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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第四十九話 掠める者(ハルピュイア)――悪しき魔物

 リチャード殿下は、幼少期のアルフレートについて語る。


「アルフレートは、わけあって母親がおらず、魔法の力のこともあって、他人に心を許さぬ子どもだった」


 それは仕方がない話かもしれない。

 人との触れ合いによって魔力が揺らぎ、相手に悪影響を及ぼしてしまう。

 そんな状況下であれば、自分の心を守るだけで精一杯だろう。


「ホラーツが傍に付くようになって、いささか性格も柔らかくなったが――」


 ホラーツはアルフレートが普通の生活を送れるように、様々な魔法薬や魔道具を作ってくれたとか。

 けれど、それらもあまり効果をもたらすことはなかったらしい。


「私も、魔法の影響を受けない魔道具などを取り寄せ、暇さえあればアルフレートと過ごす時間を作った。正直に話せば、魔力の強い波動とやらを受けて、寝込んだりすることもあった」


 けれど、リチャード殿下は見捨てることはしなかった。

 だから、再会を果たした時、アルフレートは驚きながらも嬉しそうにしていたんだなと、その時の様子を思い出す。


「情けない話であるが、再会を喜ぶあまり、無意識に弟の背を叩いてしまったが、手先が凍ったり、急に昏倒したりするのではないかと、恐れてしまった。けれど、そんなこともなかった」


 アルフレートは魔力の制御を覚えたのだ。そのことを伝えたら、嬉しそうな笑顔を見せてくれるリチャード殿下。


「魔法は、すべてエルフリーデ殿が?」

「一応、ですが、成果があったのは、アルフレート……殿下の努力のたまものです」

「二人で頑張った、ということにしておこうではないか」

「はい、ありがとうございます」


 話はこれで終わりと思いきや、何故か私に頭を下げるリチャード殿下。


「ありがとう」

「え?」

「ここに来て、本当に、驚いた。アルフレートは、魔法の制御ができるようになった上に、普通の青年のように過ごしていた」


 それは、私のお手柄でもなんでもない。

 ホラーツの長年の努力だったり、鼠妖精ラ・フェアリの健気な献身だったり、昔からの友人、ヤンの支えがあったりと、さまざまな要因が積み重なった結果だ。


「そうか、そうかもしれぬ」


 そうなんですよ! 

 重ねて、周囲のみんなの力だと念を押す。


 これから、アルフレートはきっと鼠妖精ラ・フェアリが独立するために力を貸し、王都に帰るのだろう。

 再び、以前のように文官として働くことになるのかもしれない。

 そうなれば、輝かしい門出を笑顔で見送りたいなと思っている。


「ふむ」

「?」


 顎に手を当て、眉間に皺を寄せつつ、じっと私を見るリチャード殿下。

 にっこりと笑顔を返す。

 残念ながら渋面は崩れることはなかった。


「いろいろと、遠回しに言っても伝わらぬ、ということか」


 聞こえるか聞こえないかくらいの低い呟き。

 独り言かどうか判断に迷うし、言っていることの意味も不明。


「エルフリーデ殿、また、話をしよう」

「あ、はい」


 これ以上、何を話すのか。

 とりあえず、解放してもらえるようなので、部屋をでることに。


 その後、お風呂に入って休むことになった。


 深夜。

 窓枠がガタガタと強く揺れる音で目が覚める。

 嵐のような風が吹いていた。


 畑は大丈夫だろうか?

 芽がでていると、昼間喜んだばかりだったのに。


 そんな心配と共に、何故か胸がざわつく。嫌な予感がした。


 素早く着替え、部屋をでる。

 夜も遅い時間だけれど、メルヴと話をしたいと思った。


 メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクは、アルフレートの私室の隣にある普段使われていない部屋で休んでいる。

