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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第三章 【王都にて、氷解】

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第五十七話 家族ができました――恐縮です

「すまぬ、待たせたな」

「い、いいえ、ぜんぜん!」

「さようであったか」


 目の前に現れた人物は、見上げるような長身の厳つい顔をした熊男――ではなくて。


「リチャード殿下!」

「久しいな、エルフリーデ殿」


 うわあ、びっくりした!

 やって来たのはアルフレートの二番目のお兄様、リチャード殿下だった。

 もしかして、貴族の方の仲介をしてくれるのだろうか? 直々に? う~~む。

 でも、元気そうでよかった。

 騎士団『熊刃』のみんなも相変わらずだと言う。


「お会いできて嬉しいです」

「これからは、私の娘になるから、毎日会えるな!」

「はい――え!?」


 リチャード殿下、今、とんでもないことを言ったような……?


「気軽に、父と呼んでほしい」

「お、お父……様?」

「ああ、そうだ。私がエルフリーデ殿のお父様だ」


 な ん だ っ て ~ ~ ! ! !


 叫びたいのをぐっと堪える。

 同時に、さきほどアルフレートが微妙な顔だったことを思い出し、納得した。

 そりゃ、王族の養子になるとわかれば、困惑もするよね。私も絶賛困惑中。


「え~っと、最初は隣国の貴族の養子になると、聞いていたのですが」

「ああ。アルフレートの母君の実家、ストラルドブラグ家が引き取るという話で進んでいたのだが、将来を考えれば、国内に籍を置いていたほうが、都合がいいと思ってな」

「将来とは?」

「まあ、その話はおいおいするとして。もういくつか、理由があるのだ」


 将来のことが一番気になるのですが……。

 でも、老後を鼠妖精ラ・フェアリの村で過ごすには、そのほうがいいのかもしれない。

 お役御免とか言われて、知り合いもいない隣国に行くように命じられても困るし。


「一つ目は、私がエルフリーデ殿のことを好ましく思っているからだ。自信を持って言える。お主は、どこにだしても恥ずかしくない、よい娘だと」


 まっすぐに愛を語ってくるので、照れてしまった。

 リチャード殿下がそんな風に思っていてくれていたなんて。嬉しい。


「で、二つ目が、私のかねてからの願いを叶えて欲しいと、思っている」

「お、おお……!」


 リチャード殿下の願い。なんだろうかと思ったけれど、こちらもおいおい話すらしい。


「叶えられるかわからないですけれど、精一杯頑張ります」

「ああ、頼んだぞ」


 最後、三つめの理由は――


「実は、私には六つの娘がいるのだが、最近、姉が欲しいと熱望しだしてな」

「な、なるほど」


 都で人気の絵本で、姉妹がでてくる物語があって、それに影響されているらしい。

 自分が姉になると思いつかないところが可愛いというか、なんというか。


「そんなわけで、エルフリーデ殿には、娘リリンの姉になってほしいのだ」

「了解しました!」


 養子として引き取ってくれる理由は、十分に理解できた。

 どれも、嬉しいものだった。

 期待に応えられるように、努力を重ねるしかない。

 特に、リチャード殿下の願いの成就については、どうにかしたいものだ。

 内容を聞かないことにはどうにもならないけれど。


「ではさっそく、今から父と娘になろうではないか、エルフリーデよ」

「はい、お父様!」


 リチャード殿下を父と呼ぶなんて、恐れ多いことだけれど、受け入れるしかない。

 話を聞いた時はひたすら慄いていたけれど、私に、家族ができたんだって思うと、今は心がじんわりと温かくなっていた。


 家族と言えば、リチャード殿下が父親になれば、もしかしなくても、アルフレートは私の叔父さんになるのかな?


