表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/125

第五十八話 活動開始――魔導研究局!

 ちょっとだけ打ち解けたリリンに、チュチュを紹介する。

 リチャード殿下の使用人の陰に隠れていたチュチュが、ちまちまと歩きながらリリンの前にでてきた。


『は、はじめまして、鼠妖精ラ・フェアリのチュチュでちゅ』

「!?」


 チュチュは優雅なお辞儀をする。

 瞬きをしたリリンの瞳から、星が飛びだしてきたのがわかった。

 その衝撃には同意する。私もそうだったから。


 見つめ合う二人。

 その様子は可愛らしいの一言でしかない。


「鼠の、お姫様……!」

『いいえ、わたくしは、ただの長の娘です。そのような身分では』


 今日のチュチュは薄紅色のドレスを着ていたのだ。お姫様にしか見えない。

 リチャード殿下に名前を呼ばれ、ハッと我に返ったリリンは、お辞儀を返す。


「わたしはリリン。よ、よろしく」

「はい、よろしくお願いいたします」


 二人共、雰囲気が似ていて、気が合いそうだなと思った。微笑ましい気分になる。


 そのあとは、部屋を案内してもらったり、使用人の紹介が合ったり、皆でお茶会をしたりと大忙し。


 夕食なども緊張していたけれど、一家は温かく私を迎えてくれた。


 広いお風呂に入り、大きな寝台へと滑り込む。瞼を閉じれば、今すぐにでも眠れそうだった。

 ごろりと寝返りを打ちつつ考える。アルフレートに今日のこと、話したかったな、なんて。

 きっとこの先、気軽に話す時間を作ることは難しくなるだろう。

 私はリチャード殿下の娘で、アルフレートは王子様なのだ。

 未婚の男女が個人的に会うことは、許されていない。寂しい。


「――あ!」


 そういえばと思いだす。桶に水を張って、遠くにいる相手と話をする魔法があったなと。

 同じように水に入った桶を用意していなくても、アルフレートの部屋に鏡とかあれば、繋がるはずだ。

 さっそく、挑戦してみる。

 悪いと思いつつも、侍女さんに頼んで小さな桶に水を汲んできてもらった。


 まず、水の中に鼠妖精ラ・フェアリの村の蜂蜜を垂らして混ぜる。

 そこに指先を浸し、魔力を流した。

 あとは糸を伸ばすようにして、アルフレートの魔力を探る。


「――おっ!」


 アルフレート発見! どうやら、鏡とか水辺の近くにいるようだった。

 仕上げの呪文を唱えれば――


「アルフレート!」

『うわ!!』


 突然呼びかけてしまい、驚きの声が聞こえる。申し訳ないと謝った。

 術が上手く展開できていないのか、水面に浮かぶのはもやもやとした景色。アルフレートの姿は見えない。


『な、なんなんだ!?』

「アルフレート、聞こえる?」

『エルフリーデ、どこにいるんだ?』

「リチャード殿下の家だけど」


 妙に声が響く。いったいどこにいるのだろうか?


