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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第一章【雪に埋もれた村と、大精霊に勘違いされた少女】
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第四話 召喚――私は大精霊ではございません!

 寝っ転がっていた状態から、いきなり立たされた状態になったので、その場で軽くバランスを崩しておっとっととたたらを踏んでしまう。


 ここは、いったい?

 もしかしなくても、私は助かった?


 手足の拘束も、いつの間にか解かれていた。


 これは夢なのだろうか。

 確認のために頬を抓ってみる――普通に痛かった。


 そこまで広くはない薄暗い部屋で、目の前に二名、誰かが立っているのが分かる。

 周囲は石壁で、じめっとした感じから地下にあるのかな? などと推測する。

 足元には淡く発光する魔法陣があった。


 これは――召喚の儀式に使う魔法陣?


 すべて読めるわけではないが、魔法陣に古代語で召喚をする際に使う【呼びだしルーフェン】の文字が刻まれていた。


 それにしても、寒い!

 神子服は厚手の布地だけれど、防寒的な機能はないようだ。

 吐く息が白いので、ここは極寒の地なのかもしれない。


 ガタガタと肩が揺れ出したので、魔法で炎を作り出す。

 すると同時に、目の前にいた二人の姿がほんやりと浮かび上がる。


 うちの一人と目が合った。

 眼鏡をかけていて、背が高い、わりと男前のお兄さん。神経質そうな空気がびしばし流れている。

 前髪をきっちりと分けており、厳しそうな雰囲気があった。


 一つだけ、ちょっと驚いてしまったのは、氷のような瞳。あれは多分――


「君は……」


 お兄さんが私にかけようとした言葉を制すように声をあげたのは、隣にいたもう一つの影。 


『よくぞ、よくぞこの地に降り立ってくださいました!!』

「ん?」


 視線を移せば、ぎょっとする。

 もう一人は、人ではなかった。


 猫の頭部に二足歩行を可能とする体、手には古めかしい杖を握り、足元まですっぽりと覆う魔法使いの外套をまとった――妖精族?


 灰色の毛並みは柔らかそうで、背は私よりも頭一つ分小さい。口元には立派なお髭が生えている。

 お爺ちゃん妖精のようだ。


 以前、師匠メーガスに話を聞いたことがあったのだ。

 この世界には沢山の妖精族がいて、人目につかないようにひっそりと暮らしていると。

 その中に、猫妖精フェアリ・ケッタという種族がいたような気がした。


 猫のお爺ちゃんは、驚きの願いを言ってくれる。


『突然の話で申し訳ないのですが、我らが領土を、どうかお救いくださいませ――』


 もっと驚いたのは、あとに続く言葉であった。


『炎の大精霊様!!』

「――え?」


 猫のおじいちゃんはその場で平伏をした。

 そんな、地面に額を付けてまでお願いするなんて。


 それよりも、なによりも、大精霊様って……。


 も、もしかして、炎の大精霊エルフリーデと間違われているとか?


「ちょ、ちょっと待って!」

「私からも、頼む」

「んん?」


 眼鏡のお兄さんも、地面に膝を突けてこうべを垂れ始めた。


 いろんなことが一気に起こりすぎて大混乱。


「こ、ここは、どこ?」


 ついでに「私は誰?」とも聞きたいけれど、質問は一個にしておく。


『リードバンク王国になります』

「お、おお……!」


 また、遠い国に呼ばれたものだ。

 リードバンク王国は地図の北方にある雪の深い地域で、うちの国とはほとんど外交はなかったはず。


 言葉が通じていることを不思議に思って魔法陣をみれば、きちんと意思の疎通ができるような呪文が刻まれていた。

 凄いな、この魔法陣。

 いやいや、そうじゃなくって。


『ご紹介が遅れました。わたくしめは、リンドリンド領、領主様に仕える魔法使い、ホラーツと申します』

「ど、どうも、これは、ご丁寧に」


 猫妖精フェアリ・ケッタですかと訊ねれば、「そうです」と答えてくれた。


『そして、隣に御座おわすのは、リードバンク第五王子にして、リンドリンド領の領主である、アルフレート・ゼル・フライフォーゲル様でございます』


 これが本物の、王子様?

 王子様というよりも、文官みたいな感じがするけれど。

 でもまあ、思わずひれ伏したくなるほどの高貴な雰囲気はある。どこぞのおじさんと違って。

 けれど、せっかく若い王子様に会えたのに、感動は薄い。

 イボ尻王子様のせいで、王子という存在に夢も希望なくなっていたのだ。


 それはそうと、向こう側の紹介が終わったので、こちらも名乗った。


「私の名はエルフリーデ。炎の――」

『大精霊様ですね!』

「……」


 神子と名乗るべきか迷っていたら、勝手に大精霊扱いをされてしまう。

 困った。

 でも、ここで「違うんですよ~えへへ」なんて言ったら、元いた場所に送り返されてしまうかもしれない。

 魔導教会に帰った私に待っているのは――打ち首だ。

 振り上げられた斧の鈍い輝きを思い出して、背筋をゾッとさせる。あのような経験は、二度とごめんだと思ってしまった、


 とりあえず、彼らの願いを聞いてみることにした。


「それで、あなた達の願いとは?」

『それは――』


 リンドリンド領。

 領民の数は三百、世帯は三十と人数や村の規模はそこまで大きなものではない。

 ここは、魔法の陶器を作る技術を持ち、それの流通、販売で利益を得ていた。


「魔法の陶器って?」

『この地にある特別な土を使って作られる物でして、装われた料理が冷めない、いつでもあつあつで美味しい状態に保つことができるお皿やカップなどを製作しております』

「へえ、それは凄い」


 貴族などが大枚を払って購入をするらしい。

 魔法の陶器のおかげで、村の財政状況はかなり良好な模様。

 領民のほとんどが、陶器製作を行う職人らしい。


 リンドリンド領の説明が終われば、本題に移る。

 猫妖精フェアリ・ケッタが平伏し、王子様であり領主様である人物が膝を折ってまで願うこととはは、いったい――?


