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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第六十一話 大量――その獲物とは!?

 水面からザバーと音を立ててでてきたのは、とてつもなく大きな――


「うわあ~~!!」


 空に向かって跳ね上がった水を、頭から被ってしまうと目を閉じた瞬間、腕を引かれる。

 アルフレートにぎゅっと抱きしめられてしまった。

 桶をひっくり返した雨のような大量の水が頭上に降り注いでいた。けれど、私にはあまり降り注いでこない。なぜならば……。


「大丈夫か?」

「アルフレート……」


 アルフレートは私を水から庇うために抱き寄せてくれたらしい。大丈夫かと聞いている彼のほうがびしょびしょだ。


「あ、ありがとう……でも、アルフレートが」

「私は問題ない。それよりも――」


 そうだ。水がどうこうよりも、大変な事態となっていたのだった。

 メルヴが釣り上げた大物を改めて見上げ、ぎょっとする。思わず、アルフレートに縋りついてしまった。


「あれは、竜……なのか?」

「た、多分」


 ヤンの翼竜よりもずっと大きな竜が湖にいたのだ。

 鱗の色は澄んだ青、首が長く、翼も大きい。瞳はサファイアのよう。

 ホラーツの言っていたとおり、魔力切れを起こしているからか、地上に打ち上げられてぐったりとした様子を見せている。

 メルヴは腰に手を当てエッヘン! と言わんばかりに胸を張っていた。近くにいたオルコット卿が「凄いですね」と褒めたたえれば、満更でもないという感じでいる。


 私はふと、アルフレートに抱きついたままだということに気づき、慌てて離れる。

 案外がっしりとしているというか、きちんと男の人だったので、昨日、裸を見てしまったことも相俟って、余計に照れてしまった。


「エルフリーデ、どうした?」

「な、なんでもない!」


 アルフレートの裸を思い出していましたなんて、言えるわけがない。

 今は竜のことについて考えなければ。集中、集中!


『あれは……蒼竜ですね』


 水を司る竜の最高位の存在らしい。驚いた。なぜ、彼の者が力を失って湖に沈んでいたのか。


「話ができそう?」

『難しいですね……竜との意志の疎通は、私でもさすがに』


 困った。

 蒼竜は眠たいのか、力が足りなくて意識を保てないのか、うとうとしている。

 そんな蒼竜に、メルヴは話しかけたのだ。


『竜サン、メルヴの葉ッパ、食ベル?』


 元気がないことに気づいたメルヴは、優しく問いかける。

 意志の疎通を取るのは難しいとホラーツは言っていたが、果たして……。


『……クギュ』

『ウン、イイヨ』


 蒼竜が一声鳴き、メルヴはしっかりと頷く。そして、頭の上の葉を引っこ抜くと、口元へと持って行っていた。

 もぐもぐとメルヴの葉を咀嚼して、ごっくんと呑み込む。その刹那、しょぼしょぼしていた目が、カッと見開いた。


『クギュ、クギュユユユ~~!』


 メルヴが『ワ~イ』と言って飛び跳ねている。どうやら、元気になった模様。良かった良かった。

 どうやらメルヴが意志の疎通ができるみたいなので、今回の件について聞いてみた。


『アノネ~、ナンデ、商人サンカラ、商品ヲトッタノ?』

『クギュ、ギュギュ……』

『ア~、ソッカ~』


 メルヴが蒼竜の言った言葉を教えてくれた。

 なんでも、この国の中で魔力が枯れている土地を発見し、恵みの雨を降らせたのはいいものの、想定外の魔力切れを起こし、慌ててこの湖に潜ったらしい。しばらく休んでいれば魔力が回復すると思いきや、そんな様子もまったくなく。

