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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第一章【雪に埋もれた村と、大精霊に勘違いされた少女】

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第二十一話 調査――平原に不審点あり

 庭の一角で待機していると、遠くから何かが走ってくる。

 それは――巨大な鳥だった。


『エルフリーデ、待たせたな』

「いいえ、それほどでも」

『はは、謙虚な奴よの』


 鳥に跨っているのはチューザー。

 それにしても大きいと、初めて見る駝鳥ストラウスに圧倒されてしまう。


『どうだ、俺の駝鳥ストラウスは』

「凄くいいね」


 というか、凄く羽毛がもふもふです。

 黒い羽に包まれた体は、艶々と輝いていた。顔は精悍で、脚も長くてかっこいい。


『お主がマルに乗れないというのならば、この駝鳥ストラウスに乗せてやったんだがな』

「それは残念」

『ならば、今度乗せてやろう。近くに美しい泉がある。そこを見せに連れて行ってやろうぞ』


 想定外のデートのお誘いにどう返事をしようか迷っていると、アルフレートがやって来た。なんと、葦毛のマルに跨っている。

 これが、本物の白馬の王子様!! なんて思ったけれど、アルフレートは王子様というよりは文官みたいな雰囲気なので、感動はいまいち薄い。


「どうした?」

「いや、ごめんなさい」

「は?」


 勝手に盛り上がっていたことについての謝罪であったが、本人に伝わるわけもなく。

 何を言っているのかと追及するような視線を向けていたので、なんでもないと首を横に振って誤魔化しておいた。


 アルフレートのマルは毛艶が良く、骨格もしっかりしていて、筋肉の付き方も素晴らしい。一目で、良いマルだということがわかる。

 素敵だねと褒めれば、王太子より二十歳の誕生日に贈られたものだと教えてくれた。


 あとからホラーツがマルを引いてやって来る。

 こちらはアルフレートのマルよりも小柄な青毛の可愛い子ちゃんだ。

 懐っこい性格らしく、私が近付いても嫌がる素振りは見せなかった。

 耳をピンと立て、すぐにこちらに向ける。私に興味があるような仕草を示してくれた。 


「初めまして、今日はよろしくね」


 まずは挨拶をして、匂いを嗅がせたあと、軽くうなじを撫でた。

 ふんふんと嬉しそうに鳴いている。

 そろそろいいかなと思い、背中に跨ることに。

 ホラーツから手綱を受け取り、鬣を一緒に掴んであぶみに足をかけ、地面蹴って一気に登る。

 跨ったあとも、青毛ちゃんは落ち着いていた。どうやら相性に問題はないよう。

 いい子だと声をかけていれば、アルフレートが隣にやって来る。


「随分と慣れているな」

「あ、うん。昔――」

「昔?」


 おっと危ない。村娘時代の思い出を語りそうになった。


『そろそろ出発しようぞ!』


 どう誤魔化そうか考えていたけれど、チューザーがそう言って走り出したので、会話は自然と中断される形になった。

 アルフレートは「行くぞ」と一声かけたあと走り出す。 

 私も手綱を引き、お腹をポンと蹴って前進するようにお願いをした。

 青毛ちゃんは了解とばかりに、軽快な足取りで動きだす。


 ホラーツがマル駝鳥ストラウスにも、足が雪に沈まない魔法をかけてくれたので、走行に問題は生じていない。


 久々に風を全身で感じることができて心地が良い。

 事前に魔法で寒さを感じないようにしていて正解だったと思う。何もしていなかったら、今頃寒さで震えていただろう。


 チューザーを先頭に、アルフレート、私の順で走る。

 青毛ちゃんはもうちょっと速く走りたいようで、うずうずしているのがわかった。


 しばらく走れば鼠妖精ラ・フェアリの村を囲む森を抜けた。

 そこから先は雪のない、一面若葉色の草原が広がっていた。

 妨げになる木などがなくなったので、走行を速めるように指示を出す。


 青毛ちゃんは待っていましたとばかりに、力強く地面を蹴り上げる。

 無難な感じに走っていたアルフレートのマルを一気に抜いた。


「――おい、炎の、あまり飛ばすな!!」


 アルフレートが何かを叫んでいたが、聞こえなかった。

 多分、速く走るなとか、注意をしているのだろう。

 あとちょっとだけ走らせたら、止めるつもりでいる。


 どんどん速度を上げ、チューザーの駝鳥ストラウスの隣に並んだ。


『エルフリーデか。この駝鳥ストラウスマルが並ぶとは、驚いた』

「この子、走るのが好きみたいで」

『ううむ。なかなかやりおる』


 けれど、駝鳥ストラウスが本気をだして走ったら絶対に追いつけないだろう。

 青毛ちゃんは全力疾走をして満足したのか、こちらの指示に従って速度を落としてくれる。


 最終的にアルフレートと並んで走ることになった。


 途中、ジロリと睨み付けられ、呆れたような言葉が向けられる。


「――とんだじゃじゃ馬娘だ」

「もしかして、私のこと?」

「もしかしなくてもだ。お前以外、他に誰がいる」

「あはは、ごめんね」

「笑いごとではない」


 長い間、ホラーツのマルを大人しい子だと思っていたらしい。

 マルは乗せた人によって調子に乗ったりすることもあるので、気をつけるようにと注意されてしまった。


「次から気を付けるから」

「次からではなく、今からだ」

「……ハイ」


 アルフレートの説教が終わった途端に、前を走っていたチューザーが止まった。

 どうやら、一カ所目の野営跡に辿り着いたようだ。

 馬上から降りて、現場検証を行う。


