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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第三十一話 挑戦せよ――懸念の魔力制御!

8月21日、二回目の更新です。

 葉っぱ精霊メルヴは意外な場所で活躍することになった。

 それは雪で荒れ果てていた農耕地で、柵の修理にメルヴの蔓が役立ったのである。

 素晴らしく強度がある蔓は、解けることなくしっかりと木々を支えた。


 それから、痩せていた畑をメルヴがスキップして回れば、祝福の効果があったのか、栄養価の高い土と変化していった。


 村人達は大喜びをし、メルヴに深い感謝をする。


 頑張った一日が終われば、アルフレートは自らの手で蜂蜜湯を作り、与えて労った。


 木のカップに細長い管を入れ、そこからメルヴは蜂蜜湯を飲んでいる。


『ハア~~、美味シイ、生キ返ル~~』

「大袈裟だな」


 アルフレートとメルヴ、二人の相性は良いようだった。


 ◇◇◇


 メルヴを召喚した翌日より、毎日のように夜は勉強会を行っていた。

 とりあえず、座学を中心に二時間から三時間、みっちり教えていたが――


「おい、寝るな」

「……ふあい」


 一日中忙しくしているアルフレートとは違い、私は勉強会の指導案や資料を作ったり、村に結界を張ったりと大した仕事はしていないにもかかわらず、酷い眠気に襲われるのだ。

 船を漕ぐように体が揺れるたび、アルフレートから注意される。

 これでは、どちらが先生かわからない。


 ある程度知識を身につければ、次は魔力の制御について覚えることになる。

 今回の授業をするにあたって、私は教材を作った。

 デデデデン!


