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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第三十三話 杖作りについて――若干面倒くさいです

 庭先では、実に平和な光景が広がっている。

 美しく咲いた花々、それを世話する筋肉妖精マッスル・フェアリ達(※人数が十名程に増えた)、そして、庭をかけ回るメルヴと炎狼フロガ・ヴォルク


 寛大なアルフレートは、炎狼フロガ・ヴォルクを傍に置いても良いと、許可を出してくれた。日々、遊んで攻撃が凄まじいものであったけれど、最近はメルヴが遊び相手をして務めている。ありがたいお話だ。


 今日は追いかけっこをしているようだが――


エンチャ~ン、メルヴヲ、捕マエテ、御覧ナサ~イ』

『わふう~~』


 意外にもメルヴの逃げ足は速く、炎狼フロガ・ヴォルクは捕まえることができないでいた。


 そんな風に無邪気に走り回る精霊たちを、優しい瞳で見守る筋肉妖精マッスル・フェアリ達。


 ――うん、実に平和だ。


 なんか、感覚がおかしくなっているような気がするけれど、心配事は何もないし、深く考えないことにした。


 ◇◇◇


 夜。

 メルヴと炎狼フロガ・ヴォルクは遊び疲れたのか、ふかふかの絨毯の上に寄りそうように寝転がっている。

 触れあっても炎が燃え移ることはないよう。ホッとひと安心をする。


 私はアルフレートと共に、ホラーツに杖について相談をしてみた。


『ほうほう、杖を自作なさると、それは素晴らしい!』


 どうやらホラーツは魔道具について専門家並みの知識を持っているようで、かなり詳しく説明をしてくれた。


『まず、杖作りにおいて一番重要なのは、素材となる木ですね』


 普通の、森に自生している木々では、魔法の発動に耐えきれず、すぐに折れてしまうのだとか。


『普通の木に魔力を付加して作る物もありますが、術の構成が複雑なので、難しいでしょう』

「なるほど」


 杖の素材としてもっとも有名なのが、聖樹と呼ばれる物。

 樹自体に大量の魔力を含んでおり、魔法の負荷にも耐えきれる強さがある。


『ですが、いにしえの時代に大量伐採されたので、現代においては稀少な物となっています』


 今よりも、ずっとずっと、たくさんの魔法使いがいた古代。その頃は聖樹専門の木こりに杖職人、杖専門店などが存在していたとか。魔法が衰退した現代では、信じられない話である。


『私は聖樹を見つけるのに、十年もかかりました』

「じ、十年も!?」


 ここで明かされる驚くべき事実。

 ホラーツがいつも持ち歩いている杖は、彼の手作りであるのはもちろんのことだけれど、製作期間に五十二年もかけたのだとか。

 杖一本に、気合が入りまくっている。


『大丈夫ですよ、聖樹があった場所は覚えているので、ご案内します』

「そ、そっか。よかった」


 ホラーツのおかげで、大事な素材である木の問題はどうにかなりそうだった。


『次に大切なのは、杖の核となる宝石などですね』


 宝石などは使い込めば使い込むほど、魔力値が上がるらしい。

 大きさや透明度、カットなども気にすべき点であるけれど、その石がどれだけ使い込まれた物であるかという部分が一番重要だとか。


 ホラーツは旅をする中で偶然巡り合う形となった、宝石市で購入した品を使っていると言う。


「宝石か~~」


 現在無一文であることに、今更ながら気付いてしまった。ちょっとショック。

 魔導教会で稼いだお金はそこそこあるけれど、取りに帰るわけにはいかない。

 そういえば、私の私物や財産などはどういう扱いになっているのか。

 師匠メーガスが引き継いでくれていたら嬉しいけれど、あまり期待をしないでおく。


「炎の、宝石は所持しているか?」

「それがまったく」

「そうか」


 宝石の入手という最大の壁が立ちはだかる。

 この前採った鉱石で代用できるだろうか?

