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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第一章【雪に埋もれた村と、大精霊に勘違いされた少女】
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第二話 儀式の間にて――そりゃないよ、王子様!

 ついに迎えた王子様との謁見の日!

 昨日はちょっと興奮して眠れなかった。

 だって、元村人が王族と会えるなんて、夢みたいな話だろう。


 今回、護符の準備は不要という連絡が入っていた。いったいなんの依頼かと担当の神官に聞いても、情報は入ってきていないと首を横に振っていた。


 時間になったので儀式の間に移動する。

 そこは呪文が刻まれた真っ赤な絨毯に、儀式の執行台である祭壇がどっかりと鎮座しているだけの部屋である。


「神子様、こちらを」

「あ、うん」


 少年神官が差し出したのは緋色の仮面。顔全体を覆う物で、着け心地はごわごわで最悪。

 基本的に、神子は素顔さらさないようになっていた。

 受け取った仮面を渋々身に着け、壁にかけてあった儀式用の錫杖を手にする。

 魔法の発現には術を構成する呪文と、杖や指輪などの魔道具と呼ばれる、魔力のこもった物が必要になる――らしい。私は基本的に呪文も道具も必要としない。

 炎を頭の中でイメージして、発現するように念じれば魔法は出来上がる。

 だが、それは口外しない方がいいと、師匠メーガスが教えてくれた。

 理由を聞けば、普通の魔法使いはそんなことなどできないらしい。最悪、貴重な人体資料として保管をされることになるかもしれないと。それでも構わないなら、自由に振る舞うと良いと言われて背筋がぞっとした。

 魔導教会の資料として生きたまま保管されるのなんて恐ろしすぎる。

 師匠メーガスが良い人で良かったと、心から思った。

 このような裏事情があるため、儀式の時は魔法を使う振りをするのだ。


 私の身長よりも長い錫杖を片手で持ち、杖のようにして地面に突く。

 空いている手は腰に当て、堂々とした佇まいで王子を待ち構えた。


 王族と言えど、神子は傅く必要はないのだ。

 丁寧な態度で応じるが、あくまでもどちらが上とかそういう関係ではないらしい。

 これは魔導教会の威厳にも関わることなので、気を付けるようにときつく指導されている。


 元村人の小娘が、様々なお偉いさんに対して平等な態度で接する。なんて辛い職場なのかと思った。でも、家族のため、自分の生活のために頑張るしかない。


 ほどなくして、王子がいらっしゃったという報告が入る。

 私は仮面の下で、緊張の面持ちでいた。


 まず、出入り口で王子の来訪が告げられる。


「――ブロムクエスト王国、第三王子、コランタン・カジミーヤ・イレ・レルカン殿下のお成りです」


 ついに、この瞬間がやって来た。

 今、最高に胸がドキドキと高鳴っている。


 まず、供がぞろぞろと入って来て壁に一列に並ぶ。武装した人達なので、護衛だろう。

 次に入って来たのは、素晴らしい刺繍が刺された外套を纏った――王子様!!


「――んん?」


 王子様を目にすれば、私は仮面の下の目を凝らしてしまった。

 傍に従えていた少年神官に耳打ちをする。


「ねえ、あれが王子様なのかな?」

「左様でございます」

「お、おお……」


 なんというか残念なことに、王子様は私が期待をしていた王子様ではなかった。

 まず、お歳を召していた。多分、四十代くらいだろうか?

