第五十一話 気持ちの確認そのいち――すれ違い駄目絶対
掠める者襲撃から早二日。
村の様子は平和そのものだったけれど、領主城はてんやわんやだった。
物的被害は最小限に抑えることができた。
畑の柵の損傷及び、田畑が荒らされた程度。頑張った村人にとっては大問題であるけれど。
一方で、人的被害が若干大きかった。
掠める者との戦闘で、重傷者が五名、軽症者が十七名。
隊の大半は、今すぐ動ける状態にない。
ホラーツやメルヴ、ドリスに村の奥様方がつきっきりで看護に当たっている。
戦った掠める者の数は百を超えていたらしい。
自分の命と引き換えに仲間を呼び寄せる召喚の儀式は、恐ろしい術だった。
王都への知らせは竜人のヤンが『熊刃』の騎士を伴い、翼竜によって届けられることになる。
掠める者の脅威に覚えていた者達も、やっと安心できるだろうとのこと。
リチャード殿下はとっても元気で、村を回って鼠妖精達に声をかけて回ったり、畑の柵の修理を手伝ったり、アルフレートのお仕事に助言をしたりと、忙しそうに動き回っている。
私は村の外れで掠める者の亡骸の始末をすることになった。
地中に埋める話もでたけれど、役場との話し合いの結果、気味が悪いとのことで焼却処分の決定が下される。
動ける騎士が一ヶ所に亡骸を集め、炎の魔法で焼く。
幸い、悪臭などはなかったけれど、掠める者は一部人の形をしているので、精神的にくるものがあるのだ。地味に辛い。
空に立ち上る炎を眺めていれば、騎士――フランクリンが声をかけてくる。
「エルフリーデ殿、ここは私達が見ているので、先にお帰りになってください」
「いいの?」
「ええ、辛いでしょうから」
「ありがとう」
フランクリン、凄く良い奴。
早く結婚できるといいねと、心の中で応援しつつ、お言葉に甘えてお城に帰ることにした。
踵を返せば、アルフレートの姿を発見する。
焼却処分の様子を見にきたらしい。
フランクリンが報告をする。
「現場にあった掠める者の亡骸はすべて回収し、先ほど焼却を開始いたしました。魔法の炎なので、どの程度で焼けるかは定かではありませんが、魔法使い殿の話ではそこまで時間はかからないだろうと」
「承知した。ご苦労だったな」
「いえ……」
アルフレートは口ではフランクリンを労っていたものの、顔が超絶怖くなっている。
加えて、この二日間、村のために素晴らしい働きをしてくれたと褒めていたが、話す内容と表情がまったく一致していなかった。
いろいろと仕事を詰め込み過ぎて、疲労が貯まっているのだろうか。
フランクリンも、居心地が悪そうな顔をしていた。
早くお城に連れ帰らなければ。
そう思って、アルフレートの背中を軽く叩く。
「じ、じゃあ、あとはよろしくね! 炎、消す時にまた呼んでくれたら行くから」
「御意」
フランクリンと別れ、アルフレートと肩を並べて帰ることになる。
無言のまま、サクサクと村の通りを進んで行く。
表情は堅いまま。かなり疲れているのだろう。可哀想に。
帰り道は村を抜け、領主城へと繋がるちょっとした森へと差しかかる。
木の葉が重なり合い、さわさわと風に揺れる音や、鳥のさえずりが聞こえる中、さすがに気まずくなって、話しかけてしまった。
「あの、大丈夫?」
急に立ち止まり、私を見下ろすアルフレート。
顔は、やっぱり怖かった。
「大丈夫、ではない」
「それは大変だ」
少しでもいいから休んだ方がいいと言っても、首を横に振る。
「早く帰ろ?」
「その前に、聞きたいことがある。フランクリン・オルコットと、何を話していた?」
「私的なことは何も話していないよ」
フランクリンの家名はオルコットというらしい。
なんとなく聞きそびれていたので、これで呼びかける時も困らないだろうと思う。
そんなことよりも、アルフレートが怖い顔をしているわけを、それとなく察してしまった。
「アルフレート、さ」
「なんだ?」
「その、オルコット卿のことばかり、気にしているよね?」
「はあ!?」
「いいよ、隠さなくっても」
アルフレートは私がオルコット卿と仲良く話をしているように見えて、面白くなかったのだろう。
オルコット卿は優秀な騎士だ。きっと、お友達になりたかったのだろう。
アルフレートを差し置いて、話をする機会が多かったので、不機嫌になっているのかもしれない。
「よかったら、ゆっくり話をする機会を作ろうか?」
二人共シャイな感じがするので、間に入って気まずくならないようにするよと、提案してみる。
アルフレートは、どうしてか頭を抱えていた。
そして、叫ぶ。
「――鈍感にもほどがある!!」
「えっ!?」
突然のアルフレートの大声にびっくりする。
声に驚いて、鳥達がバサバサと飛び立つ音が聞えた。
「エルフリーデ!」
「は、はい!」
「私がずっと気にしていたのは――お前だ!」
「うわ、そうだったんだ、ごめ~ん!」
「……」
ジロリと睨まれる。謝罪が軽かったらしい。
重ねて、「勘違いをしてしまい、どうもすみませんでした」と頭を下げた。
けれど、アルフレートは「違う」と言う。
「違うって?」
「フランクリン・オルコットと会話しているところを見て、その、なんだ……つまらない嫉妬を、していた」
「え?」
面白くないって、そういうことだったの?