「どうかしたのか?」

「いえ、アルフレートが叔父になるんだなあと」

「ああ、心配はいらぬ。親戚同士でも、血が繋がらぬ者同士は結婚けっこ――」

『うおっほん!!』


 同席していたホラーツが突然咳き込む。大丈夫かと背中を摩りながら聞けば、平気だと言う。


「あ、すみません、リチャード殿下、それで心配って?」

「いや、なんでもない。この点に関しても、後々……な」

『ですね』

「わかりました」


 なんだか後々に話をすることが多い案件だった。


「それはそうと、敬語ではなく、実の父のように話しかけてくれると嬉しい」

「わかりま……わかった!」

「ありがとう、エルフリーデ」


 再び、もじもじしてしまう。

 リチャード殿下みたいな立派な御方がお父様だなんて。


 ちなみに、チュチュはリチャード殿下の家で、私付きの侍女として住み込みで働くことになるとか。彼女がいれば心強い。


「話は以上。では、今から家族に会って欲しいのだが」

「喜んで!」


 こうして、私とリチャード殿下はアルフレートの部屋をあとにしたのだった。


 ◇◇◇


 アルフレートの離宮をでて、馬車で揺られること一時間。

 リチャード殿下の立派な離宮に到着した。


 ステルノ城と呼ばれる離宮は、数百年の歴史あるお城で、かつては軍事利用されていた施設らしい。

 外観に華やかさはないけれど、内部に入ってみれば絢爛豪華な様子が見て取れる。

 ずらりと並んだ使用人に出迎えられ、おお! とのけ反ってしまった。

 息の合った「おかえりなさいませ!」は迫力がある。

 ちらりと背後を振り返れば、ついて来ていたチュチュも緊張しているように見えた。

 ぜんぜん大丈夫じゃないけれど、目が合ったので、虚勢を張って微笑んでおいた。思いっきり、顔引き攣っていたけれど。


 肖像画が飾ってある廊下を通過し、大きな扉の前に到着する。ここが家族団らんの場らしい。


 執事と従僕っぽい人達が、扉を開いてくれた。


 中にあった長椅子に座っていたのは、たおやかな美女と、幼い美少女。

 リチャード殿下が紹介をしてくれる。


「エルフリーデ、私の家族だ」

「お、おお……!」


 なんだろう。素晴らしい芸術品を見ているかのような気分になる。

 リチャード殿下の奥方、サリア様……。

 ブルネットの美しい髪に、湖のような優しい目をしている。

 立ち上がって近づき、そっと手を握ってくれた。


「あなたが、エルフリーデさんね。はじめまして。リチャードの妻の、サリアです」

「は、はじめまして、お会いできて、光栄です」

「私も、夫から話を聞いていて、会うのを楽しみにしていました」

「ありがとうございます……!」


 リチャード殿下はいったい何を話したのか。

 炎を魔物にぶちかまして、農作業をして、のびのびと過ごしていた姿くらいしか見せていなかったけれど。


「これから、よろしくお願いいたします」

「こ、こちらこそ!」


 サリアさんと挨拶を済ませれば、今度は小さなお姫様が紹介された。

 お母さんと同じく、ブルネットの髪に、湖の目をした可愛い子ちゃん。


「あれが娘のリリン」

「リリン……ちゃん」


 リリンは長椅子に座ったまま、立ち上がろうとしない。

 顔もうつむいたままで、こちらを一瞥すらしていなかった。


「むう、リリン、挨拶をしないか」

「照れているのでしょうね」

「ううむ……」


 私はゆっくりとリリンに近づく。

 腕は背中で組み、怖くないよ~という空気を振りまいてみた。

 少し離れた位置に膝を突き、ゆっくりと話しかけてきた。


「こんにちは、リリン」

「……」


 話しかけた途端、ぎゅっと唇を噛みしめるリリン。だめかな~~?

 もう少しだけ、語りかけてみる。


「私、エルフリーデって言うんだ。今日からここに住むことになったんだけど、よろしくね」


 ギギギと、油の差さっていない歯車のような動きで、顔を逸らされてしまった。

 困ったな~~。こうなったら、最後の手段!


「ねえ、魔法、見せてあげようか?」


 そう聞けば、パッとこちらを見てくれる。釣れた!

 にっこりと微笑えみかけ、私は怖くないよ~と視線で訴える。

 目が合えば、そろそろとゆっくり逸らされてしまったけれど、その表情は照れとか、羞恥とか、そんな感じだ。

 大丈夫、リリンは人見知りをしているだけ。

 丁寧に魔法の説明をしてから、術式を展開させる。


「リリン、私は炎の魔法が得意なんだ」


 指先にポッと小さな炎をだす。

 ゆらゆらと揺れていた炎だったが、魔力の流れを変えて、蝶の形にしてみた。ひらりと舞った蝶は、空中で消えていった。


「す、すごい!!」


 リリンが叫び、手を叩いてくれる。


「あ、あの、アルフレートお兄さまも、魔法使えるって本当?」

「本当だよ。魔法でアイスクリームが作れるんだ」

「すごい、すご~い!!」


 リリンの瞳が、星のようにキラキラと輝く。

 興奮した口ぶりで、リチャード殿下にアルフレートとも会いたいと話していた。


「リリン、わかったから、まず、エルフリーデに言うことがあるだろう」

「あ、はい」


 リリンは立ち上がって、スカートの裾を摘まむと、可愛らしい淑女の礼を見せてくれた。


「は、はじめまして、リリンです。その、ずっと、楽しみに、しておりました」

「ありがとう。これから、よろしくね」


 そんな風に言えば、頬を染めてはにかんでくれた。

▼notice▼


炎の蝶

エルフリーデの宴会芸。

王都で魔法を見せてくれと言われた時に、害のない魔法が作れるよう、密かに練習していた。

さっそく、役に立った。

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