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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第四十四話 帰還――不穏な話と嬉しい話と

 三日ぶりの帰宅。

 領主城のみんなは温かい笑顔で迎えてくれた。


『アル様、エルサン、オ帰リナサイ~~』

「メルヴ~~!」


 すっかり元気を取り戻し、葉っぱも元通りになったメルヴ。

 嬉しくって、思わず抱擁してしまう。

 メルヴも、新しく頭から生えた葉を伸ばし、私をひしっと抱き返してくれた。


「よかった。元気になったんだ」

『ウン、メルヴ、元気ダヨ!』


 ホッとひと安心。

 みんなに買ってきたお土産も喜んでくれて、よかったよかった。


 その後、まったりと過ごす暇もなく、アルフレートは私とホラーツを呼び、旅行であったことなどの報告をする。


 チュチュが淹れてくれたお茶を啜り、ふうとひと息。


「ああ、チュチュのお茶、美味しいなあ」

『ですねえ~』


 このままゆっくりお茶を楽しみたいけれど、すぐに本題へと移ることになる。


「まったく、急な予定だと思っていれば、とんでもないことをしてくれたな」

『領主様、炎の大精霊様、申し訳ありませんでした。お二人だけでと言えば、ご遠慮されるかと思ったので』


 確かに、みんなはお留守番で、自分達だけ楽しんでこいと言われたら、アルフレートは反対していたかもしれない。


「まあいい。今回は水晶を入手するという目的もあったし」


 そうなのだ。

 アルフレートの活躍のおかげで、立派な水晶が入手できた。


『おやおや、大変綺麗な水晶ですね。透明度もさることながら、中に含まれている魔力量も素晴らしい。これだけの品、渡していたお金だけでは足りなかったのでは?』

「それについてだが――」


 アルフレートは複雑な表情で話し始める。水晶を手にするまでに至った話を。

 大蜥蜴の襲撃、私の首輪が締まったこと、それから、氷魔法での討伐など。


「――というわけだ」

『なるほど』


 初めて氷魔法が成功した出来事でもあったが、手放しに喜べるものではなかった。

 失敗していたら、大惨事になっていただろう。

 それに、私が魔法を使えなかったことも大問題だった。


「爺の見た感じでは、首輪を通して何者かに魔力が奪われているという話だったが」

『ええ、そうですね。炎の大精霊様、今一度、首輪を見せて頂いても?』

「うん、いいよ」


 ホラーツに首輪を見せる。

 頬や首にもふもふと毛が触れてくすぐったく、笑いそうになったけれどぐっと我慢。

 時間がかかるかと思ったけれど、すぐに耳元で、『これは……』という驚愕が含んだ呟きが聞こた。


「爺、どうかしたのか?」

『以前はなかった、呪文が刻まれていまして』


 なんだって~!?


 もしかして、首輪を通して魔導教会が私を探しているとか?

 それとも、魔力を奪い尽くして、命を奪おうとしているとか?

