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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第六十六話 ああ勘違い――鈍いエルフリーデ

 次のお休みにアルフレートから離宮に遊びに来ないかと誘われた。

 もちろんって返事をしたかったけれど、用事があると言って断ってしまった。だったら、夜に水鏡通信で話をしたいと言われたけれど、アルフレートがお風呂に入っている時にしか繋がらないし、最近寒くなってきているので、入浴中の会話は辛いだろうと思ってしないほうがいいと伝えた。

 その時の、ショックを受けたアルフレートの顔は忘れられない。

 けれど、仕方がないのだ。

 大切な結婚前の時期に、私なんかと噂になっても困るだろう。

 アルフレートは魔法の制御もできるようになったし、雰囲気も柔らかくなった。もう、一人でも大丈夫なのだ。

 本来ならば、役目を果たした私は元いた場所に戻らなければならない。

 魔導教会には絶対に帰れないので、私の行く先は生まれ育った村しかないのだ。

 でも、心残りがある。

 魔王の問題だって解決していないし、アルフレートのお母さんの氷だって溶かしていない。リチャード殿下と約束した炎の魔石だって、まだ作れていないのだ。

 一番の理由は、家族に会うための心の準備ができていないことなんだけど。

 だから、もうちょっとだけ、ここにいたいなと思っている。


 ある日の朝、リチャード殿下に呼びだされる。

 手渡されたのは、一通のお手紙。


「これは……?」

「祝賀会の招待状だ」


 なんでも、鼠妖精ラ・フェアリの独立と、友好を築いたアルフレートに国から報奨が贈られるらしい。


「うわ、アルフレート、凄い……!」

「だろう。是非とも参加をしてくれ」

「はい、喜んで!」


 開催は一か月後だとか。

 魔導研究局の制服は正装にもなる。服の心配はしなくてもいいだろう。

 社交界の華やかな場にでるのは初めてなので、緊張する。


「それで、当日頼みたいことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「いや、その、話すのは祝賀会の日に」

「構いませんが」

「それは、叶えてくれるということに受け取っても構わないのだな?」

「はい。私ができることであれば」


 リチャード殿下にはお世話になっている。きっと、魔法関係のささやかな願いだろう。お安いご用だと思った。


「あ、あと――」

「はい?」


 話はこれで終わりかと思いきや、まだあるようだった。


「最近、アルフレートの元気がない。お主らは、何か、喧嘩でもしているのだろうか?」

「喧嘩? いいえ、していませんけれど」


 体調を崩しているのかと思いきや、健康上の理由ではないらしい。

 ここ最近、王宮内の調査をしていたり、問題のある現地に直接向かっていたりして、朝から魔導研究局の本部に足を運べていなかった。諸々の報告をするために夕方には顔をだしていたけれど、アルフレートは大抵会議とかにでていて、すれ違いになっていた。