 困った蒼竜は湖の外で魔力の気配を感じ、手を伸ばしてしまったと言う。


『エットネ、食ベタノハ宝石ダケデ、他ノハアルヨッテ』

「そっか。それはよかった」


 どうやら湖の奥底に巣があるようで、そこに置いているらしい。返して欲しいと頼めば、魔法で取りだしてくれた。これらは、ホラーツが転移魔法で運んでくれることになった。

 宝石については――まあ、仕方がないとしか言いようがない。


「確かに。竜は我が国の魔力が枯渇していた土地を癒してくれた。宝石は報酬ということにしてもいいだろう」


 宝石商への対処は国がしてくれるだろうとのこと。

 アルフレートの国は魔法には否定的な姿勢だけれど、竜や精霊、妖精には一目置いている姿勢を取っているらしい。なので、問題は大きくならないだろう。


 これにて解決、ということでいいのだろうか。

 蒼竜はもうひと眠りするようで、水面に近づいていた。最後に、メルヴと話をしている。

 こちらに向かって『クギュ!』と鳴いたあと、トプンと音を立てて湖の中へと沈んでいった。


『竜サン、アリガトウッテ、言ッテイタヨ』

「そっか」


 この世界は、竜や精霊、妖精などの存在に支えられている。彼らがいるからこそ、魔力の均衡が保たれ、平和な世界となっているのだ。

 無事に問題が解決して良かったと思う反面、気になる事案も浮上する。


「それにしても、魔力が枯れた土地……か」

『気になりますよね。今まで、そんなことなどなかったので』

「うん」


 魔王の出現と関係あるのだろうか。そう考えると、寒気がする。

 ……寒気と言えば。


「あ、アルフレート、オルコット卿も、服を乾かすので脱いでくれる?」

「は?」

「熱風は直接体に当てるわけにはいかないし、風魔法はあまり得意じゃないから、制御も微妙で」

「私はいい」

「いや、良くないよ。そのままだと風邪を引いてしまう」

「いいといっている」


 猛烈に嫌がるアルフレート。

 オルコット卿は無表情なのでどうかわからないけれど、乗り気でないことはわかる。

 さあ今すぐ脱ぐのだ! と迫っていたけれど、あることに気づいた。

 背後を振り返り、ホラーツに聞いてみる。


「ねえ、ホラーツ、もしかして、ここからすぐに転移魔法でお城に帰れる?」

『ええ、帰れますよ』

「だったら言ってくれたらよかったのに」

『いえ、エルフリーデ様が楽しそうだったので』

「え、そうだった?」


 見目麗しい男性二名に服を脱げと迫る……。嫌がっても容赦はしない。ただの変態だ。

 でも、言われてみれば、ちょっと楽しかったかもしれない。大いに反省をすることになった。


「じ、じゃあ、さっさと帰りますか」

「そうだな」


 こうして、私達はお城に帰ることになった。


 ◇◇◇


 報告とか済ませれば、アルフレートの解散の一言で、本日の業務は終了となる。

 皆が部屋をでていったあと、私は振り返ってアルフレートに話しかけた。


「ねえ、今日も水鏡魔法で連絡してもいい?」

「ああ、それは問題ないが」

「が?」

「いや、風呂でしか話せないのかと思って」

「ああ、大丈夫。桶に水を張って、その中に鼠妖精ラ・フェアリの村の蜂蜜を入れるやつを用意してくれたらそこに繋げるから」

「それならば、安心だ」

「そうだね」


 お風呂を覗いてしまったのは、本当に申し訳ないと思う。


「あ、そろそろ行かなきゃ」


 馬車を待たせているのだ。

 夜、ゆっくり話そうと約束をした。

 手を振って別れる。


 帰宅をすれば、リリンが玄関で待ち構えていた。


「お姉さま、おかえりなさいませ」

「うん、ただいま」


 廊下を歩きながら、今日一日あったできごとを語ってくれる。

 楽しそうで何よりだと思った。


「お姉さまは、どうだった?」

「私はね、騎士様とアルフレートと、湖の調査に行ったよ」

「へえ、冒険物語みたい!」


 調査の内容を話すわけにもいかないので、馬に乗ったことや、湖の美しさを語って聞かせる。

 あまり外出をしたことがないらしく、それだけで喜んでくれた。ホッとひと安心。

 その後、家族全員で食事をし、お風呂に入ってあとは就寝。

 と、その前に、昨晩同様、アルフレートの水鏡通信を試してみるが――


「おかしいなあ……」


 思わず独り言を呟いてしまう。

 今日はなぜかアルフレートの魔力を掴めないのだ。

 もしかして、寝ちゃったとか?

 でも、私の魔法が失敗していたとすれば、アルフレートは待っているということになる。


 どうしようか。

 炎狼を呼んで、手紙を届けてもらうことにした。

 召喚後、炎狼にアルフレート宛ての手紙を託す。

 話は明日、することにした。


▼notice▼


蒼竜

水属性最強の竜。伝説上の存在と囁かれていたが、実在していた。

メルヴとは友達になったようだった。

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