第五十六話 お引越し――王都へ!
二話更新していますm(__)m
とうとうやってきた、鼠妖精の村人との別れの日。
地下の転移陣から王都に行くので、領主城の玄関先で見送りを受ける。
『アルフレート殿下、エルフリーデ様、本当に、お世話になりました』
「ああ、村長も達者で」
「元気でね」
『ええ、ええ……娘のことも、よろしくお願いいたします』
「任せて」
お宅の娘さんは、私達が幸せにします。
そんなことを思いながら、しっかりと握手を交わし、最後に抱擁する。
うわ~~、村長ふかふかだよ~~。
そんなことはさておいて。
鼠妖精の村人達も、大勢見送りに来てくれた。
いつでも帰っておいでとか、お休みの日は遊びにきてねとか、嬉しいことを言ってくれる。
そんなに温かく見送られたら、涙が……。
長くここにいたら辛くなってしまうので、ほどほどのタイミングで引き上げる。
アルフレートは村人達に手を振り、微笑みかける。その瞬間、キャアと奥様方の黄色い声が。気持ちはわかる。さっきの笑顔は爽やかで素敵だった。
最近、たくさん笑ってくれるようになった。それだけ、心に余裕もできたのだろう。
鼠妖精達も、感激して目がウルウルしていた。
ホラーツは杖を掲げてから、会釈をする。
アルフレートを陰で支えた一番の功労者。鼠妖精の相談ごとにも耳を傾け、丁寧に助言をしていた姿はよく見かけていた。
村のみんなも、別れを惜しんでいる。
チュチュはみんなの期待を背負っていくようだ。
頑張り屋で健気な彼女は、どこに行っても愛されるだろう。
ドリスは、深々と村人達に頭を下げていた。
彼女は前領主の奥様で、最初こそ警戒されていたみたいだけれど、今はすっかり打ち解けていた。ドリスも老後はこの村で暮らしたいといっている。
素敵なもふもふライフを過ごそうと、今から二人で人生設計を考えているところだ。
メルヴは片手に聖獣のセイを持ち、ぶんぶんと空いた手を振っていた。
鼠妖精の村では、畑仕事を手伝ったり、散歩に行って村人と交流を図ったりと、精霊らしからぬ行動をしていた。
炎狼と仲良くしてくれたのもびっくり。
二人が仲良く過ごす様子は、鼠妖精達の癒しにもなっていたらしい。
最後に、私もお礼と別れの挨拶をする。
「みんな、ありがとう~~! 私、頑張るね~~!」
涙がでないうちに踵を返し、走って領主のお城へと入る。
そのまま地下部屋に行き、王都へ転移するらしい。
荷物は昨晩、ホラーツが運んでくれたとのこと。
転移陣がはじめてのドリスとチュチュは緊張しているようだった。
今までで一番大きな魔法陣の中に入る。
『さて、行きますか』
「ああ、爺、頼む」
アルフレートの返事をきっかけに、魔法が発動された。
周囲は光に包まれ、景色がくるりと変わっていく。
◇◇◇
おっとっと! と、着地でたたらを踏んでいたのは私だけだったようで、恥ずかしくなる。
笑って誤魔化した。
「エルフリーデ、転移後の魔力酔いは?」
「あ、そういえば、ないかも!」
『それはようございました』
やっぱりアレは首輪の悪影響だったんだなと。まことに遺憾なり。
ドリスやチュチュも大丈夫だったみたいでホッ。
転移先はアルフレートの離宮のお部屋。
この建物(部屋の中にいるので、規模は謎)はすべて、アルフレートとアルフレートのお母さんの物らしい。
使用人がきちんと掃除をしていたようで、どこもかしこもぴかぴかだ。
部屋はテーブルと長椅子があって、ふかふかの絨毯が敷いてある。部屋は広いのに、ほとんど何もない。シンプルなお部屋であった。
ドリスはとりあえず実家に帰るらしい。チュチュも一緒に行くとか。
アルフレートは今からいろいろと報告に行くと言う。
「エルフリーデは養子先の親と会ってくれ」
「あ、うん。了解」
一応、ホラーツが身元保証人として一緒に来てくれるらしい。凄く心強い。
それにしても、貴族の家に養子に入るとか、話が大きくなっていてガクブルしてしまう。
「以前、隣国の貴族へ養子に入ると説明していたと思うが、ついさっき、変更になった」
「そうだったんだ」
「国内の……貴族でエルフリーデを養子にしたいと言う者がいて」
「了解」
なんだか微妙な顔をしているアルフレート。いったい誰なのかと聞いても、う~んと唸るばかりだ。