 どちらにせよ、恐ろしいことには変わりない。


 呪文の内容は、調べなければわからないと話す。解析に少しだけ時間がかかるとのこと。


「首輪は取ることはできないという話は聞いた。ミノル族なら、どうにかできるのではないか?」

『ああ、ミノル族! 彼らがいましたね』


 手先が器用で、魔道具を扱って様々な細工をする彼らならばどうにかすることができるかもしれない。ホラーツは盲点だったと話す。


『さっそく、依頼をだしてみますね』


 ホラーツは机に円を描き、中心を爪でトンと叩く。

 すると、鼠妖精ラ・フェアリの執事がやってきた。先ほどの魔法は、使用人を呼び出す合図のようなものらしい。

 大至急、ミノル族を村に呼ぶよう、指示をだしてくれた。


『それにしても、またもや中位魔物の出現ですか……』

「村長によると、他の地域でも魔物の数が増えたという報告が上がっているらしい」


 顎に手を添え、何やら考えごとをしているような素振りを見せるホラーツ。

 原因の心当たりがあるのだろうか。


「爺、何か思い当たることがあるのか?」

『あくまでも憶測なのですが』

「聞かせてくれ」

『はい。瘴気の濃度の変化、魔物の増加などは、ある現象の前触れではないかと、個人的には思うのです』


 その先を、ホラーツは言い淀む。

 口にだすのも恐ろしいことなのかもしれない。


「はっきりと言ってくれ。外れても構わないから」

『え、ええ。その前触れとは――』


 魔王降臨


 その言葉を聞いた刹那、全身に悪寒が走る。

 胃の辺りがぞわりと締め付けられるような、なんとも言えない気分となった。

 古代の歴史書には、魔王が出現する前兆が記されていたらしい。

 その中に、瘴気や魔物の増加についての例が数多く書かれていたと。


『魔王ではなくとも、何かとんでもなく強大な存在が、この地に降り立っているのではと、予測をしております』

「そうか……」


 一気に空気が重たくなる部屋の中。

 それも仕方がない。魔王の存在がほのめかされたのだから。


『ですが、安心なさってください。魔王が出現する時代には、共に勇者の存在も確認されていますから』


 だったらいいけれど。

 でも、どうしてか他人事のようには思えない。

 暗黒に染まった渦――事態の中心にいるような、そんな不安がよぎる。


『まあ、そんなことよりも、杖作りを始めましょう。こちらも、様々な事態に備えて戦力を固めるべきです』

「ああ、そうだな」


 アルフレートが魔法を使いこなせるようになれば、かなりの戦力になるだろう。

 私も、首輪がなくなって、杖を使うようになれば、もっと役立てるかもしれない。


『お手入れ用のバターと、杖の成長を促す魔法種の入手はすませておきました』

「おお……!」


 どうやら、旅行中にホラーツはずいぶんと頑張ってくれていたようだ。

 聖樹の枝に、クリスタロスで採れた水晶、お手入れ用のバターに、魔法種。

 杖の材料はすべて揃った。


『少し休んでからにしましょうか?』

「そうだな。エルフリーデも本調子ではないし」


 私は大丈夫だけど、アルフレートやホラーツも疲れているように見えたので、一休みに賛同する。


 ホラーツとアルフレートは、各々の私室で休むと言っていた。

 私はどこで休んでも同じなので、その場で待機となる。


 数分後、新たなお茶とお菓子が運ばれてきた。

 焼き菓子かと思いきや、目の前に置かれたお皿を二度して、チュチュの顔も見る。


「チュチュ、これって――」

『はい! こちら、皆で作ったアイスクリームの試作品です』

「お、おお……!」


 陶器の椀には、淡黄色のアイスクリームが!


「食べてもいいの?」

『もちろんでございまちゅ』

「わあ、ありがとう」


 降り積もった雪のようなアイスクリームを、匙でそっと掬って食べる。

 優しくて濃厚なミルクの甘さとひんやり冷たい食感が、口の中に広がった。


「すっごく美味しい」

『よかったです』


 なんでも、ドリスとチュチュを中心として、手の空いた使用人全員でアイスクリームの研究をしていたらしい。


「すごいよ! こんなに美味しい物を作ってしまうなんて」

『ですが、課題も多くて』


 アイスクリームを作るには、大量の氷を必要とするらしい。

 今回、商人からたくさん買って仕上げたとか。


「アルフレートの氷魔法が安定して使えるようになれば、アイスクリームの大量生産も夢じゃないかも!」

『楽しみです』

「そうだね」


 アルフレートの魔力量があれば、溶けない氷を作りだすことも可能だろう。


 役場で、アイスクリーム工房を作ろうかという話も挙がっているらしい。

 正式に決まれば、ドリスに経営などを任せようという話もでているとか。


「アイスクリームが食べられる喫茶店とかもあったらいいよね~」


 パンケーキに林檎ポムのパイ、果物たっぷりのパフェ――アイスクリームはお菓子との相性もいいと、本で読んだことがある。


『アイスクリームの喫茶店、あったらいいですね~』

「うん。夢が広がる」


 新しいことを始めるのはいいことだ。

 アイスクリーム工房や、喫茶店も、鼠妖精ラ・フェアリの独立を支える事業になればいいなとも思う。


『炎の御方様、ありがとうございます』

「なんのお礼かな?」

『炎の御方様がいらっしゃってから、領主様をはじめとする、皆様が楽しそうなので』

「それって私のおかげなのかな?」

『ええ、もちろんです!』


 そんな風に言ってくれて、本当に嬉しく思う。

 これから先も、鼠妖精ラ・フェアリのみんなにできることがあれば、全力で取り組もうと思った。 


▼notice▼


鼠妖精ラ・フェアリ特製アイスクリーム

ミルクの濃い味が特徴。なめらかな舌触り。

魔力微回復。

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