 その場にあったのは焚火の跡と保存食のカス、天幕を張っていた杭の穴など。

 規模的に少数で行っていたということがわかった。


「この辺は、異種族が野営に来ることは?」

『他種族の領地に許可なく足を踏み入れることは、絶対にない』

「ならば、これは勝手に侵入してきた者の跡で間違いないと」

『そうだな』


 やって来たのはこの辺りの暗黙の了解を知らない者――つまり、人の可能性が大いにあると推測する。


『領主よ、お主、誰かの恨みなど買っていないな?』

「……」


 アルフレートは黙ったまま、否定も肯定もしない。

 二人の間に不穏な空気が流れだしたので、間に割って入る。


「チューザー、野営跡はここだけじゃないんだよね」

『ああ。三カ所ほど発見した』

「何か手がかりがあるかもしれないから、他の場所も見てみようか」

『そうだな』


 チューザーは足早に駝鳥ストラウスの元に行き、鞍に下げていた鞄の中から餌のような物を取り出して与えていた。

 アルフレートはその場に佇み、動こうとしない。

 私は彼の背中をぽんと叩き、マルにもご褒美をあげてくるように伝える。

 与えるのは角砂糖。大好物らしい。葦毛と青毛、二頭共に与える。

 労うように撫でていれば、アルフレートがやって来た。


「炎の、すまない」


 いいってことよと返事をし、再び鞍に跨る。現地調査を再開させた。


 ◇◇◇


 結果、野営跡は十ヶ所確認された。

 肝心の犯人は見つけられなかったけれど。


 帰りに、雪の大精霊の祠にも立ち寄った。

 チューザーは持参していた宝石の首飾りを献上する。

 私も、今朝方チュチュからもらったクッキーの包みを捧げ、少しでも気持ちが安らぐようにと祈った。


 領主城に帰って来られたのは夕方。

 チュチュが持たせてくれたお菓子とお弁当がなかったら、空腹で大変なことになっていた。

 マル鼠妖精ラ・フェアリの使用人が厩に連れて行ってくれる。

 チューザーはチュチュと共に、仲良く駝鳥ストラウスに跨り帰宅をしていく。

 その姿を微笑ましく思いながら、見送った。


 一方の私はと言えば、久々の乗馬で体のあちこちが痛んでいた。

 歩くだけで筋肉が悲鳴をあげているような気がする。単純に、運動不足なのかもしれない。そんなことを考えていれば、背後より声をかけられる。


「……炎の」

「はい?」

「少し、いいか?」

「うん」


 どうやら秘密話をしたいようだ。

 アルフレートの私室まで移動をする。


 向かい合って座ったのはいいけれど、なかなか話しだそうとしない。

 まあ、時間はいくらでもあるので、待てるけれど。

 そろそろ夕食の時間だろうか。お腹がぐうと鳴りそうな予感がする。

 そうなればちょっと恥ずかしいので、非常食でも食べようかと、ベルトに下げていた鞄を探った。


「アルフレート、チョコレート食べる?」

「……いや、いい」

「甘い物食べると、疲れも取れるから」


 板状のチョコレートを半分に割って、アルフレートに差し出す。

 渋々と受け取ったのを確認。

 私はチョコレートに噛り付く。アルフレートは銀紙に包まれたままのチョコレートをじっと眺めるばかりだった。甘くておいしいよと、重ねて勧めてみる。


「お前は、どうしてそう――」

「ん?」


 食いしん坊なのかと言葉が続くと思っていた。

 けれど、再びアルフレートは黙り込んでしまう。


 いったい何を話そうとしているのか。よほど、言いにくいことなのだろう。

 沈黙の時間はまだまだ続くと思われたが、アルフレートはついに語り出す。


「私は以前、ここの村を訪れたことがある」


 それは、鼠妖精ラ・フェアリの村が深い雪に覆われる前の話らしい。

 当時のアルフレートは地方行政に関わるお仕事に就いていた。

 その時、鼠妖精ラ・フェアリの担当が辞めたばかりで代わりの者がおらず、その辺の書類確認も行っていたとのこと。


「報告書に目を通していれば、領主の書類におかしな数値を見つけ、問い合わせをしたが返事が帰ってこなかったんだ」


 おかしいと思ったアルフレートは過去の報告書を洗い出し、巧妙に隠されていた多くの不審点に気付いた。


「再三確認の連絡をしたが、反応がなく、ついに直接赴くことにした」


 そして、アルフレートは領主を問いただし、かなりの額の収入を誤魔化していたことが明るみになった。


「国に報告をして、あとは処分を待つばかりだった」


 当然ながら、領主の位ははく奪。王都で裁判が執り行われる予定だった。


「だが、そのあとに、この地が今までの例にないほど深い雪に覆われたという知らせが届き――」


 問題の領主は夜逃げをして行方不明。

 生活が困難となった鼠妖精ラ・フェアリの地を領したいと思う者はいなかった。


「だから、アルフレートは責任を感じて、ここの領主様になったと?」

「まあ、それもある」


 理由は他にもあるけれど、そこまでは教えてくれなかった。

 代わりに、ある推測を語り始める。


「もしも、私がこの地で恨みを買っているのならば、相手は元領主だろう」


 そして、元領主はなんらかの理由で、鼠妖精ラ・フェアリの村へ侵入しようとしている。


「すべては予測でしかないが、今まで以上に気をつけた方がいい」

「そうだね」


 平和な鼠妖精ラ・フェアリの村に騒動は似合わない。

 なんとかして、早急に解決しなくてはと思った。


▼notice▼


駝鳥ストラウス

地上で一番速い走行を可能とする最強の脚力を持つ。(異世界基準)

体力もあることから、旅のお供にはうってつけ。

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