うわ~~びっくり。頭の中が真っ白になる。
「放っておけば、斜め上の解釈をするだろうから、言っておく」
「うん?」
そう宣言してから、アルフレートは黙り込む。
眉間に皺を寄せ、渋面を浮かべていた。
いったい何を言おうとしているのやら。
「私は――」
「はい」
「エルフリーデのことを――」
「はいはい」
「その――」
「なんでしょう?」
「異性として、意識している」
「はい?」
最後、とんでもない発言が聞こえた。
もう一度聞き返せば、しっかり聞いておけと怒られてしまった。
「ごめん、アルフレート、ちょっと意味が分からない!」
「お、お前は~~」
「違う、混乱していて、ちょっとまだ」
だって、先日やっとのことで炎の大精霊ではないと告白したばかりなのだ。
アルフレートは私が農家の娘であることを受け入れてくれたけれど、私はまだ、頭の整理ができていない。
これからの身の振り方も。
「私、炎の大精霊になりきるために一生懸命で、人が当たり前のように感じるいろんな感情を、見ない振りをしていたんだと思う」
少しだけ、心の整理をする時間が必要なのだろう。
「ごめんね。今は何も言えなくて」
「いや、いい。私も、焦っていて、余裕がなかった」
アルフレートは心配していたと言う。
フランクリンに私をかっ攫われてしまうのではないかと。
それはつまり、フランクリンが私のことが好きで、王都に連れて帰ってしまうということ?
聞けば、そうだと頷いている。
「いやいや、ありえないって!」
「ありえる。無自覚なのは罪だ!」
そんなこと言ったって、思い当たるふしがなさすぎる。
恰好は男みたいだし、髪も短いし、チュチュやドリスのようにお淑やかでもないし、女性として好かれる要素がなさすぎる。
「好ましく思う要素はある、たくさん」
「例えば?」
聞けば、急に顔を逸らすアルフレート。
教えてくれなければ納得できない。
そう言えば、大きな溜息と共に話してくれる。
「明るいところだったり、前向きなところだったり、元気なところだったり……何よりも、他人を想う心の在り方は、とても美しいと思っている」
「そっか」
「全部、お前のことだ。他人事のように聞くな!」
「で、ですよね」
でも、なんだか信じられない。
美しいなんて、言われたことがないから。
私もさっさと心の整理をしなくてはいけない。
答えなんて、改めて問わなくてもでているんだろうけれど、まだ、口にするのは怖かった。
だから、今日言えるのは一言だけ。
「ありがとう、アルフレート」
▼notice▼
フランクリン・オルコット(23)
意外と若い。(老け顔)
アルフレートとエルフリーデのラブコメに巻きこまれてしまった気の毒な人。
実はそれとなく、食事会の時からエルフリーデを気にする素振りを見せていた。
知らなかったとはいえ、アルフレートに睨まれてしまう事態に。
凄まじい嫉妬が含まれた睨みを浴び、エルフリーデのことを気にするのは止めようと思った始末。




