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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第五十五話 鼠妖精の村――今日も平和です!

本日二話更新しています。こちらは、二話目です。

 いろいろと隠していたことを話してすっきりとしていたけれど、一番大事なことをまだ言えずにいる。

 その情報が本当に正しいのかわからないままだし、変に不安にさせるのもどうかなって思っているんだけれど。

 けれど『かもしれない』でも、先に言っておいたほうが良い。

 その方が、対策も取れるから。


 そんなわけで、私はアルフレートとホラーツに集まってもらった。


「それでね、話なんだけど――」


 真面目な顔でこちらを見るホラーツとアルフレート。

 うう、言いにくいなあ。


 時間がもったいないので、意を決し、話す。


「え~っと、話したいのは、魔王についてでして」

『何かご存知なのですか?』

「う~ん、まあ」


 各地方で発生した瘴気、魔導戦争ぶりに出現した中位魔物、狙われたアルフレートと私、それに関係があった首輪――以上のことを考えたら、ある存在ものと繋がってくる。


「多分、その、魔王的な存在って、魔導教会が信仰する、魔神、なんだと思う」

『な、なんと』

「エルフリーデ、それはどういう存在なのか?」


 魔神――それは世界の救世主。

 始まりの魔法の権化であり、神と同質の存在で、地上の精霊のすべてを掌握し、すべての妖精は友である。

 地上が災いで満たされた時、魔神は人の前に現れ、救いの手を差し伸べるだろう。


「……ってやつ。私の魔力、魔神に奪われていたんじゃないかな~って」

『なるほど』

「エルフリーデ、これは、国に報告しても?」

「いいよ」


 だって、私を処刑しようとした魔導教会に義理立てする必要なんてないのだ。


「でも、師匠のことは心配かも」

「いつも話している、メーガスのことか?」

「うん」


 最後に見た師匠メーガスは私を助けようとして筋肉隆々の神官に囚われていた。

 ずっと、どうしているか気になっていたのだ。


『お師匠様に関しては、エルフリーデ様と同じように、召喚術で呼び寄せることも可能ですが――』

「本当!?」

『ええ。ただ、一つだけ、魔力を大量に消費するので、お薦めはいたしません』


 ホラーツはそう言うけれど、可能ならば、こちらに呼び寄せたい。

 もちろん、師匠メーガスが困った状況にいる場合だったら、だけど。 


『そうですね。王都の冬に、良い機会があると思います。アルフレート様とエルフリーデ様、お二人の協力が必要になりますが』


 一緒に頑張ることってなんだろう。

 ちらりと見れば、アルフレートにさっと視線を逸らされてしまった。

 ホラーツに聞いても詳細は後程と言い、笑顔で『これ以上は聞かないで下さいね!』と無言の圧力を感じる。


 ――まあ、いいか。


 とにかく、方法があるのならば、それは嬉しいことだ。

 いくらでも頑張ると、宣言をした。


 ただ、アルフレートの顔色がどんどん赤くなっていくのが気になったけれど。


 ◇◇◇


 王都に行く前に、鼠妖精ラ・フェアリの家を一軒一軒回り、以前配った魔石の状態を調べる。

 素材が良かったのか、問題なく機能しているようだ。

