
「そ、そうなんだ」
それは知らなかった。そっか、内助の功とか、気にしなくてもいいんだ。
「でも、私、良い家柄の血統とかでもないし、周囲の人達も許さないんじゃないかな」
「私はまったく気にしていない。エルフリーデは兄上の養子だ。その地点で、物申す者もいないだろう。それに、国王陛下には結婚の許可は得ている」
「え!?」
「今回の褒章授与を受けて、願いを一つだけ叶えると言われ、エルフリーデとの結婚を望んだ」
「うわあ……」
大変名誉な式典でそんなことを願ったなんて……。
「まだ求婚もしていない状態で願ってしまったことを、申し訳なく思う」
「いや、いいけれど、それ以外にお願いはなかったの?」
「なかった」
即答ですか。
ううむ。
「じゃあ、周囲は反対していないし、家柄は気にしなくてもいい、社交界の付き合いもそんなに頑張らなくてもいいってこと?」
「そうだ」
「ほうほう……」
王子様であるアルフレートとの結婚なんてとんでもないことだと思っていたけれど、よくよく話を聞いてみれば、障害はあまりないみたい?
「アルフレートは、本当にいいの?」
「エルフリーデしかいない」
そうか、そうだったのか。
っていうか、それを見越してリチャード殿下は私を養子に迎えてくれたのかと、今更ながら気づく。
いろいろと鈍くって、申し訳ないと思った。けれど――
「私、アルフレートと結婚してもいいんだ……。嬉しい、とても……」
そんな風に答えたら、アルフレートは私を引き寄せ、抱きしめてくれる。
回されたアルフレートの腕が背中の素肌に触れる。
一瞬、指先がひやりとしたけれど、嫌な感じではない。触れただけでバチバチしてしまった時を思えば、大きな進歩だと思う。魔力は落ち着いているみたいで、よかったとひと安心。
「エルフリーデと出会わなければ、ずっと独身だったと思う」
多分、私もそうだったと思う。師匠が言っていたのだ。魔導教会に入れば、生涯独身であると。
「指輪も、用意しておきたかったんだが……」
「気持ちだけで嬉しい……っていうか、首飾りありがとう! ごめんね、言うの遅れて」
「そういえば、渡していたな。求婚を申し込むことで頭がいっぱいだった」
アルフレートから離れ、首飾りを見せる。
「これ、本当に綺麗で」
「良く似合っている」
「ありがとうね」
「突き返されたらどうしようかと悶々としていた」
「うん……」
もらった時は激しく困惑したけどね。
指輪といえば、アルフレートからもらった水晶の指輪だけど、すっかり私の魔力に染まりきっている。お願いをしたら、水晶の色を赤から青に変えてくれた。
やっぱり、アルフレートの魔力は綺麗だ。
「婚約指輪はもっといい品を用意する」
「私は、この指輪が世界で一番素敵な指輪だと思うな」
「そうだろうか?」
「そうだよ」
間違いなくそうなので、どうかごてごての宝石がついた指輪は用意しないでほしいと切に願ってしまった。
あとは、今後の予定などを話し合う。
結婚はもうちょっと先らしい。それについては構わない。
アルフレートは私の両親にも挨拶をしたいと言ってくれた。家族はびっくりするだろう。
師匠にも、報告をしたいとも。
「あ!」
「どうした?」
「いや、師匠に水鏡通信を試したことなかったなって」
「ああ、そういえばそうだな」
水鏡通信は最近習得したもので、その、ちょっと忘れていたというか。
ごめんなさい、お師匠様。
「連絡を取りたいけれど、アルフレートみたいにお風呂にしか繋がらなかったらどうしよう……」
「なんとも微妙だな」
「それに、師匠の魔力の流れをよく知らないから、難しいかも」
後日、一緒に試してみようという話になった。
「それはそうと」
「どうした?」
「これで……お風呂に入っているアルフレートを堂々と覗けるなって……」
「どうしてそうなる!」
婚約者特権で覗かせてくれと言ったら、拒否された。
「どうして? ちょっとくらいいいじゃん!」
「よくない! そもそも、どうして覗きがメインとなっているのだ! 水鏡通信とは、相手と面と面を合わせて会話をする魔法だろう!」
「あ、そうだった……」
いつの間にか私の中で、水鏡魔法はアルフレートの裸を覗くムフフな魔法となっていた。
