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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第五十九話 初めての任務――どうしてこうなった!

 魔導研究局で扱うのは、国内で起こった不可思議事件の調査及び解決。


「今まで、騎士団に通報があった事件の中で、迷宮入りしたものがいくつかあるらしい」


 湖の水に襲われた商人、木々が動く迷いの森、翅が生えた筋肉質なおっさん、脱出不可能な地下迷宮、走る植物……んん?


「ちょっと待って。不思議案件の中に、二件ほどよく知る現象が混ざっているんだけど!」

「メルヴと筋肉妖精マッスル・フェアリだな」

「そういえば、メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクとセイは?」

「留守番だ」


 なんでも、不思議生物に分類される御三方は、国の登録されるまで自由に出歩けないらしい。ちなみに、チュチュはこの国の領民なので問題ない。


「この申請は時間がかかる」

「そうなんだ~」


 まあ、力が必要となれば、メルヴも炎狼フロガ・ヴォルクも召喚できるけれど。

 筋肉妖精マッスル・フェアリ鼠妖精ラ・フェアリの村にいる。おそらく、以前滞在していた『熊刃』の騎士が目撃して通報したのだろう。


「この中でも一番緊急性が高いのは襲う水がある湖だろう。今日はここに向かおうと思っている」

「了解です」


 ドリスとチュチュはお留守番。現場へは馬で向かう。


「案内の騎士がもうすぐくるはずだが――」


 事件現場まで事件に当たった騎士隊員が先導してくれるらしい。

 しばらく待っていると、戸を叩く音が聞こえた。


「はいは~い」


 扉を開けば、鋭い眼差し、きっちりと整えた髪、長身の男前騎士が。


「あ、オルコット卿!」


 本日二度目の冷めた視線を浴びる。どうやら、オルコット卿が本日の案内役らしい。

 湖の調査にあたっていたのは、『熊刃』だったようだ。


 意味もなく見つめ合っていれば、突然腕を引かれて後退することになる。

 おっとっととバランスを取りながら振り返れば、アルフレートが怖い顔をして立っていた。


「オルコット卿、今日はよろしく頼む」

「御意」


 まさか、アルフレートはまだオルコット卿が私に好意を抱いていると勘違いをしているのだろうか。

 この通り、あまり好かれていないのは一目瞭然なんだけれど。


「殿下、もう、出発しても?」

「問題ない」


 外に馬を用意してくれているらしい。扱いやすい子だといいな。

 昼食など、ドリスが準備をしてくれていた。


「ドリス、ありがとう。楽しみにしているね! それじゃ、お留守番よろしく」

「はい。エルフリーデさんも気をつけてねえ~」

「了解!」


 若干足取りが軽かったからか、途中でアルフレートに「遊びに行くのではないからな!」と怒られてしまった。大いに反省。

 でも、オルコット卿がびっくりしていたのがちょっと面白かった。

 アルフレート、怒りん坊に見えないからね。私も最初は常に涼しい顔をしたクールな人かと思っていた。

 実は熱血で、他人を想う気持ちが強くて、母性豊かな人だって、教えてあげたい。


「――わぷ!」


 アルフレートが突然止まったので、背中にぶつかってしまった。


「お前は~~!!」

「ご、ごめ~ん」


 気づけば外。四頭のお馬さんがいた。ちょっとびっくり。

 考えごとをしながら歩くなと怒られてしまう。


「どうしてそんなに注意散漫なんだ! ここは長閑な鼠妖精ラ・フェアリの村ではないのだぞ!?」

「う、うん……」

「殿下」

「なんだ!」


 突然間に入ってくるオルコット卿。何かと思えば、怒り方がきつくないかというお言葉であった。

 指摘を受けたアルフレートの眉間の皺が、ぐっと深くなる。


「エルフリーデの……部下の指導に、部外者である貴公は口をださないでいただきたい」

「それは、失礼を」


 オルコット卿が庇ってくれたおかげで、アルフレートの顔がさらに険しくなってしまった。こ、怖すぎる!