 料理やお風呂など、火を用意しなくてもよくなったので、生活が楽になったと、鼠妖精ラ・フェアリの奥様方に褒められて、なんとも嬉しい気分に。

 皆、行く先々でお礼をしたいと言ってくれたけれど、その気持ちだけで私も幸せになれる。


 みんなをもふもふしたいとか、ぜんぜん、ぜんぜん思……うことは、あるけれど、ぐっと我慢。


 村に行ったついでに、畑の様子を見に行く。


 掠める者ハルピュイアに壊された柵や、荒らされた畑も、村人の協力あって元通りになった。

 植えていた麦などは駄目になったけれど、またすぐに生え変わる。

 畑は再生可能なのだ。


 鼠妖精ラ・フェアリ騎士団の本部にも顔をだす。


突きちゅッ! 斬りちゅッ! 払いちゅ~~ッ!』


 鎧に身を包んだ騎士達が一列に並び、隊長の指示で剣を振る。

 今日も訓練に力が入っているようだ。

 彼らは掠める者ハルピュイア戦でも大活躍をしてくれた。

 統率は自軍よりも取れていると、リチャード殿下も認める部隊である。


 私がきたことに気付くと、一斉に敬礼してくれた。

 相変わらずカッコカワイイ鼠さん達だった。


 村をぶらぶらしていれば、ふわりと、頭上に何かの影が通過する。

 突然、目の前に落ちてきたのは――筋肉妖精マッスル・フェアリ


「うわ、びっくりした。ローゼか」

『はい。突然の参上、どうぞお許しくださいませ』

「いや、いいけど」


 何か用かと聞けば、アルフレートが心配をしていたので、わざわざ探してくれたらしい。


『外出の際は、どうぞ、わたくしめを、お供に』

「う、うん、ありがとうね」

『――む!?』

「ん?」


 急に眼を細め、渋い顔になるローゼ。

 遠くに何かあったのだろうか?


『少し、見てきますね』

「いってらっしゃい」


 走っていくのかと思いきや、前傾姿勢となり、蝶に似た翅がブブブと音を鳴らして振動を始める。

 トン! と軽やかに地面を蹴れば、ふわりと宙を舞う筋肉妖精マッスル・フェアリ

 前傾姿勢のまま、両腕を組み、地面すれすれを猛烈な速さで飛行している。


「あ、あれは――」


 衝撃的な飛行の様子に、思わず言葉を失ってしまった。

 というか、翅を使って飛べたんだなあと。


 かえってきた筋肉妖精マッスル・フェアリの腕の中には、一匹の子猫が。


『猫でしたわ』

「そっか、猫か~」


 筋肉妖精マッスル・フェアリの腕の中で、ミャアミャアと鳴いている。

 銀色の毛に緑色の目をした綺麗な猫だった。


『どうなさいますか?』

「う~ん、アルフレートに聞いてみるよ」


 筋肉妖精マッスル・フェアリは子猫の小さな体を私に差し出してくる。


「うわ、凄くフワフワ!」


 子猫の毛は物凄く柔らか。頬ずりすれば――


「くっしゅん!」

『あらあら、大丈夫ですか?』

「うん、平気」


 風邪なんか引かないのに、不思議だね~っと子猫ちゃんに話しかける。

 それにしても、本当にもふもふフワフワだ。

 大人しく抱かれている猫を、再び頬ずりする。


「くっしゅん! くっしゅん!」

『あらあら』


 ……うん、これ、猫と相性が悪いのかも。

 聞いたことがある。動物の毛に反応して、具合が悪くなったり、くしゃみがとまらなくなったりする症状のことを。


「う、嘘でしょう!?」


 今からアルフレートに頼み込んで飼ってもいいか聞こうと思っていたのに。

 なんてこった~~!


