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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第三十七話 不安――向き合うこころ

 メルヴは筋肉妖精マッスル・フェアリが看病をしてくれるようで、彼女達の花園に連れて行かれた。同じ植物系なので、任せていれば問題ないだろう。


 目的の品は入手できたけれど、結果が散々だ。

 さきほどから、溜息ばかり出てしまう。


『……炎の御方様?』

「ん?」


 振り向けば、ばつが悪そうな表情をしているチュチュの姿が。

 どうやら声をかけるタイミングを見計らっていたらしい。

 彼女の気配にすら、気付いてないほど落ち込んでいたとは。


「あ、ごめんね、何かな?」

『えっと、お食事にするか、お風呂にするか、それとも……』


 な、なんだろう、第三の選択肢は。

 もしかして、『わたくしを、もふもふしまちゅ?』とか!?


 正直、もふもふ……したい!


『炎の御方様、どうかなさいましたか?』

「え、ごめん、なんでもない!!」

『左様でございましたか。それで、お食事か、お風呂か、それともお休みになられるのか』

「あ、うん」


 だよね、選択肢に、もふもふなんてあるわけないよね。

 まだ食欲は湧かないので、先にお風呂に入ることにする。

 様子がおかしいと気付かれたのか、チュチュは特別な入浴剤を入れておくと言ってくれた。気遣いに、涙が出そうになる。


 浴室に着替えを持って来てくれたドリスにこのことを話せば、笑われてしまった。


「もふもふしたい~」

「気持ちはわかるけれど、難しい問題よねえ。王都に行く機会があれば、お土産にぬいぐるみを買ってくるのだけれど」

「ぬいぐるみとな!」


 ぬいぐるみなんて、絵本でしかみたことないや。

 貧乏村でも持っている人はいなかったと思う。


「幼少時代は大きなぬいぐるみに抱き付いて眠っていたわあ」

「いいなあ~」


 ぬいぐるみがあれば、私のもふもふ欲も満たされるかもしれない。

 なんだか、最近特に焦燥感というか、胸がざわざわしているような気がする。

 もふもふに触れて癒されたいと、強く思うようになっていた。

 でも、一番求めているのは、温かさかもしれない。


「なんだろう、最近、ぬくもりに飢えているのか」

「だったらエルフリーデさん、私に、抱き付いてみる?」

「え!?」


 ドリスは手を広げて、どうぞと言ってくれる。


「いや、それは悪いような」

「私はよろしくってよ。今日でなくてもいいし」

「う、うん。だったら、いつか、お願いしようかな」

「ええ、いつでもどうぞ」


 ドリスもチュチュもすごく優しい。

 嬉しくって、胸がいっぱいになった。


 ◇◇◇


 夕食はアルフレートと一緒に食べる。

 本日のメニューは春の山菜の温サラダ、燻製肉と豆のスープに、白身魚のパイ包み焼き、それから、焼きたてのふわふわパン。

 今晩もごちそうだ。


「どうした」

「へ?」


 食事を堪能しているつもりだったけれど、アルフレートに様子がおかしいと指摘される。


「私、おかしかった?」

「いつもはもっとしゃべっているだろう?」


 どうやら、無意識のうちに黙々と食事をしていたようだ。

 確かに、いつもは料理の感想をいったり、鼠妖精ラ・フェアリの料理人から話を聞いたりしていたような気がする。


「今日、何かあったのか?」

「大きな事件と言えばメルヴのことだけど――葉っぱ一枚減ったのは、私のせいで、もっとしっかりしていたら、倒れることもなかったのかなって」

「あれは自分の意志でしたことだ。気にすることではないだろう」

「そうかな?」


 多分、気落ちしているのはメルヴのことだけではないのだろう。

 ゆっくりと慎重に、心の中のもやもやを紐解いていく。


「なんていうのかな、自分が、情けなくて」

「何故?」

「アルフレートの、みんなの、役に立ちたくてここにいるのに、いまいち頼りないって言うか」

「そんなことを考えていたのか」

「だって、そのために呼び出されたのでしょう?」

