表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/125

第三十五話 聖樹――そんなのってないよ!

 以前、ホラーツが来たときは、もっと明るい森だったらしい。

 瘴気は漂っていたものの、魔物と出会うことはなかったとか。


『湿原帯でもないのに、茸系の魔物が大量発生しているのも不思議ですね』

「原因はなんだろうね」

『ええ、気になります』


 奥に進めば進むほど、瘴気の靄は濃くなっていく。

 さきほどから体の中がざわざわして落ち着かない。


 その様子は、前を歩く炎狼フロガ・ヴォルクにも伝染しているようだ。私の魔力の不安定さに駆られて、毛を逆立てたままでいる。


エンチャン、大丈夫ダヨ、メルヴモ居ルカラ』

『くうん』


 メルヴに励まされて、少しは治まったようだ。

 私もしっかりしなきゃと、頬を打って気合を入れる。


「――ん?」


 ふと、足元に違和感を覚えた。

 それと同時に、何かを訴えるかのように炎狼フロガ・ヴォルクが高く吠える。

 次に、メルヴが振り返って叫んだ。


『エルサン、猫サン、地面ニ、ナンカ居ルヨ!』


 その刹那、地面の土が盛り上がった。

 畑の畝を作り出すかのように、何かがこちらへと迫ってくる。


 炎狼フロガ・ヴォルクは動き回る地中にいる存在に、尻尾を振って作り出した炎の球をぶつけていた。

 すると、鋭く長い爪のような物が突き出してくる。


「な、なんなの、あれ!」

『恐らく、鼹鼠トープかと』


 鼹鼠トープとは、地中で生活をする魔物で、手には鋭い爪を持ち、体は筒状で細長。


『魔物の中でも大人しい種族で、こちらが巣などを脅かさない限り、戦いを挑んでくることはないのですが――』

「うっかり巣を踏んじゃったとか?」

『いえ、鼹鼠トープの巣は地下の深い場所にあるので、その可能性はないかと』

「そっか」


 ホラーツは濃い瘴気の影響で、おかしくなっているのではと推測する。

 炎狼フロガ・ヴォルクの攻撃を掻い潜るように逃げ回っていた鼹鼠トープだったが、ついに地中から上半身を現し、甲高い声で鳴き叫んだ。

 それはビリビリと空気が揺れるようなもので、耳が痛くなる。


『きゃうん!』


 ひときわ聴力が良い炎狼フロガ・ヴォルクは、鼹鼠トープの叫びを聞いて大きな衝撃を受けていた。ばたりと、その場に倒れる。


エンチャン!』


 メルヴはすぐさま駆け寄り、自身の頭部より葉っぱを引っこ抜いて炎狼フロガ・ヴォルクの口元へと持って行っていた。


 その様子を横目で見つつ、私は鼹鼠トープに向かって炎魔法を仕掛ける。


 ――炎槍フロガ・ランチャ


 炎で作り出した槍。新作です。

 それを、鼹鼠トープに向かって放つ。

 槍が地面に到達する前に、鼹鼠トープは再び地面の中へと潜っていく。

 放った槍は対象がいない土の盛り上がりに深く刺さった。が――これも計画とおりである。

 炎槍フロガ・ランチャは地中へ炎を噴出した。鼹鼠トープが掘った穴を炎で満たしていく。

 慌てた様子で鼹鼠トープは地中から這い上がってきた。

 そこへホラーツが、間髪入れずに雷撃を食らわせる。

 鼹鼠トープは伸びて動かなくなった。


 戦闘終了後、炎狼フロガ・ヴォルクの様子を見に行く。

 メルヴの葉っぱを食べたからか、元気を取り戻していたようだ。


「メルヴ、ありがとうね」

エンチャン、元気ニナッテ、良カッタネ』

「うん、良かった」


 メルヴの三枚あった葉っぱは二枚となり、若干頭部が寂しくなっていた。

 歩行のバランスも取りにくくなっているからか、よたよたと覚束ない足取りで歩いている。


「メルヴ、葉っぱなくて大丈夫?」

『平気ダヨ~』


 三日ほどで新しい葉っぱが生えるらしい。

 帰ったらお礼に蜂蜜水を作らねば。


 ◇◇◇


 進めば進むほど、辺りは暗くなっていく。

 魔物の出現率も上がっていった。


 とっくにお昼時は過ぎていたけれど、お食事を楽しめそうな空間はまったくなかった。

 ホラーツが聖樹のある場所まであと少しだと言うので、空腹を我慢して先に進む。

