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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第三十六話 聖樹――まさかの○○!

 呼ばずとも、自主的にローゼとリリーが出て来てくれた。

 筋肉妖精マッスル・フェアリの契約の魔道具は、人数が増えたので指輪から腕輪に変化している。銀製っぽい腕輪には、様々な花模様が彫られており、それを摩るだけで召喚できるようになっていた。


 邪悪なる眼イビル・オホの前に立ちはだかるローゼとリリー。

 逞しい後ろ姿は、頼もしいの一言しかない。

 彼女らは、微かに震えていた。

 恐らく、自然を破壊した魔物が許せないのだろう。


『……妖精魔法を見せて差し上げます』

『……御覚悟を』


 二人は邪悪なる眼イビル・オホに宣言した。

 凄まじい圧力を感じたからか、邪悪なる眼イビル・オホは瞬きをして魔法を発動させる。

 魔法陣が浮かんだ刹那、すぐさまローゼが動く。

 手の平を握りしめ――魔法陣に直接拳を叩き込んだ。

 すると、霧散する魔法陣。


「う、嘘だ~~!」


 予想外の出来事に、思わず叫んでしまう。

 物理攻撃で魔法取消マギア・キャンセルなど、聞いたことがない。

 ホラーツも初めて見たと、驚いていた。


 続いて、リリーが邪悪なる眼イビル・オホの眼球に、蹴りを入れる。

 ぶわっと涙を流しながら、後方へと飛ばされ、聖樹にぶつかってぐったりとなっていた。


「……ホラーツ、あれ、魔法なの?」

『え、ええ。魔法の定義は、いろいろありますから』

「なるほど」


 筋肉妖精マッスル・フェアリ達は同時に私を振り返る。

 え~っと、とどめを刺すように訴えているのかな?


 すぐさま、炎の槍フロガ・ランチャを作り出したが――


「あ~、外しそうで怖いなあ」


 枯れているとはいえ、聖樹を燃やしたくない。

 炎の槍フロガ・ランチャを構えたまま、もはや当たるのは神頼みしかないと思っていたが、想定外の場所から声がかかる。


『エルサン、メルヴガ、手伝ウヨ!』

「え?」

『任セテ!』

「うん、よろしく?」


 メルヴのお手伝いとは?