『それが……前領主が、ですね、この地に棲む雪の大精霊の怒りを買ってしまい、春が来なくなってしまったのです』

「わ~お」


 なんでも、前領主様は狩猟が趣味で、その日も森に犬を従え、出かけていた。

 そんな中で、とんでもなく美しい白銀の狼を発見したとか。


『前領主様は、その白銀の狼めがけて猟銃を発砲しました』


 前領主様の腕はよく、狼の眉間に弾が届くはずだった。

 だがしかし、そこにいたはずの狼の姿が突然、消え失せてしまった。


 その時になって前領主は、あれは普通の狼ではないと気付き、地に伝わる雪の大精霊の伝説を思い出したのだ。

 同時に、耳元で低い女性の声が聞こえた。――お前、覚えておけよ、と。


『その日から、夜は吹雪、昼間はいくら太陽が照り付けても雪が溶けなくなるという状況が続いております。雪の大精霊様のお怒りに、触れてしまったのです』


 ちなみに、前領主一家は夜逃げをしていないらしい。

 なんでも、リンドリンド領の領主を務めるのは、一代限りなのだとか。


『魔法の陶器を守るための、処置の一つでございます』

「もしかして、同じ一族が独占をさせないため?」

『それもございます』

「ふうん」


 雪の大精霊が怒ったのと同時に、領民も怒った。当然だろう。

 深い雪のせいで、生活は困難を極め、さらに魔法の陶器製作も滞っているようだ。


『それで、炎の大精霊様に、我々の村をお救いいただけないかなと』

「具体的には?」

『一番の問題は、薪不足にございます』

「あ~、なるほどね」


 この時季、本来ならば雪が解けきり、春になっているらしい。

 長い冬の弊害で、暖炉にくべる薪が尽きかけていると話す。


『陶器製作に使う予備の薪を使い、なんとか凌いでいますが、限界もございます』

「食料は?」

『我々妖精は、あまり必要としません。領主様の分などは、月に一度の翼竜便で空輸しております』

「へえ、翼竜便ね」


 ここの国では、大変便利な流通方法があるようだ。

 だが、その翼竜便も、この地の異常気象を気味悪がってあまり来てくれないと言う。


『そんなわけで、どうか、お願いできま――』

「いいよ」

『!』


 精霊との交渉とか、戦いをして欲しいとかだったら無理だけど、薪代わりになる物の提供ならできそうだ。

 私は彼らの要求を叶えることにした。


『ありがとうございます!』

「私からも、礼を言う」


 今まで黙り込んでいた領主様も、お礼を言ってくれた。


 あまりにもあっさりと承諾したので、二人共呆気に取られているようだ。

 あとから、必要とする報酬を聞かれたけれど、衣食住の保証をしてくれとお願いするばかりだった。


「精霊なのに、衣食住を必要とすると?」


 領主様より鋭い指摘が入る。

 適当に、人の形を取り続けるためには必要だとか誤魔化しておいた。


「ところで、炎の大精霊様とやらは、女に見えるが?」

「え!?」


 やだ、女の子に見えるって?


 髪は短くて、男性用の服を着ているのに、女性に見えていたなんて。

 鏡に映る姿は少年にしか見えなかったから、余計に嬉しくなってしまう。

 周囲にいた少年神官の方が私よりも確実に可愛かったので、そう思ってしまったのかもしれないけれど。


 そっか~~、女の子に見えているのか~~。


 浮かれていれば、猫妖精フェアリ・ケッタが質問をしてくる。


『大精霊様は、特に性別などないのですよね?』

「……あ~うん、そう」


 精霊とは、自然のありとあらゆる物が意志を持った大きな力。

 性別とかなんとか、あるわけがない。

 それに、本物の精霊ではないので、その辺も曖昧にしておいた方がいいかなと思った。


「わかった。だが、一人、世話役を付けよう」

『それがよろしいですね』

「適任がいる。村長の娘で――」


 村長さんの娘にお世話をしていただくなんて。なんだか申し訳なく思ってしまう。

 でも、精霊が遠慮とか、人間くさいことはしない方がいいので、そのままどっしりと構えておいた。


 猫妖精フェアリ・ケッタ、ホラーツが呼びに行ってくれる。

 その間、領主様と気まずく、一言もしゃべらないという密な時間を過ごすことになった。


 ほどなくして、ホラーツが帰って来る。


『こちらが、村長の娘で――』

「え?」


 紹介された娘さんを見て、召喚された時以上に驚くことになった。


▼notice▼


エルフリーデはclass:神子【炎】から、大精霊【炎】?に変更された。


=status=


name :アルフレート・ゼル・フライフォーゲル

age:22

height:180

class :リンドリンド領、領主 

equipment:雪国礼装、眼鏡

skill:???

title:リードバンク王国第五王子

magic:???


=status=


name : ホラーツ

age:400

height:140

class :猫妖精フェアリ・ケッタ

equipment:魔法使いの外套、魔法使いの杖

skill:???

title:???

magic:???


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