認識を改め、深く反省をすることになる。
「どうして私達はこんな話を……」
「ごめんね」
結婚したら、是非とも背中を流しにいきたい。召使いみたいだと言われてしまいそうだけれど、私がアルフレートにしてあげられることは少ないから。
「何を考えている?」
「え?」
「一瞬、顔がにやけていた」
「き、気のせいだよ~」
だめだ。目的がアルフレートの体にすり替わっていた。
浮かんでいた煩悩を追いだして、精神統一をしなくては。
そんな話をしているうちに、扉の外から声がかかる。そろそろ祝賀会開始の時間らしい。
さて出陣しますかと立ち上がれば、アルフレートがそっと手を握ってくる。
「どうかした?」
「祝賀会で婚約者だと報告をしたいのだが」
「あ、そっか。そうだよね」
初めての夜会でこういう事態になるなんて、想像もしていなかった。
緊張する……。
「心配はいらない。エルフリーデは、私の隣にいてくれるだけで構わないから」
「わかった。よろしくね」
アルフレートは照れたようなはにかみ顔を浮かべる。
可愛いすぎるにもほどがあると思った。
◇◇◇
そして、初めての社交界。
一歩、会場に足を踏み入れた途端に、ぶるぶると震えてしまう。
アルフレートにはバレていたようで、大丈夫だからと何度も励ましてくれた。
祝賀会は国王陛下の挨拶と共に始まる。
玉座には、白くて立派なお髭を蓄えたおじいさんが。あの御方が、国王陛下。
一瞬目が合って、心臓が口から飛びでると思った。王様の眼力は魔眼なのではと思うほど鋭い。さすが、一国を統べる主だと思った。
国王様は鼠妖精の独立を喜び、それを叶えたアルフレートを称えた。
それからなんと、私の紹介までしてくださったのだ。
一気に注目を集めたので、サリアさん仕込みのお辞儀を返す。どうにかサマになっていればいいなと思った。
今回の祝賀会はお食事がメイン。踊ったりする会ではないので、本当によかった。社交ダンスは何度か習ったけれど、優雅に踊れるようになるまで、この先数年はかかりそうだと思っているのだ。
けれど、それ以上に社交はたいへん。
ひっきりなしにいろんな人が挨拶にきて、目が回りそうになった。
笑顔の形のまま、表情筋が固まってしまうかと思うほどに。
ほとんどアルフレートが応対してくれて、私はうんうんと頷くばかり。どうやら上手く会話の流れを作ってくれていたようだった。
途中、チュチュと会話ができたので、とっても癒される。
村長も参加をしていて、久しぶりに親子が並んでいる様子をみることができた。
ドリスも参加していてびっくり。
ドレス姿、とっても綺麗だった。
元夫の騒動は治まっていたようで、今回参加を決めたのだとか。
さらに驚いたことと言えば、オルコット卿と参加をしていた件について。
なんでも、パートナーがいなかったので互いに妥協したとのこと。美男美女でお似合いだと思った。
砲弾姫ことクレシル様は婚約者と現れる。
「二十七人目の婚約者なのよ」と笑顔で話していた。二十六名の婚約者の存在が気になる。多分解消されたのだろう。
婚約者さんはクレシル姫の話を聞きながら、顔が引きつっていた。二十七回目もダメかもしれないと思ってしまったことは秘密。
あっという間に時間は過ぎ、祝賀会は滞りなく終了。
このあと、男女に別れてお茶会をしたり、煙草を吹かせたりするらしいけれど、サリアさんが気を遣って「あとは若いお二人でお楽しみになっては?」と送りだしてくれた。
正直に言えばへとへとなので、助かった。お言葉に甘えさせていただく。
用意された休憩室で、アルフレートと共に軽食を摘まむ。
たくさんのご馳走が用意されていたけれど、食べる暇がなかったのだ。
「疲れただろう?」
「うん、まあね。でも、嬉しかった」
あんなにたくさんの人から祝福されるなんて、私達は果報者だろう。
それに報いるために、また明日からお仕事を頑張らなくては。
▼notice▼
クレシル姫の婚約者
自由過ぎる性格の姫についていけずに、婚約破棄されること二十六回。本人はまったく気にしていない。
二十七人目の婚約者も、きっと解消を申し出るだろう……。




