幕間 アルフレートのひとりごと
エルフリーデとの出会いは、薄暗い地下だった。
爺は大精霊を召喚するというので、緊張をしていた最中に、やってきたのが彼女だったのだ。
炎魔法で浮かび上がった姿。
初め、見目麗しい少年かと思った。
短い黒髪に、好奇心旺盛な赤い目、騎士が着るような詰襟の服。明るく快活そうな雰囲気など。
けれどよくよく見れば、体全体は丸身を帯びており、腰の位置も高くほっそりしている。
胸には膨らみがあるようにも思えた。
声はそこまで高くない。けれど、女性のものだろう。
目が合えば、不思議そうな顔で首を傾げている。
その仕草が可愛くて――いや、なんでもない。
それよりも、なぜ、精霊ではなく、普通の(恰好は変わっているが)女性がやってきてしまったのか。
問いただそうとすれば、爺に言葉を遮られる。
爺は平伏をするような勢いで女性に捲し立てる。この地を救ってくださいと。
最終的には地面に額をつけ、炎の大精霊様だと言って願う。
彼女は人ではなく、女性の姿をした精霊だった。爺が言うのならば、間違いないと思う。
私も地面に膝を突き、頼み込んだ。
これが、炎の大精霊、エルフリーデとの出会いである。
彼女は私達の願いを叶え、村の危機を救い、鼠妖精の村の安寧を取り戻してくれた――。
その後も、村での生活を続けてくれたが、日々、疑問は募るばかりであった。
エルフリーデは炎の大精霊を自称しているが、知れば知るほど、普通の女性にしか見えないのだ。
たしかに、大きな炎の力を持っている。人知を超えた能力であろうことは私も認めている。
けれど、普段のふるまいや物事の考え方、行動は人と異なる存在とは思えない。
爺にも一度質問したことがある。
問いかけに対し『間違いなく炎の大精霊様ですよ』と言っていたが。聞いた瞬間、毛がぶわりと逆立ち、尻尾をピンと立て、目の瞳孔が開いていた。
警戒や動揺が隠せていなかった。
よって、エルフリーデは高い割合で人間の女性だという可能性がある。
でもまあ、本人が隠したがっていたので、追及はしなかった。
もしも、それを聞くことによって、彼女がここを去ってしまうことが怖かった。
いつの間にか、エルフリーデがいない日々はありえないと思うようになっていたのだ。
掠める者襲撃の際に、思いがけず彼女が農家の娘であることを聞いた時は驚いた。どこぞの貴族の娘だと思っていたのだ。
改めて、本人より人間であると聞かされ、ホッとした。
安堵感は、日を追うごとに喜びへと変わっていったのだ。
そして現在――彼女は私の隣にいる。
それだけで幸せだと思っていたのに、その先にあるものを望んでしまう瞬間があった。
叶うならば、この先もずっと共に生きたい。
そう、伝えられる日がくることを、願っていた。