「お前の役目はすでに果たしている」


 そうなのだ。

 鼠妖精ラ・フェアリの村の雪は解けた。本来ならば、私がここに留まる理由はない。

 無理矢理頼み込んでいるのが現状だった。


 魔導神殿には帰りたくない。

 帰ったとしても、待っているのは――

 いいや、考えるのは止めよう。

 今更村に帰るのもなんだか微妙だ。

 家族には会いたいけれど、元々裕福な家庭ではないし、私が戻れば家計をひっ迫させる可能性がある。魔導神殿からの援助も途絶えているはずなので、怒られるかもしれない。


 魔導神殿に引きこもって十年。

 人の世界の常識も欠けているだろう。

 きっと、私は一人では生きていけない。


 思えば、居場所なんて、世界のどこを探してもないのだ。

 だから、せめてここにいてもいいように、できることを必死に頑張るしかない。

 でも、現実は厳しいもので、日々、自分の無力さを痛感してしまう。


「炎の、何を考えている」

「いろいろと」


 言わなければわからないと、怒られてしまった。

 弱音でしかないので、言葉にするのも恐ろしいと思った。けれど、自分ではどうにもできない問題と感情なので、ちょっとだけ相談をしてみることにした。


 話を聞き終えたアルフレートは言う。「すべては、つまらない問題である」と。


「えっと、どういうことだろう?」

「私との間にある契約は、あってないものだと思っている」

「え?」

「初めに言っていただろう。友になりたいと」

「うん」

「よって、関係は平等であり――炎の、エルフリーデだけが頑張る必要などまったくない。互いに助け合うのが、友なのだろう? それで解決できなくとも、困ったことがあれば話し合えばいい。達成できないことがあれば、皆の協力を欲せばいいだけのこと。いったい、何を悩んでいるというのだ。ここにいる理由だって、少なくとも、私はお前を必要だと思っている。それだけでは、満足できないのか?」


 アルフレートの言葉を聞いて、泣きそうになる。

 ここにいてもいいんだってわかったら、ひどく安堵してしまった。

 どうやら、知らないうちに自分を追い込んでいたようだ。


「ありがとう、アルフレート」

「わかればいい」


 話が終わったので、食事を再開。


 料理はすっかり冷えてしまったけれど、どうしてかさっきよりも美味しいような、そんな気がした。


 ◇◇◇


 翌日。

 空は晴天。爽やかな春の風が漂っている。


『エルサン、オハヨ~!』


 筋肉妖精マッスル・フェアリの看病を受けていたメルヴは、一晩ですっかり元気になっていた。

 しかも、頭の上からちょこんと小さな芽がでていた。


「メルヴ、おはよう。元気そうで、よかった」

『ウン、メルヴ、元気ダヨ! エルさんハ?』

「私も、元気。もう、大丈夫」


 これから、何か不安に思ったり、わからないことがあったりしたら、まず、アルフレートに相談してみよう。

 自分一人で抱え込んだら、また昨日みたいに大変なことになるかもしれない。

 ざわざわもやもやしていた心は、晴れたような気がする。

 まだ、完全じゃないけれど。


 アルフレートは、私が炎の大精霊ではないと知ったら、どういう反応を示すのだろうか。

 がっかりするのか、嘘吐きだと怒るのか。

 聞くのが、正直かなり怖い。

 けれど、この問題とも向き合わなければならない。

 まだ、私はやり遂げていないことがある。

 杖は完成していないし、アルフレートに魔法も教えていない。

 だから、これが終えてからでもいいかな、とか思っている。


 だから、しばらくはこのままで――


『エルサン、アル様ト、猫サンガ呼ンデルヨ~』

「わかった!」


 杖作りについての話し合いをするらしい。

 残る材料は手入れ用のバターと宝石、魔法の種、精霊の加護。

 まだまだ先は長い。

 けれど、みんなの協力があれば、なんとかなるだろう。

 完成が楽しみだ。


▼notice▼


【ドリスの抱擁】・・・(効果)大変癒される。

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