 首を傾げている間に、炎の槍フロガ・ランチャにメルヴの頭部から生えてきた蔓が巻かれる。


『一緒ニ投ゲルヨ~』

「あ~、そういうこと。了解!」


 いっせいの~で! で、放たれる炎の槍フロガ・ランチャ

 メルヴの蔓の導きがあって、見事、邪悪なる眼イビル・オホの眼球に刺さった。

 内部から炎に炙られ、絶命する。

 最後は黒い霧となって消えた。


「なんとか、倒せた……!」

『ええ』


 劣勢を強いられる戦いだったけれど、勝ちは勝ち。

 途中で加勢してくれたローゼとリリーに感謝をしなくてはならない。

 けれど――


「聖樹、もう、駄目だよね?」

『ええ、内部の魔力も奪われていますので、杖の材料にはならないでしょう』

「酷い……」


 なんでも、邪悪なる眼イビル・オホは中位魔物で、千年と姿を現した記録がないらしい。


『恐らく、最後の目撃が魔導戦争の時だったかと』

「なんで、そんなのがここに?」

『わかりません』


 そもそも、この瘴気の濃さも異常だと言う。


『何か、末恐ろしいことが、起こっているのやも――』

「え?」

『いいえ、なんでも』


 聖樹は採取できなかったけれど、他に材料がないわけではないとホラーツは話す。


『もちろん、聖樹がもっともふさわしい材料ではありますが、他に魔力を含んだ樹をいくつか知っています』

「だったらそれを――」

『待ッテ、エルサン、猫サン』


 今まで、聖樹を見上げていたメルヴは待ったをかける。

 どうしたのかとしゃがみ込んで話を聞くことに。


『メルヴ、聖樹ヲ、回復サセル!』

「そんなこと、できるの?」

『頑張ル!』


 びしっと片手を挙げながら、決意を示す。


 近くにいたローゼとリリーが、手伝いを申し出ていた。

 仲間達も呼ぶと言う。


『アリガトウ、花ノ妖精サン!』

『いえ、世界樹の分身である、聖樹の枯れた姿をそのままにしておくのは、忍びないですし』

『精霊様がいらっしゃって、本当に良かったです』


 何やら打ち合わせをしているメルヴと筋肉妖精マッスル・フェアリ

 ローゼとリリーが手を挙げれば、周囲にいくつもの花が咲き乱さる。

 中から出てきたのは、言わずもがな、筋肉妖精マッスル・フェアリ達。

 数は三十ほどだろうか。彼女らは、いったい何をするのやら。


 筋肉妖精マッスル・フェアリ達は聖樹の周囲を取り囲み、互いに手を繋ぐ。

 そして、聖樹の周囲を軽やかな足取りで回り、踊り始めた。


 筋肉妖精マッスル・フェアリサークルの中にいるメルヴも、驚くべき行動にでる。

 なんと、頭部に残っていた二枚の葉っぱを引っこ抜き、聖樹に差したのだ。


 メルヴは、つるっ禿げになってしまった。


「メルヴ、そんな……!」

『だ、大丈夫ですよ、すぐに生えると言っていましたし』


 頭部の葉っぱを聖樹に捧げ、メルヴは先端に葉っぱの付いた手を、旗のように振って魔法を発動させる。


『頑張レ~頑張レ~』


 踊る筋肉妖精マッスル・フェアリに、葉っぱを失ったメルヴ。

 混沌とした光景が、目の前に広がっている。

 詳しいコメントは、差し控えさせていただきたい。


 しばらく経てば、魔法が完成する。

 枯れた聖樹は光に包まれた。


「――わ!」

『こ、これは!』


 メルヴの魔法と、筋肉妖精マッスル・フェアリの祈りの舞いで、聖樹が元の姿を取り戻そうとしていた。


 黒ずんでいた幹は白に戻り、美しい葉が芽吹く。


 同時に、枯れ果てていた周囲の木々も元の姿を取り戻していた。


 あっという間に、森は本来の姿を取り戻す。

 それを見届けると、筋肉妖精マッスル・フェアリ達は慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、一人、一人と姿を消していく。


「あ、ありがとう、みんな!」


 私の声に応えるように頷きながら、ローゼとリリーも消えていった。

 なんだか切なくなったけれど、多分、鼠妖精ラ・フェアリの村の家に戻っただけだろう。帰ったら普通に会える。


 ふと、腕輪を見れば花の数が増えていた。

 恐らく、先ほど新しく来てくれた筋肉妖精マッスル・フェアリとも、契約を結んだ状態になっているのだろう。


 それはそうとして、功労者であるメルヴにもお礼を言わなければ。

 近寄った瞬間、小さな根菜類の体はバタリと音を立てて地に伏した。


「メルヴ!!」


 慌ててその体を抱き上げ、顔を覗き込む。

 いつもはまん丸としている目が、しょぼしょぼになっていた。

 心なしか、体もしわしわになっているような気がする。


「メルヴ、大丈夫!?」

『ウン、平気』

「あ、ありがとう! うう、こんなにしちゃって、ごめんね~~」

『心配ナイ、ヨ』


 ホラーツがメルヴの鞄の中から蜂蜜水を取り出して、飲ませていた。

 すると、ちょっと元気を取り戻したようで、体の艶も多少元に戻っていた。


『すみません、メルヴさん、治療法がなくて……』

『大丈夫。オ家ニ帰ッテ、メルヴヲ、庭ニ埋メテ、陽ノ光ヲ浴ビタラ、スグニ元気ニナルカラ』

『わかりました。帰宅後、すぐさまそのように』


 ここに長居はできない。

 さくっと二本、聖樹の枝を採集する。

 ちょうど、手の届く位置に生えていた、身の丈ほどあるそれをいただいた。

 聖樹の枝は持ち運ぶ時に傷がつかないよう、持参していた布に包んで背中に背負う。


 そして、急いで転移陣のある場所まで戻る。

 瘴気は綺麗に晴れているみたいで、魔物と出会うこともなかった。


 本日二度目の転移酔いを経て、鼠妖精ラ・フェアリの村に帰還を果たした。

 魔力の気配を察知したのか、アルフレートが迎えに来てくれる。


「ア、アルフレート、メルヴが~~」


 思わず、涙目になってしまい、言葉も震えてしまう。

 アルフレートは私の腕の中にいる変わり果てた姿となったメルヴを見て、目を見開いていた。

 その小さな体を、アルフレートへと託す。


 すると、不思議なことにメルヴの体が淡く光った。

 しょぼしょぼになっていた目が、ぱっちりと開く。


「メルヴ?」


 アルフレートが名を呼べば、ぱっと片手を挙げて反応を示した。


『メルヴ、元気ニナッタヨ!』

「え?」

『ああ、契約の力ですね』


 アルフレートとメルヴは契約で魔力が繋がっている。

 なので、消費した分を、取り込んだのだろうとホラーツが解説してくれた。


「よ、よかった~~」


 安堵から、その場にへたれ込んでしまう。

 頭の葉っぱは生えなかったけれど、元通りのメルヴに戻ったようだ。



▼notice▼


妖精魔法

なんていうか、すごく……物理攻撃です。

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