 ホラーツに質問したが、鉱石では難しいだとうという回答をもらった。


「宝石については心配するな」

「えっと、図々しい話だけれど、くれるってこと?」

「ああ」


 そんな、悪いよと言っても、元々所持していて、持て余している物だから問題ないと言うアルフレート。


「お友達から宝石なんてもらえないよ~~」

「何だったらもらえるというのだ?」

「ん~~……あ、奥さんとか、それくらいの関係じゃないと、ちょっと難しいかなって」

「!?」


 そう言えば、ぎょっとした顔をするアルフレート。

 そうだったのかと、呟く。


『人と人の常識は、難しいものですね。お勉強になりました』

「あ、うん」


 ホラーツから人と人の常識と言われて、私も内心ぎょっとする。

 そういえば、精霊設定をすっかり忘れていた。

 それに、以前雪精霊が、チューザーから献上された宝石の首飾りを普通に受け取っていたことを思い出す。

 精霊的には、人間側からの贈り物は喜んで受け取る、みたいな姿勢だったのかもしれない。


 やっぱり、ホラーツは私の正体について気付いている?


『炎の大精霊様、どうかなされましたか?』

「あ、ううん、なんでもない!」


 ……でも、炎の大精霊様と呼んでくれるし、バレてないのかな?


 追及はされていないので、まあいいかと思うようにした。


 ホラーツは杖作りの話を再開させる。


『他に、魔法の種も植え込みます。これは、杖自身の成長を促す物です』


 魔法の種とは自然界にある魔力を多く含んだ石などから採れる物らしい。これに関しては、比較的見つけやすいと言う。


『最後に、杖の手入れで重要となる、バターの入手ですね』


 これは杖の使用劣化などから生じる、ひび割れなどから守るための品らしい。

 精製した植物と蜜蝋で作るとか。


『以上が杖作りで必要な物となります。最後の仕上げとして、精霊の祝福が必要となりますが――』


 その言葉を聞いたメルヴはむくりと起き上がり、ぴしっと手を挙げる。

 祝福は任せてくれと言いたいのか。


『とりあえずは、材料を集めて回らなければなりませんね』

「そうだね」


 各素材のある場所へは、ホラーツの転移魔法で移動できるらしい。

 場所はすべて国外だとか。


「私も行きたいところだが」


 アルフレートは領主業を行わなければならないので、お留守番となる。

 代わりに手を挙げたのが――葉っぱ精霊メルヴ。

 どうやら頑張ってくれる模様。


「じゃあ、材料探しに行くのは、私とホラーツ、炎狼フロガ・ヴォルクにメルヴ……」


 素材がある場所は瘴気が発生し、魔物がでることもあるとか。

 この戦力で大丈夫かなと不安になる。


『エルサン、大丈夫! メルヴモ、戦エルカラ!』


 そう言ってメルヴは、拳を突きだすような動きをする。

 普通に可愛いなとしか思えなかった。

 まあでも、逃げ足は速いみたいだし、心配はいらないかなと思う。


 前衛の壁役は炎狼フロガ・ヴォルクに任せることに決めた。


 ◇◇◇


 話し合いの終了後、少しだけアルフレートと勉強をすることに。


 優秀な生徒である彼は、魔力の制御をすっかり自分の物にしていた。


「魔力を気にしなくてよくなったので、だいぶ自分に余裕もできたように思う」

「それはよかった!」


 朝と晩の頭痛もすっかりなくなったと話す。


「これで普通の人と変わらない生活が送れるね」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、そろそろ結婚する?」

「え!?」


 がたりと、椅子が揺れるほど驚くアルフレート。

 もしかして、結婚をしないつもりでここにやって来たのだろうか?


「アルフレートには婚約者とかいないの?」

「……いない」

「だったら、お嫁さんを探さなきゃね」

「……どういう、意味だ?」


 眉間に皺を寄せ、質問をしてくるアルフレート。

 やだ、顔が怖い――ではなくて、触れてはいけない問題だったのか。


「いや、魔力の問題も解決したし、結婚相手を探すのかな~っと思ったんだけれど、余計なお世話だったね」

「そういう、意味だったのか……」


 どうしてか、脱力するように呟くアルフレート。

 私、変なことを言ったのだろうか。


「ご、ごめんね」

「いや、いい。こちらが、勝手に勘違いをしただけで」

「?」


 なんだかわからないけれど、怒っていないというので、気にしないことにした。



▼notice▼


◇物語の構成について◇

全四部のお届けを予定しております。

第一章 【雪に埋もれた村と、大精霊に勘違いされた少女】完結

第二章 【魔法使いと、魔法使いの弟子】連載中

第三章 【王都編(仮題)】coming soon

第四章 【魔神編(仮題)】coming soon

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