 トントンと扉を叩き、中へと入った。


 メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクは、ふかふかのクッションの上で眠っていた。

 無防備な寝顔に癒される。

 けれど、ざわつく胸はそのまま。治まりそうにもない。

 起こそうかどうか、迷っていれば、ぱっと目を覚ますメルヴ。


『ン……エルサン?』

「メルヴ、ごめん。夜遅くに」


 続けて、炎狼フロガ・ヴォルクも起きたようだ。

 メルヴはハッと何かに気付くような挙動をして、ガバリと起き上がる。窓の方を向き、昼間見せたような、頭部の葉っぱをピンと立てていた。

 そして、慌てたようにこちらへと向き直る。


『エルサン、大変! ナンカ、変ナノガ。コッチニ、来テイルヨ!』


 ついに、掠める者ハルピュイアのお出ましらしい。

 メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクに、アルフレートを起こすように頼む。

 私はホラーツの元へと急いだ。


 ◇◇◇


 短時間で戦闘準備が整えられた。

 各々、任された位置につく。


 私は村の外にある、見張り塔の上にいた。


 目を凝らして遠くを見つめたが、いまだ、掠める者ハルピュイアの姿は見えない。

 けれど、どこかにいるのだろう。

 嵐のように乱暴に吹きつける風が、その存在を示していた。


 見張り塔の露台にでて、周囲の様子を確認する。


 村人達の領主城への避難は完了。庭先では、筋肉妖精マッスル・フェアリ達が警護にあたってくれている。

 迎える準備は万端であった。


 相手の数は多くても五。

 こちらは『熊刃』の騎士が三十、鼠妖精ラ・フェアリ騎士団が五十。

 メルヴは葉の付いた手をシュッシュと突きだし、戦闘態勢でいた。

 私も、篝火の杖イグニス・ワンドを手に、時計塔の上で待機をする。

 ここから一番に、迎撃をするつもりだ。


 村の外には既に陣形が組まれている。

 騎士達が円を描くように並ぶのは、奇襲に特化した防衛陣形らしい。

 リチャード殿下は円の中心にいた。

 アルフレートも、後方で支援をするようだ。

 その傍らには、ホラーツと炎狼フロガ・ヴォルクの姿が。アルフレートを守るように佇んでいる。


 突然、胸のざわつきが強くなる。


『エルサン、来タ!』

「了解!」


 見張り塔の内部にいる、鼠妖精ラ・フェアリの騎士にも伝える。

 すると、警戒を知らせる鐘が鳴らされた。


 剣を鞘から抜き、戦闘態勢となる騎士達。


『――数七、左から三、右から四!!』


 目撃された数よりも多かった。

 緊張感が高まる。


 暗い中なので、掠める者ハルピュイアの姿を捉えるのは難しいと思っていたけれど、すぐに目視することができた。

 とは言っても、光っている目しか見えないけれど。


 掠める者ハルピュイアは上空を飛んでいるようだ。

 私は早速、炎の球を七つ、作りだす。

 杖のおかげで、いつも以上に大きな物ができた。

 集中して、狙いを定める。

 どんどん近づいてくる掠める者ハルピュイア

 今だと思い、炎を放った。


「当たれ~~!」


 もはや神頼みしかない。あと、杖の力も。


 願いが通じたのか、炎は全弾、掠める者ハルピュイアに当たったようだ。

 飛行の高度を落とすことに成功した。


「やった!」

『エルサン、凄い!』


 メルヴは万歳をして、喜んでくれた。

 私も、嬉しい。こんなにも杖の効果がでるなんて。

 これもすべて、ホラーツの助言のおかげだ。


 掠める者ハルピュイアの悲鳴のような声が聞こえる。

 闇に浮かぶ眼光を数えるが、炎の球の一撃で始末はできなかったようだ。


 まだ、騎士達は動かない。

 迎撃とは、タイミングも重要なのだろう。


 低空飛行で近づく掠める者ハルピュイア


 私はこの場での待機を命じられているので、動くわけにはいかなかった。

 メルヴも同様に。


 ついに、地面すれすれを飛行する掠める者ハルピュイアの姿を確認することができた。周囲に置かれた松明の明るさを受けて、全貌が明らかとなる。


 女性のような上半身に、手は羽根となっている。鶏のような脚に、鋭い爪先。

 眼は、怪しい赤に光っていた。

 悲鳴のような鳴き声に、人に似た姿。今までにない魔物を前にして、ぞくりと背筋に悪寒が走る。



 そんな中で、ついに戦闘開始の合図がリチャード殿下よりだされる。


「――手加減無用、撃て!!」


 弓兵の矢が、雨のように掠める者ハルピュイアへと振りそそいでいった。


▼notice▼


掠める者ハルピュイア

人を餌とする中位魔物。

色っぽい女性の姿で惑わし、男を誘い込む。

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