「よかったら、ゆっくり話をしてほしい」


 う~~ん。折角距離感を離すことに成功しているのに、ここでじっくり話をしたら、あまりよくないような。


 本音を言えば、会いたいし、ゆっくり会話したい。でも、でも、アルフレートの未来のことを思えば……会うことはできない。


「ごめんなさい、最近、忙しくて……私も、疲れているようで」

「ふうむ。そうであったか。魔導研究局の人員構成についても、見直さなければならないな」

「そうしてくれると助かります」


 多分、今の状況はアルフレートの負担が大きいのだろう。

 ホラーツは嬉々として魔法の問題に挑んでいるので心配はいらないと思うけれど。


 やっとのことで解放される。

 まだ、完全に気持ちを捨てきれていないからか、アルフレートについて話を振られるのは辛い。

 私は大丈夫。そう言い聞かせ、今日も一日頑張ろうと気合を入れた。


 ◇◇◇


 バタバタと過ごしているうちに、祝賀会当日となった。

 なんと、今日のためにドレスを仕立てたというので、驚いてしまった。

 夜会用なので当然ながら胸元が開いている。けれど、それ以上にぎょっとしたのが背中の意匠デザイン

 白いドレスで、ビーズで縫い付けられた花模様がとても美しい一着だ。

 どうしてか背中から腰にかけての布地はほとんどない。露出が高すぎる。なぜこうなったのかと、関係各位に問い詰めたくなった。

 ドレスは袖がなく、肩には連なった真珠でできたスリーブがある。

 スカートは胸元から切り替えられていて、ストンとした形。ひだドレープが入っていて、シルエットが優美だ。そして、とても動きやすそうでもある。


 寸法はぴったりだった。けれど――


「あの、これ、大丈夫……?」


 思わず身支度を手伝ってくれた侍女に聞いてしまう。

 彼女達はいつもの笑顔で「お似合いです」と言うばかりであった。

 うう……心配。


 髪の毛は左右を編み込みにして、後頭部を纏めてくれた。

 どうやら白百合の生花で飾ってくれているらしく、良い香りがする。

 お化粧もバッチリ。綺麗にしてくれたので、自分じゃないみたいだと思った。


 項垂れながら長椅子に腰かけていると、チュチュが銀盆に細長い箱を載せてやってくる。

 綺麗に包装されていて、赤いリボンで結んであった。


『エルフリーデ様、こちら、アルフレート様からの贈り物ちゅ……』

「あ!!」


 この時になって思い出す。報奨授与のお祝いを用意してなかったと。

 今からだったら、肩たたき券くらいしか用意できない。どうすればいいのか……!


 チュチュが盆を差し出したまま、固まっていたので慌てて箱を受け取る。

 アルフレートはいったい何をくれたのか。

 ドキドキしながら開封する。


「わあ!」

『まあ……!』


 チュチュと一緒に蓋を開けた箱を覗き込み、感嘆の声をもらす。

 それは、幅広の銀製リボンにダイヤモンドが散りばめられた品で、チェーン部分には精緻な透かし細工が成されている。光を受けて、キラキラと輝いていた。

 持ち上げれば、結構ずっしりとしている。


「ちょっ、これ……」

『アルフレート様の愛ですね』

「いや、これ、重いって」


 物量的にも、気持ち的にも。 

 うん、なんていうか、アルフレートが私のことを好きなのは十分に伝わった。とっても嬉しい。けれど――


 突然扉が叩かれ、返事をする。リチャード殿下だった。

 そういえば、当日にお願いを聞く約束をしていたのだ。

 立ち上がろうとすれば、「よいよい」と言ってくれる。


「エルフリーデよ、よく似合っておる」

「ありがとうございます」


 動くたびに、肩の真珠飾りがしゃらりと音が鳴る。変な動きをすれば、壊れてしまいそうでかなり怖い。


「それで、約束に関してだが」

「あ、はい」


 居住まいを正し、話を聞く姿勢を取る。

 リチャード殿下のお願いとは、いったい……?


「今日の祝賀会で、アルフレートのパートナーを務めてほしい」

「え、それは――」


 いろいろと問題があるのではと問いかけるも、何もないと首を横に振るリチャード殿下。


「む? 身支度はまだであったか」

「へ?」


 リチャード殿下がパンパンと手を叩けば、侍女がやってくる。

 私の手の中にあった首飾りを摘まむと、目にも止まらぬ速さで着けてくれた。


「いや、これは、その……!」

「さすが、名工の作った首飾りだ。アルフレートは半年も前から注文していたようだが、今晩の祝賀会に間に合ってよかった」


 半年前と言えば、鼠妖精ラ・フェアリの村の雪が溶けたくらいの時季だろうか。そんなに前から注文していたなんて。


「私、こんな高そうな首飾りをもらえるほどのことをしていないのに――」

「そんなことはない。それはアルフレートの気持ちだ。突き返せば、あれの好意も無下にすることになる」


 そんなことを言われたら、返すわけにはいかない。

 私には過ぎた品物なんだけど……。


 もやもやとしているうちに出発時間となった。

 リチャード殿下、サリアさんと共に馬車に乗り込む。


 そういえば、仕事以外でアルフレートに会うの、一ヶ月ぶりかもしれない。


 激しく、気まずいと思った。


▼notice▼


ダイアモンドのネックレス

アルフレートがエルフリーデのために細工が得意なミノル族に頼んでいた品。

精巧なデザインはため息が出るほど。

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