 念のため、もう一回確認。

 子猫ちゃんをもふもふ。


「くっしゅん、くっしゅん、くっしゅん! うわん、これ絶対に駄目なやつだ!」


 残念なことに、猫との相性は悪いようだった。


 帰宅後、アルフレートに猫のことを報告する。


「なるほど。くしゃみが止まらないと」

「うん」


 子猫は籠の中に入れられ、大人しくしている。メルヴや炎狼フロガ・ヴォルクが不思議そうな表情で覗き込んでいた。

 ああ、私がお世話できたら、いつでももふもふし放題なのに。がっかりだ。


「あの子、どうする?」

「そうだな。鼠妖精ラ・フェアリは猫を飼う習慣はないようだし、かと言って、王都で飼い主を捜すのも――」

『アル様! メルヴト、炎チャンガ、子猫チャンノ、お世話ヲスル!』


 突然あがった声に、アルフレートと共に驚きの視線を向ける。


「メルヴ、本当か?」

『本当!』


 キリリ! とした顔で子猫を抱き、宣言するメルヴ。

 炎狼フロガ・ヴォルクの顔も引き締まっているように見えた。


 呆然とする中で、ホラーツがやってくる。


『おやおや』


 子猫を見て、目を見開いていた。


『メルヴさん、この子猫を、少し抱かせていただいても?』

『イイヨ!』


 ホラーツは子猫を抱きあげ、高く持ち上げると、すっと目を細めた。

 そして、にっこりと微笑み顔をこちらへと向ける。


『こちらの猫様は、聖獣ですね』

「ええ~~!?」


 上手く育てれば、強大な戦力となるでしょうと、ホラーツは言う。

 確かに毛色は銀で、普通の猫とは違う感じがしていたけれど。


「爺、聖獣はメルヴが育てたいと言っているのだが」

『ええ、ええ、お任せしてもいいでしょう』


 ホラーツは子猫をメルヴに渡しながら、説明を始める。


『聖獣の食事は魔力なのです。与え方は――』

『メルヴノ、葉ッパデモイイノ?』

『ええ、それもいいでしょう』


 聖獣についてはホラーツとメルヴ、炎狼フロガ・ヴォルクに任せていれば問題なさそうだ。


 詳しい話をするらしく、部屋からでて行ってしまった。


「残念だったな。猫の飼い主になれなくて」

「まあ、仕方がないといいますか」


 くしゃみが止まらないのは、属性や魔力の関係もあるかもしれないと、ホラーツは言っていた。

 聖獣もまだ小さいので、コントロールができていないだろうとも。


「そういえば、アルフレートの魔力とは反発しなくなったね」


 最初は近づいただけでピリピリとした感じだったような気がする。

 触れ合ったら、バチンと静電気が発生していた。

 今はそれがない。

 アルフレートが魔力の制御を覚えたからだろう。


「ということは、もふもふできるのはアルフレートの耳だけか~~」

「……誰が触らせてやると言った」

「ですよね」


 目の前にお触り自由なもふもふがあるのに、できないって辛いだろうなあ。

 はあ~~と深い溜息を吐いてしまった。


 それから、数日後。


 聖獣にはメルヴの葉を乾燥させて炒り、お湯で成分を抽出した物を与えているらしい。

 名付けて、メルヴ茶! と、心の中で呼んでいる。

 これがまた、香ばしい匂いを漂わせていて、美味しそうなんだよね。

 聖獣の食事なので、飲ませてくれとは口が裂けても言えないけれど。


『セイチャン、オ食事デスヨ~~』


 聖獣の名前はセイに決まった。わかりやすい。

 メルヴが子猫の世話をする様子は癒される。

 近づけばくしゃみが止まらなくなるので、遠巻きで見ているしかないけれど。


 そんなほのぼのとした様子を眺めていれば、アルフレートに部屋にくるよう呼びだされる。


 いったい、なんの用事なのか。

 首を傾げながらついていけば、想定外のお話を聞くことになる。

 アルフレートは長椅子に腰かけ、私は向かい合った位置に座る。

 そして、若干重い空気の中、話し始める。


「――この数日、大変な努力をした」

「うん?」


 そういえば、数日前から夜の魔法教室をお休みしたいという申し出があったのだ。

 いったい何をしていたのかと聞き返せば――


「私は、猫の耳を、自分の意志で出し入れできる魔法を習得したのだ」

「え、嘘!!」

「これで、魔力の揺れごときで、自らの意志とは裏腹に、猫の耳がでることはない」

「そ、そっか」


 凄いけれど、若干残念なような。

 アルフレートには悪いけれど、猫耳、とっても可愛くて似合っていたし。

 ああ、もう一度、もふもふしかたった。

 一回した時は酔っぱらっていたので、触り心地とか、あんまり覚えていないのだ。

 いや、ちょっと前の話なので、酔っ払い関係なく当たり前の話なんだけど。


「それで、エルフリーデ」

「はい?」


 近こう寄れと、手を振るアルフレート。

 長椅子を回り込み、隣に腰かける。


 じっと見つめ合うこと数十秒。

 私が先に恥ずかしくなって目を逸らす。


 思えば、こうして隣り合って座ったことは初めてだった。

 勉強会の時も、向かい合って座っていたし。


「えっと、何かな?」

「いや、ここ数日、猫を見てがっかりしているようだったから、私の、み、猫の耳に……」

「もしかして、触らせてくれるってこと?」


 コクリと頷くアルフレート。

 私はにやけてしまう口元を慌てて両手で覆った。


「いや、もう、なんか、嬉しい……」


 私のために頑張って猫耳魔法を習得してくれたなんて。

 アルフレートってば、健気過ぎる。

 嬉しい。嬉しいけれど――


「でも、気持ちだけ受け取っておくよ」

「なぜ?」


「だって、アルフレート、耳触るの嫌がっていたし」

「……」


 猫耳が制御できることになったのはいいことだろう。

 王都でうっかり猫耳なんか生やしてしまえば、大騒ぎになるだろうから。


「別に、嫌ではなかった」

「え!?」

「猫の耳だけに執着していたのが、面白くなかっただけで」

「そうだったんだ!」


 ということは、嫌がっていたのはあれか。

 異国の言葉でぴったりな表現があった。なんだっけ――嫌よ嫌よも好きのうち?