 チーム人外は食事を食べなくても良い者達の集まりなので、このような結果に。


 それよりも気になるのは――周囲にあるほとんどの木が枯れているということ。


「ホラーツ、これってもしかして……」

『何かが、木の魔力を取り込んで、あのような状態になったのでしょう』

「そ、そっか」


 もはや、嫌な予感しかしない。


 不安から目を背けるために、ホラーツに話しかける。


「聖樹ってどのくらいの大きさなの?」

『見上げるほどに大きな物ですよ』


 物語にでてくる世界樹のモデルが聖樹なんだとか。

 なんと、驚いたことに幹の色も、葉の色も、根の色も、何もかもが白らしい。

 世界一美しい植物とも言われていると。


『杖は枝を一本いただいて帰るのですが、長さや曲がり具合など、いろいろこだわって選んでいたら、あっという間に夜になっていたりしたことがありました』

「うわ~楽しそう!」


 早く見たいなあと呟いたあと、開けば場所に到着する。

 ここが森の最深部であり、聖樹が天に向かって高く伸びる場所であった。


 魔物を討伐し、瘴気の濃さに耐え、空腹と戦いながらここまでやって来た。

 なのに――


「う、嘘でしょう?」


 聖樹は、枯れていた。


 葉はすべて散り、幹は黒く染まっている。


「いったい何が、どうして――」


 そう呟いた瞬間、聖樹がみしりと音をたて、縦に裂ける。

 中から何かが飛び出してきた。


「なっ!」

『炎の大精霊様、お気を付けください!』


 聖樹の内部にいたのは、複数の触手の生えた巨大な目玉。


「あれは――」

『【邪悪なるイビル・オホ】でしょう』


 森を荒らしたのも、聖樹を見るも無残な状態にしたのも、この邪悪なるイビル・オホの仕業だろう。

 ふつふつと、怒りが湧きあがる。


 邪悪なるイビル・オホは触手を蠢かせ、探るような視線を向けていた。

 そして――


『来ますよ!』

「受けて立つ!」


 戦闘開始。

 触手の一本一本がそれぞれ意志を持ったように襲い来る。

 炎狼フロガ・ヴォルクは槍のように向かって来た触手を避け、噛みついたが逆に体を持って行かれてしまう。

 引かれた触手とともに、炎狼フロガ・ヴォルクも宙を舞っていたが、途中で噛みつくのを止めて、くるりと一回転しつつ地面に着地をする。


 一方、メルヴは手に生えていた葉っぱを刃のように鋭くさせ、向かってくる触手をスパスパと斬り刻んでいた。

 両断された触手は地面に落ちてもうねうねと動いている。気持ちが悪い。


邪悪なるイビル・オホと目を合わせてはいけません。あれは、強力な魔眼です』


 そんなことを言われても、本体が目なのでなかなか難しい。

 触手を炎で受け止め、焦がしながら思う。


 耐魔もかなりのものなのか、ホラーツの雷撃にもあまり怯んだ様子を見せていなかった。


 触手の数が減れば、邪悪なるイビル・オホ自身も魔法を使いだす。

 パチパチと瞬きをすれば、魔法陣が浮かび上がり、毒素を含んだ黒い雨に襲われる。

 それは服を溶かし、肌に突き刺さるような痛みをもたらす。


「口がないのに魔法を使うなんて卑怯だ~~」

邪悪なるイビル・オホは眼球と瞼の裏に呪文が刻まれていまして、瞬きの摩擦によって呪文が完成し、発動に至ると』

「なんだって~~」


 動きが速いので、私の魔法はことごとく当たらない。

 まあ、当たっても、そこまでダメージを与えることはできないだろうけれど。


 苦戦に苦戦を重ねる。

 やっぱり、前衛の戦力が薄かった。


 そこで、野太く、優しげな声が聞こえた。


『お力をお貸しいたしましょうか? エルフリーデ様』


 その声の主は――筋肉妖精マッスル・フェアリ


 彼女達の助けを、ありがたくちょうだいすることにした。


▼notice▼


鼹鼠トープ

モグラ型魔物。普段は大人しいが、瘴気にあてられて凶暴化していた。


邪悪なるイビル・オホ

目玉魔物。触手付きで耐魔が高め。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