まあ、私の知らない人なのだろう。緊張する。
私を引き取ってくれると言うので、きっと優しい人なんだろうけれど。
「まあ、会ってから、諸々話し合ってほしい」
「わかった。ありがとうね」
「いや……私もいろいろと尽力をしたのだが……」
「大丈夫。なんとかなるよ。それよりも、私は障害なくアルフレートの傍にいられることが嬉しいから!」
「エルフリーデ……」
切ない表情となるアルフレート。
彼をこんな顔にさせる人物とは、いったい……。
そして、各々解散となった。
メルヴに炎狼、聖獣のセイは部屋の隅で遊び始める。
『セイチャン、コッチマデ、歩ケルカナ~~?』
『にゃう!』
セイはまだよちよち歩きだ。
メルヴに呼ばれ、短い脚を懸命に動かしながら歩いている。
炎狼は心配そうに後ろからついて行っていた。
私も近くで応援したい。
けれど、セイに近づけば、くしゃみが止まらなくなるのだ。残念過ぎる……。
ちなみに、アルフレートも最初は大丈夫だったみたいだけど、最近は近づけば寒気がすると言っていた。不思議だなあ。
聖獣は未知の存在なので、そういうこともありうるのだと、ホラーツが行っていた。
微笑ましい気持ちで、メルヴ達を眺めていると、トントンと扉が叩かれる。
「どうぞ~~」
失礼しますと言って入ってきたのは、綺麗なドレスを着ているお嬢さま方。
十人くらいいるのだろうか?
皆、童話にでてくるお姫様みたいで、綺麗な女性達だ。
いったい何用かと思っていれば――
「はじめまして、わたくし達は、エルフリーデ姫の身支度を行うよう、命じられて参上いたしました」
――ん、どこのお姫様の身支度をするのかな?
一人一人、自己紹介をしてくれる。
みんな可愛いよと、心の中で呟いていた。
「それでは、初めさせていただきますね」
「――んん?」
両脇をお姫様に囲まれ、腕を組まれる。
連れていかれたのは――お風呂!?
「ひえええええ~~!!」
瞬く間に裸に剥かれ、ザバーとほどよい温かさのお湯を頭の上から被せられた。
待って、なんとか姫って私のことだったの? どうして? なんで姫呼び?
頭の中は一気に真っ白になった。
◇◇◇
結果、私はお姫様のようになった。
綺麗に体を磨かれ(※洗われている時、体が削られるかと思った)、美容マッサージを受け(※超絶痛かった、多分、骨格変わってる)、矯正下着で体を締め上げ(※これは拷問器具です)、最後に深い青色のドレスを纏った。
美しさは腕力で出来ていると、身をもって体験してしまった。
それから化粧を施され、短い髪には付け毛が編みこまる。サイドを編み、後頭部で纏めてリボンで留めてくれた。
鏡を覗き込めば、別人のような自分の姿が映り込んで、これは魔法(※要腕力)だと感激してしまった。
「お綺麗ですわ、エルフリーデ姫」
「あ、うん、ありがとうね」
姫じゃないですと訂正したいんだけど、お嬢様方の笑顔の迫力が凄過ぎて、何も言えなくなる。
きっと、王宮にいる女性はみんなお姫様呼びをしているのだろう。
アルフレートの部屋に戻れば、ホラーツがお茶を飲んでいた。
『おやおや、これはまた、素晴らしい。エルフリーデ様、本物のお姫様のようですね』
「いや、そこまでじゃないでしょう」
『またまた、ご謙遜を!』
いや、ご謙遜とかじゃなくってね……。
まあ、妖精族は美意識が人間と違うと言うし、ここは喜んでおこうと思う。
私を引き取ってくれる心の広い御方は、わざわざここまで足を運んでくれるらしい。
長椅子に座り、緊張しながら待機する。
途中、ドリスとチュチュが戻って来てくれた。後ろで見守ってくれるようで、心強いと思った。
待機する中で、うっかり顔が強張ってしまう。
そんな私を、ホラーツは励ましてくれた。
『エルフリーデ様、心配いらないですよ。とても、お優しい方ですので』
「だ、だよね……」
そうだとわかっていても、緊張をしてしまうわけで……。
そして、とうとう顔合わせの瞬間が訪れる。
扉が叩かれたのと同時に、立ち上がってピンと背筋を伸ばす。
部屋の中に入ってきたのは――
「……あれ?」
意外過ぎる人物だった!
▼notice▼
美への追及
女性は誰もがさなぎから蝶となる。
しかし、その過程には、腕力が必要だった――