 まあ、それはいいとして。


「だったらさ、猫耳はださなくてもいいから、アルフレートの頭、撫でて、ぎゅっとしてもいい?」

「それは構わないが、いいのか?」

「うん」


 だって、私が本当に欲しいのは、猫耳毛並みの柔らかさではなくて、人の温かさだから。


 行儀が悪いけれど、長椅子に膝を突いて、アルフレートの髪に手を伸ばす。

 今日は整髪剤で整えていないので、サラサラだ。

 櫛で梳くように撫で、頭のてっぺんをよしよしする。

 それから、首元へ腕を伸ばし、ぎゅっと抱きしめた。


 アルフレートの指先とかはひんやりしていたけれど、首回りや頬っぺたはあったかい。

 あと、地味に眼鏡のフレームが当たる。


 短時間で凄く癒されたけれど、抱擁の終わり時がわからなかった。

 だんだんと、恥ずかしくもなる。

 本人に申告してみた。


「アルフレート」

「なんだ?」

「なんか、ドキドキするんだけど、こういうの、初めてで……」


 記憶の中にある、両親からの抱擁は、こんな風にドキドキしなかった。

 チュチュやドリスを抱きしめた時に感じる温かな思いとも、違うような気がする。


「私、アルフレートのことが、家族としてじゃなく、友達としてではなく、別の次元で好きなんだ」


 やっと、気づくことができた。

 ふと、反応がないので、アルフレートから離れて、顔を覗き込む。


「う、わあ!」


 いきなり腰を引き寄せられてバランスを崩し、アルフレートの膝に座ってしまった。

 目と目が合えば、照れてどうしようもなくなる。


「ようやく気付いたか」

「はい、気付きました」


 そう答えれば、肩を引き寄せられ、強く抱きしめられる。

 この状態からの抱擁は、この上なく恥ずかしい。

 アルフレートの胸に顔を埋めながら、必死に羞恥心と戦うことになった。


 ◇◇◇


 そしてそして、ようやく鼠妖精ラ・フェアリのアイスクリーム工場が完成した。

 アルフレート特製の氷の魔石を使って、アイスクリームの生産が始まる。

 工場長はドリスに、という案もあったけれど、急遽王都に行くことになったので、チューザーの婚約者のチュリンが長を務めることになった。

 アイスクリームを作るのは、鼠妖精ラ・フェアリの奥様方。

 村に出入りをする商人の噂を聞き付けて、いろんな種族が村にやってくる。

 毎日買いにくる常連もいるとか。


 アイスクリームはシンプルなバニラ味のみ。

 他の味は近日発売予定らしい。

 私とアルフレートも、列に並んでアイスクリームを買った。

 そして、村が一望できる見張り台に昇り、お邪魔させてもらって食べることに。


 アイスクリームの入った器は鼠妖精ラ・フェアリ特製の陶器。

 これに入れていると、溶けることがないのだ。食べたあと、返すようになっている。


 露台バルコニーにでて、腰を下ろし、村を見下ろしながらアイスクリームを匙で掬って食べる。


「う~ん、美味しい!」


 濃厚できめ細やかなアイスクリームの食感が堪らない。

 やっぱり暑い日は、冷たいものが一番だ。


「アルフレートのおかげで、アイスクリームがたくさん食べられる! 幸せ~~」


 反応がなかったので、隣に座るアルフレートを見る。

 なんだか、目が赤いような気がした。


「どうしたの?」

「いや、私の魔法も、誰かを幸せにできたのかと思えば……」

「そっか」


 アルフレートは魔法のせいで、他人と距離を置かなくてはならない状況に追い込まれていた。

 きっと、無意識に相手を傷つける魔法の存在が、恐ろしかったことだろう。


 けれど、魔法なんて扱い方を覚えれば、なんてことないものだったのだ。


「そうだな。この力など、なんてことのないものだ」


 そう。だから、安心して王都に帰ってほしい。

 他の人とも、もっともっと、関わって欲しいのだ。


 アルフレートと共に、村の様子を見下ろす。

 たくさんの妖精や人で溢れ、以前と比べれば随分と賑やかだった。


 そんな様子を眺めながら、いつかこの地に戻ってこようと約束をする。

 私の人生に、楽しみが一つ増えたのだった。


 第二章 【魔法使いと魔法使いの弟子】完

▼notice▼


第3章 王都編(仮題)は11月より連載開始いたしますm(__)m

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