「いいか、エルフリーデ。馬に乗っている間は、操縦に集中しろ。落馬は最悪命を落とす」

「了解です。……その、いつも心配かけてごめんね」

「わかればいい」


 顔を伏せ、姿勢を正し、反省のポース。

 ジロリと睨まれているのを感じていたが、本当に反省しているのが伝わったからか、すぐに解放された。


「すまない。早く発とう」


 気になるお馬さんと言えば――


「あ、青毛ちゃん!」


 なんと、以前、鼠妖精ラ・フェアリの村でお付き合いのあった青毛の馬だった。

 久しぶりと声をかければ、ふふんと鼻を鳴らしてくれる。

 アルフレートも、以前乗っていた葦毛の馬だった。村から連れてきていたらしい。

 オルコット卿の馬も立派だ。黒くて大きく、毛並みも美しい。

 ホラーツは栗毛の馬に乗るらしい。鬣がつやつやの、綺麗なお馬さんだ。


 早速、荷物を鞍に吊り下げて跨る。

 先頭を走るオルコット卿。

 お城の敷地から外にでて、街の大通りを横切り、郊外へと走る。

 出発前の情報によれば、王都より一時間くらいの場所にあると言う。


 オルコット卿、私、アルフレート、ホラーツの順で走る。

 王都から隣街まで繋がる街道は、綺麗に整備されていた。

 森の木々に囲まれた道は、風がとても気持ちが良い。

 青毛ちゃんは思いっきり走れるのが嬉しいのか、軽やかに走っている。

 このまま問題なく現場まで行けると思っていたが――


 突然、速度を緩めるオルコット卿の馬。

 すぐに、私も理由を察する。

 じわりと、胃が重たくなるような感覚は――瘴気と魔物の気配。

 振り返れば、アルフレートもコクリと頷いていた。

 すぐに、杖を召喚し、手元に引き寄せる。


 オルコット卿が腰から剣を引いた刹那、木の上より何かが落下してみた。


 ――クルルルルルルッ!!


 独特な鳴き声と共に現れたのは、大きな蠍のような生き物。全部で五体。

 背後より、ホラーツが叫ぶ。


『毒があります! 尾に気をつけてください!』


 それを聞いたオルコット卿は馬の背から飛び降り、お尻を叩いて後退させていた。

 咄嗟に、馬上での戦闘は不利だと判断したのだろう。


 ホラーツは馬が怪我をしないよう、結界を張っていた。

 オルコット卿はすぐさま狙いを定め、地面を強く蹴る。

 動きだしたのは同時だった。


 成人男性が四つん這いになったくらいの大きさの蠍は、尾の毒で攻撃をしてくる。

 針のような鋭い尾から、毒が飛散するのだ。


 前衛のオルコット卿に蠍が集中した。

 前方にいた蠍の脳天を突き、険を抜いて後退する。攻撃を受けた蠍は暴れだし、周囲の味方(?)に毒をまき散らしていく。陣形が乱れたその隙に、魔法を発動させる。炎の球を作りだして、放った。全弾、無事に着弾する。

 ダメージを受けて動きが鈍くなった蠍に、地面より生えたアルフレートの氷柱が体を貫通させる。 


 蠍はその場で息絶えたようだった。

 馬から降りたホラーツが、蠍を観察して解説する。


『こちらが、砂漠に生息する個体のようです。猛毒を持っており、準中位魔物に分類されていますが、これも――』


 魔王出現の影響だろう。ゾッとしてしまう。


「オルコット卿、大丈夫だった?」

「はい」


 良かったと一安心。

 やっぱり魔物を引き受けてくれる前衛がいると、戦闘もスムーズになる。

 魔法の力は強力だけど、当たらなければ意味がない。

 なので、隙を作ってくれる前衛も必要だな~と、今回の戦闘でひしひしと感じてしまった。

 アルフレートも、同じことを思っていたようだ。


「その点に関しては、もう少し待ってくれ。交渉中の案件がある」

「そっか。決まるといいね」

「ああ」


 気分を入れ直して、移動再開!

 各々馬に跨り、街道を走っていく。

 王都をでて一時間半後、やっとのことで現場に辿り着いた。


 そこはごくごく普通の湖に見える。

 道の脇にあり、通り過ぎる商人などを襲って商品などを奪っているらしい。

 被害は決まって商人。

 盗賊の可能性も考えていたが、被害に遭った商人たちは皆揃って蔓のような水の物体に襲われたと証言しているのだ。

 聞いた限りでは、魔法が絡んだ事件としか言いようがない。

 ホラーツが真剣な表情で湖を見て回っている。

 私も覗き込んでみたけれど、いまいちよくわからない。

 かすかに魔力の気配がするけれど、この程度だったら、その辺の木々からも感じる。


『すみません、少々時間がかかりそうなので、昼食を召し上がっていてください』


 ホラーツは食べないようだ。ドリスの作ってくれたお弁当を、オルコット卿へ渡していた。


 こうして、私達は仲良く三人で食事を取ることに。


 うわあ~~、気まずい。


▼notice▼


氷柱

アルフレートの得意とする氷系上級魔法。

地面より生える鋭い氷の柱が襲いかかる。

強力だが、素早い敵には命中しにくい。

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