『なぜ、声だけ聞こえる?』

「魔法でアルフレートのいる場所と声と姿か見えるように繋げているんだけど」

『な、なんだと!?』


 ばしゃりと大きく水が跳ねる音がした。どうかしたのかと、水面を覗き込む。

 向こうの様子が見えるように、集中した。すると、もやもやが晴れて――


「おお……これは!」

『止めろ、見るな!』


 やっとのことで見えたアルフレートは、上半身裸だった。

 どうやら、入浴中だったらしい。だから声が反響していたのかと、納得。


「い、忙しい時間にごめん……ぜんぜん、ぜんぜん見えていないから……」

『嘘吐け!』


 うん、嘘。水も滴るいい男と言いますか、ガッツリ見てしまった。


「いや、ごめんね。ちょっと話がしたいなって思って。まさか、お風呂に入っているとは」

『いや、まあ、私もいきなりで、過剰な反応を示してしまった』

「ううん、悪いのは私だから」


 そうか、こういうことも起こりうるのか、この魔法は。

 もう一度謝って、通信を切ろうとすれば待ったがかかる。


『そちらへはどういった物ものが見えている?』

「上半身裸のアルフレート」


 向こうから深い溜息が聞こえた。ごめんなさい。


「私の姿は見えない?」

『ああ、エルフリーデの姿は、まったく』


 ということは、一方的にアルフレートの入浴する様子を覗いていることになるのだ。なんという申し訳なさ……。


「じゃあ、また明日」

『話をしたいことがあったのでは?』

「大した用事じゃないんだ。些細なことだから、このままだったらアルフレートはのぼせちゃうし、また今度でも」

『些細なことでも、聞きたい。私のことは気にするな』

「……」

『エルフリーデ?』

「あ、ご、ごめん!」


 照れていました! なんてことは言えず、私はアルフレートの裸を眺める。


『どうした?』

「良い体ですね……じゃなくて、なんでもない! 今日はお試し的な感じだったから、また今度! ごめん、おやすみなさい!」

『おい、エルフリーデ――!』


 結局、恥ずかしくなって一方的に通信を切ってしまった。

 明日、改めて謝らなければ。裸を見てしまってごめんなさい、と。


 ◇◇◇


 本日は出勤一日目。

 ついに、魔導研究局が始動するのだ。

 支給されていた制服に袖を通す。今まで着ていた神子服――詰襟の上着にズボンと同じような意匠デザインなので、違和感はない。

 制服は上下黒で、私の髪色も黒なので、全身黒尽くめになってしまったけれどね。

 アルフレートをイメージした氷竜の隊章、改めてカッコイイなと思う。


 朝はチュチュが身支度を手伝う。高い椅子に昇って、私の髪に丁寧に櫛を入れてくれた。

 鏡越しに目が合えば、ついつい笑ってしまう。


『エルフリーデ様、制服、とってもお似合いです』

「チュチュも可愛いよ」

『あ、ありがとうございます』


 チュチュも、魔導研究局の黒いお仕着せを纏っていた。スカートがフリフリで、いたるところにレースがあしらわれていて、とっても可憐なのである。


 身支度が整えば朝食の時間。

 食堂にはリチャード殿下がいた。時間が早いので、サリアさんとリリンはまだいない。朝食を一緒に取ることはほぼないと言う。


「毎朝一人で食べていたものだから、嬉しく思うぞ」


 でへへと笑っている間に、食事が配膳される。

 本日のメニューは焼きたての丸いパンに、白いソーセージ、ゆで卵、サラダ。

 パンは手のひらくらいの大きさで、二つに割って蜂蜜を塗って食べる。

 表面はカリ、中はふわ。バターの風味が香ばしくて、蜂蜜の濃厚な甘さとよく合う。

 白いソーセージは皮をナイフとフォークで剥いて食べるらしい。初めてなので苦戦。

 リチャード殿下が剥き方を教えてくれた。

 白いソーセージなんて初めてで、感激してしまう。柑橘の風味が効いていて、食感もふわふわで不思議。

 なぜ白いのかと聞けば、卵白などで作られているからだと教えてくれた。なるほどな~~。


 朝食を終え、リチャード殿下と共にお城へ出仕する。

 馬車には迎えがきていた。

 私にはドリスが。魔導研究局の黒いお仕着せがよく似合っている。なんというか、とっても色っぽい。

 一方で、リチャード殿下には――


「あ、オルコット卿!」


 『熊刃』の騎士、フランクリン・オルコットがリチャード殿下の傍付きとして待機していたのだ。

 相変わらずの男前で、涼しい目付きで私を見下ろしている。

 お久しぶりですねと声をかけても、「そうですね」と素っ気ない返事をするばかりであった。


 ここから先は別行動。リチャード殿下に別れを告げた。


「それでは」

「ああ、帰りも時間が合えば、共に帰ろうぞ」

「は~い」


 その後、ドリスの先導で魔導研究局に割り当てられた部屋へと向かう。


 見慣れない制服を着ているからか、美人のドリスが歩いているからか、はたまた、可愛いチュチュがいるからか、すれ違う人々は振り返って私達を見る。


 集まる視線に気まずい思いをしつつ長い長い廊下を通り抜け、地下へ繋がる階段を下りていく。

 なんだか鼠妖精ラ・フェアリの領主城の雰囲気に似ていて、ホッとする。


 辿り着いた先には、『魔導研究局本部』という看板が下げられていた。

 ドリスはトントンと扉を叩き、中へと入る。


 部屋は思っていた以上に広い。そして、廊下よりもひんやりとしている。


 中は執務机が向かい合うように四つ、壁際に大きな机が置いてあった。そこに、アルフレートが座っていた。


 魔導研究局の制服を着たアルフレートは驚くほど恰好よくて、思わず見惚れてしまった。

 背後に控えるホラーツも、詰襟の制服がよく似合っていた。耳の間にちょこんと乗っている帽子がなんとも言えない。


 さっそく、魔導研究局の活動が開始される。


「――朝礼を始めよう」


 アルフレートは局員に声をかけた。


▼notice▼


水鏡通信

相手の魔力を探って通信を結ぶ魔法。

エルフリーデはうっかり入浴中のアルフレートに繋いでしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