 王子様というから、てっきり若くて男前なお兄ちゃんだとばかり思い込んでいたのだ。


 いや、まあ、王子様は何歳になっても王子様なわけで、これは私が悪い。

 でも、でもでも、王子様と聞いて童話に出てくるようなキラキラな青年を思い浮かべるのは、仕方がない話だろう。どうか許して欲しい。


 王子様をちらりと見れば、目が合った。

 うん、王子様、おじさん。豪華な服を着ただけの、普通のおじさんだ。


「あ~~~~、なんだかな~~~~……」

「神子様」

「ん?」

「儀式を」

「あっ、そうだった」


 気を取り直して、「よくぞまいった!」などと尊大な態度で声をかける。

 おじさん……じゃなくて王子様は私の偉そうな態度が気に食わなかったのか、チッと舌打ちをした。

 いやはや、こちらも言いたくて言ったわけでは。応対の一つ一つに手引書マニュアルがあるのだよ。


 まあでも、舌打ちをされてしまえば、こちらも大きな態度で出ない方がいいだろう。

 王族は上客だろうし。

 私は杖を両手で持って、可能な限りの優しい声で願いを聞いた。


「お、お願いを、伺っても?」

「ふん、神子と言えど、普通の人と変わらぬではないか」

「ええ、そうですね」

「本当に、奇跡を起こせるのか?」

「要相談で」


 うわ、面倒くさい。

 そんな言葉を喉から出る寸前で呑み込む。

 早く儀式に移りたいのに、疑い深い王子様おじさんはしつこく質問を繰り返してくれる。


 お供のお兄さんが、次の公務の時間が迫っていますと止めてくれなければ、まだまだ質疑応答を続けていただろう。

 やっとのことで本題に入ってくれる。


「その、なんだ、炎の大精霊、エルフリーデは存じておるな?」

「あ~はい。有名ですよね」


 この国の伝説に残る、奇跡の精霊エルフリーデ。

 絶大な炎の力を持ち、世界を救った優しき大精霊。

 私も小さい頃、童話の中に書かれた話を何度も読んでもらった。

 その大精霊と同じ緋色の瞳を持って産まれた私は、そのエルフリーデから名をいただいたらしい。


「――それで、お前は大精霊と同じ名を持ち、さらには同じ炎の属性だと言うではないか」

「ええ、そうですね」

「それで、私も奇跡の力で救って欲しいと」

「はい」


 な~んか嫌な予感がする。

 救って欲しいって、いったい何を……?

 近くにいた側近の人達の顔を見れば、さっと視線を逸らされる。――怪しい。


 視線を王子様おじさんに戻せば、急にもじもじとしだす。


「え~っと、おじさ……じゃなくて王子様、その願いとは?」

「………………のだ」

「はい?」

「…………ってほしいのだ」

「んん?」


 頬を染めつつ、小声で囁くように喋る内容はまったく聞き取れない。

 再び側近を見て「お前が言え」という圧力を加えたが、首を素早く横に振り、「勘弁してください」と口パクで喋っていた。


「王子様、願いははっきり口にしなければ叶いません」

「ええい、この、耳が遠い奴め! 何度も言っただろうが! 私の臀部でんぶに浮かんだ小粒の突起を治して欲しいと!」

「…………え?」


 臀部……臀部……ああ、お尻のことか。

 お尻に、小粒の突起……イボのことかな?――が、できたと?

 それを、私に治して欲しいって?


「え、なんで?」

「大精霊の伝説にあるだろうが! 聖なる炎で人々を救ったと!」

「いや、炎で治療は無理と言うか」

「だが、医師は火で炙って治療すると!」

「ああ~~」


 そういえば、聞いたことがある。

 イボの治療に火を使う方法があると。


 祖父ちゃんが昔、王都の病院で治療してもらったと、自慢話のようにしていたことを思い出した。それはもう、素晴らしい先生で、悩みの種だったお尻のイボは綺麗に完治してくれたと。

 でも、どうしてそれを私に治せと願いにきたのか。

 当然ながら専門知識なんてないので、治療なんかできるわけがない。


「あの、何故私に?」

「ただ人が、で、臀部に火を当てるとか、野蛮だろう!」

「ですが、お医者様の治療行為なので問題はないかと……」

「できないと言うのか!?」

「いや~~、できるできないという話では」


 なんだか大変な展開になってきた。

 チラリと少年神官を見れば、口に手を当て、肩を震わせている。

 ――こいつ、笑いをこらえてやがる!

 私だって大笑いしたい。

 医者の治療を恐れ、魔法の力でお尻の治療を願いにきたなんて、面白すぎるだろう。

 だが、そんなことをすれば大変なことになる。ぐっと我慢をした。


「王子様、心配はいりません。王都のイボ治療の技術は世界一です。安心して、お医者様に御尻をお預けください」

「できぬと申すのか」

「いや、ですから――」

「お前、偽物の神子だな?」

「は?」

「偽物だから、奇跡の力は使えぬと」

「え~~」


 もう、いっそのこと王子様おじさんのお尻を焼いてあげたい。真っ黒に焦げるだろうけれど。


 どうすれば納得をしてくれるのか。自らの後頭部を撫でつつ考えていたら、思いがけないことを言われてしまった。


「お前、父上に言いつけてやるかな!!」

「はい?」

「覚えておけ!!」


 そんな悪役の捨て台詞を言い残し、王子様おじさんは儀式の間を大股でドスドスと踏み荒らし、去って行った。


 なんていうか、大変なことになった。


「うわ~~~~」

「神子様、ご愁傷さまです」

「……うわ、他人事みたいに言うね」

「他人事ですから」


 ふてぶてしい態度に苛つき、思わず少年神官のぷにぷにの頬を抓ってしまった。


「今回はさすがに、やばいかも」

「ですね」

「ああ~~~~!!」


 でも、今回のことは本当に仕方がないだろう。


 だって、炎の魔法で個人のお尻を救えるわけがないのだから。


▼notice▼


炎の神子は【王子様への憧れ】を消失させた。

魔眼skill【現実を見る目】を習得。

魔眼【炎】LVが、39に上がった。

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