「魔力測定器~~」

「何故、語尾を伸ばす?」

「なんとなく」


 アルフレートがいちいち指摘ツッコミをしてくれるので、ついボケにも力が入ってしまうのだ。


 そんなことはさておいて、この魔力測定器とは名前のとおり魔力の揺れを目視で確認する物。見た目は、水の入ったただのカップにしか見えないけれど。


「これは握るだけで魔力の状態を目で見ることを可能にする道具で――」


 作り方は簡単。

 カップに呪文を彫り、魔力を含んだ鼠妖精ラ・フェアリの村近くの森で採取した湖水を注いだだけ。とても簡単にできる。


 私が持てば、水は多少揺れているものの、魔法を使っても問題ない程度に保たれている。

 魔力が制御できていなければ、水が揺れて、最悪溢れ出てしまうのだ。


「アルフレート、私が動揺しそうなこと言ってみて」

「そういう言葉は狙ってかけられるものではないだろう」


 そんな風に言いながらも、腕を組んで考えてくれる。


「……では、【鼠妖精ラ・フェアリを好きなだけ可愛がれ】」

「うわっと!」


 魔職測定器の水面に大きな波紋が立つ。もう少しで零れそうだった。

 わかりやすいほどに動揺してしまった。

 アルフレートの呆れたような視線が突き刺さる。


「え~っと、こんな感じに、感情の変化と共に、魔力も変化するというのを理解していただければと」

「よくわかった」

「でしょうね」


 ひとまず魔力測定器は机の上に置き、持ってみるよう勧めた。

 アルフレートは持ち上げようと手を伸ばたが、指先が触れた瞬間、ゴポリと音をたて、水が溢れていく。

 あっという間にカップの中は空となってしまった。


「これは――」

「素晴らしく魔力が安定していない、ということだね」


 これはアルフレートの感情に関係なく、体内の魔力が安定していないのだろう。

 このレベルならば、何もしていない状態でも体がきついに違いない。


 まずは魔力を落ち着かせる訓練からしなくてはならない。


 私は湖の水面みなもを思い浮かべ、落ち着かせる。

 けれど、アルフレートはこの方法は上手くいかなかった。

 魔術書を読み漁れば、静寂のイメージは人それぞれであることが判明した。

 話をした結果、アルフレートは森とかの方が魔力は安定するようだ。


 魔法を使う前には、毎回魔力を鎮めたあとに使わなければならない。

 感情が揺らいでいる時は、魔力も揺らぐ。

 気持ちが落ち着かない状態で魔法を使えば、術にも悪影響を及ぼすのだ。

 なので、ここでの訓練は重要なことだと言える。


 それから、魔力の制御を試みる毎日だった。

 アルフレートもなるべく動揺しないように努めていたけれど――できなければ、できないほど苛立ちが積もるのは仕方がないお話で。


 先ほども水を溢れさせてしまい、机をどんと拳で打って悔しがっていた。

 どうしようもないので、アルフレートにかける言葉が見つからない。

 こういう時、師匠メーガスは大抵私を放っていた。なので、黙って見守ることにする。


 翌日より、アルフレートは魔力測定器を私室に持ち込んで、暇さえあれば訓練を行うようにしていた。

 何度も水を溢れさせているようで、水を注ぐように頼みにやってくる。

 やんわりと、調子はどうか聞いてみれば、前よりは落ち着いているとのこと。


「喜んでもだめなのだな」

「基本的にはね」


 できたと思って喜んでいたら、水を溢れさせてしまった模様。

 私も、似たようなことをしていたような気がする。

 魔法を使う時は無の状態にならなければならないのだ。


 魔力を含んだ水を注ぎ、魔力測定器は復活する。

 渡す前に、アルフレートに手を差し出した。


「なんだ?」

「手を握ってくれる?」

「何故?」

「おまじないかけてあげる」


 顔が全力で嫌がっていたので、拒否されるかと思いきや、手ののばしてくれた。

 指先が触れる前に、ぴたりと手が止まる。


「どうしたの?」

「以前、他人に触れて指を氷結させてしまったことが――」

「大丈夫だって!」


 そう言ってぎゅっと手を握ったものの触れた瞬間、ビリッと痺れるような衝撃が走る。

 その痛みはアルフレートも感じていたようだ。

 これは対極にある先天属性が反発し合っていることもあるし、彼が魔力を制御できていないからでもある。


 けれど、以前触れた時よりは、衝撃はずっと少なかった。

 魔力の安定方法を覚えれば、この先こういうこともほとんどなくなるだろう。

 私は手を握ったまま、そっと呟く。


「アルフレートなら大丈夫。きっと上手くいくよ」


 手を離せば、ポカンとした顔をしているアルフレート。


「もしや、今のがまじないなのか?」

「そうだけど、何か?」


 目が合えば、さっと逸らされる。

 きっと、背けた先で呆れた顔をしているに違いない。


「まあ、言ってしまえば魔法でもなんでもないんだけれど」


 言葉というものには大きな力がある。

 口に出せば、叶うことだってあるのだ。


「焦らずに頑張ろう」

「ああ」


 魔力測定器を銀盆に載せ、手渡す。

 根を詰めてやらないように注意して、送り出した。


 その日の夜――


「――わ」


 声が出そうになり、思わず呑み込んだ。

 奇跡が、否、今までの努力が実るようなことが起こったのだ。


 なんと、アルフレートの持つカップの中は落ち着いていた。

 波紋の一つもない、綺麗な水面みなもがそこにはあった。


 見事、魔力の制御を成功させ、ふうと息を吐くアルフレート。


「うわ、やった! 凄い、アルフレート!」


 嬉しくって、思わず抱擁をしてしまった。

 すると、アルフレートの手の中にあった魔力測定器の中の水をゴポゴポと溢れさせてしまう。


「な、何をするんだ!」

「あ、ごめん。私が揺らしたから、零れちゃったね」

「……」


 魔力測定の中の水は、私がぶつかるように抱き付いたのですべてアルフレートのズボンに零れて濡らしてしまった。申し訳ないと思っている。


 弱い炎の力で乾かそうと、濡れている膝の辺りに手を伸ばしたけれど、止めろと怒られてしまった。それどころか、遠ざけるように肩を押されてしまう。


 まあ、繊細なお年頃なのだろう。そう思うことにした。


 気を取り直して、アルフレートは二回目、三回目と挑戦してみたけれど、見事に魔力を制御していた。

 どうやら多大なる努力と苦労を乗り越え、魔力を鎮める方法を習得したようだ。


「これでやっと魔法を使える課程に進めるね」

「ああ、おかげさまでな」


 ずっとやりたいと思っていたことがある。

 アルフレートの氷魔法が制御できるようになったら――アイスクリームを作りたい。

 そんな夢を語れば、呆れられてしまった。


乳牛ムッカを飼って、村の名産にしたらいいかもしれないよ」

「よく、そんなことを次から次へと思いつくな」

「いい着想でしょう?」


 だって、氷は貴重なのだ。アイスクリームなんて滅多なことでは口にできなかった。

 村にいたときはおとぎ話に出てくる架空の食べ物かと思っていたし、魔導教会にいた時も、食べたのは一度きり。あれは魔神の百年に一度の聖誕祭だったか。昔のことなので、忘れてしまった。


「氷魔法でアイスクリームを作る、か」

「楽しみにしているね」


 魔力の制御を成功させたことにより、アルフレートの未来にも光が差し込んだような気がする。


 あとは魔法を覚え、どうにかして魔力を発散させれば、普通の人と変わらないような生活を送ることができる。


 それまで、どうにか頑張ってほしいなと思っていた。


▼notice▼


エルフリーデのおまじない

魔法でもなんでもない、ただの暗示的なもの。

だがしかし、アルフレートには信じられないほど効果があった。

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