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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第一章【雪に埋もれた村と、大精霊に勘違いされた少女】

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第十八話 炎の魔石作り――大生産開始!

 翌日より炎の魔石の製作を開始する。

 工程を簡単に説明すると――まず、星灯石アステル・リトスを大小に砕き、石にやすりに当てて角を取り、綺麗な水で洗浄。その後、呪文を彫る。最後に、彫った呪文に魔力を流し込んで術式を展開させ、祝福を込めれば完成。

 一人ですれば大変な作業だけれど、今回はみんなが協力してくれる。


 星灯石アステル・リトスを小分けにするのは、筋肉妖精マッスル・フェアリの担当。石にのみを当て、金槌で打って砕いていく。


『ふん!』

『ぬぅん!』

『そい!』

『でぇい!』


 気合いの入ったかけ声と共に、石は次々とほどよい大きさになっていた。

 これは自分達や鼠妖精ラ・フェアリがするには大変な仕事だ。彼女らの働きに感謝をすることになる。


 筋肉妖精マッスル・フェアリって凄いなと、改めて思った。


 砕かれた星灯石アステル・リトス鼠妖精ラ・フェアリの子ども達が隣の部屋へと運んで行く。

 一個ずつ石を両手に持ち、一列に並んで歩く姿は癒される。

 持ち込まれた石は、鼠妖精ラ・フェアリの奥様方が丁寧にやすりを当てていた。

 目にもとまらぬ速さで研がれていく石を見て、当り前のようにみんな手先が器用で、仕事も早いなと感心することに。チュチュも奥様方に混じって、頑張っているようだった。


 角が取れた石は、普段厨房で働く鼠妖精ラ・フェアリが洗浄を担当。

 桶に張った水の中で、じゃが芋パタータを洗うようにじゃばじゃばと綺麗にしてくれる。似たような大きさだからか、手つきは慣れているように見えた。


 洗った石はホラーツが魔法で乾燥。


 その後、石は私とアルフレートの元に届けられる。

 石の表面に、呪文を三十七文字彫るのだ。

 これは私が考えた秘密の呪文。

 まあ、呪文を知っていても、最後に魔法と祝福をしなければならないので、魔石が作れるようになるわけではないけれど。

 でも、魔法使いにとって自分で作った呪文は財産で、それを他人に教えることは滅多にないのだ。


 アルフレートは、お友達だから特別ってことで。


 古代語で構成された呪文を紙に書き、文字列と形を説明しつつ、まずは一緒に彫る。

 アルフレートは鉱石に直接彫って失敗をしたくないと、ただの石ころで練習を始めた。

 なんというか、真面目だな。


 作業をする手元を覗き込めば、綺麗な文字が刻まれていた。


「あ、でも、大丈夫そうだね」

「……そうか」

「弟子入りを大歓迎する水準レベル。いろいろと教えがいがありそう」


 魔法使いになるためには、まず師匠の手伝いから始めるのだ。

 魔導教会に引き取られ、メーガスの手伝いを始めた日々を思い出す。

 私は基本的にあまり器用ではないので覚えるまで失敗を繰り返し、毎日叱られていた。


 一方で、アルフレートはかなり器用に見える。


「うん、いいね。とっても上手!」


 せっかく褒めたのに、眉間に皺を寄せ、最終的には顔を逸らされてしまった。

 ま、いいけどね。無駄口を叩いた私が悪い。


 数時間、鉱石に呪文を彫る作業を進めていれば、数個の石ができたので、私は魔法と祝福をかける工程をすることになる。

 呪文彫りはアルフレートに任せた。


 暖炉の前に石を並べる。

 まずは、呪文の溝に魔力を通さなければならない。

 以前までは自らの血を塗っていたが、今回から鼠妖精ラ・フェアリの村の近くで採れた蜂蜜を使わせていただく。


 刻んだ文字に筆で蜂蜜を塗り込む。

 呪文を唱えれば、一文字一文字がだんだんと発光していった。

 これはアルフレートが彫った分だけれど、問題なく仕上がっているよう。

 ここで文字を間違えていたり、字が歪んでいたりすればなんの反応も示さないのだ。 


 術が展開されたら、炎の祝福を石に込めた。

 じわじわと、白い表面が赤く染まっていく。

 最終的に石から炎が上がり、一度、柏手かしわでを打てば一気に治まる。

 以上で炎の魔石が完成となった。

 ここまで一時間ちょっと。

 結構な量の魔力を消費したので、体がだるかったが、それ以上に喜びが湧き上がってくる。


「アルフレート見て、最初の一個が完成したよ!」

「それはよかった」


 嬉しくて跳びはねるような勢いで見せに行ったけれど、アルフレートはズレていた眼鏡を指先で直し、ごくごく冷静な一言で返事をしてくれた。


「それよりも、大丈夫なのか?」

「何が?」

「顔色が悪いように見える」

「平気平気!」

「だったら良いが。……少し、休憩をしよう」

「そうだね」


 まだ一個しか完成していないけれど、時計を見れば夜になっていた。

 昼食を食べたのが遥か昔のように思えてくる。

 三つある作業机の一つには、チュチュが食事を用意してくれていた。集中していたので、まったく気づいていなかった。聞けば、二時間ほど前に持って来てくれたらしい。


 アルフレートと向かい合って席に座る。

 カップの蓋を取れば、ふわりと湯気が漂っていた。


「わ、凄い!」


 口を付ければ、さらに驚くことになる。

 二時間前に持って来たらしいカップの中のお茶は、ほどよい温かさだったのだ。


「これが、鼠妖精ラ・フェアリの作る陶器の力……!」


 彼らは熱や冷気を逃がさない、魔法の陶器を作っている。

 今日初めて、その効果を実感することになった。


 温かいのはお茶だけではない。

 スープも、炙ったお肉も、パンまでもあつあつの焼きたて状態で、感動してしまった。


 いちいち驚く私を、アルフレートは呆れた表情で見ている。


「酷く疲れているようだと思ったが、元気は残っていたようだな」

「うん、平気だよ」

「だが、無理はするな」

「ありがとうね」

「別に、お前を心配しているのではない」

「私が倒れたらアルフレートが助けるしかないもんね。迷惑かけないためにも、ほどほどに頑張るよ」

「わかっていれば、いい」


 そんなことを話しつつ、食事の時間は終了となった。


 作業は日付が変わるまで続けられた。

 互いに、終わり時を見つけられなかったが、ホラーツがやって来て、そろそろ休んでくれと言われてしまった。

 すでに、筋肉妖精マッスル・フェアリ鼠妖精ラ・フェアリ、ホラーツは作業を終えていたらしい。

 さすがに、私達二人もくたくた状態であった。

 ホラーツが持って来てくれた果実汁を飲みながら、一息吐く。


「炎の、今日はいくつ作れた?」

「四つ」

「残り八十六、まだまだだな」

「小さい魔石は呪文も少ないし、術の負担も大きい魔石ほど魔力の消費も微々たるものだから、すぐに出来ると思うけれど」


 魔石・小の呪文彫りはホラーツにも手伝ってもらうことになっていた。

 そちらは火力が少ないので、彫る呪文も私が考えたものでなく、すべての魔石に共通する定型文になっているのだ。


「アルフレート、先は長いけれど、頑張ろう」

「ああ」


 決意を新たにして、今日は解散と思ったけれど、待ったがかかる。


「なんでしょう?」

「袖のボタンが取れかかっている」

「あ、本当だ」


 チュチュに頼もうかなと考えていれば、裁縫道具を持っていると腰のベルトに付けていた小さな鞄から取り出して差し出すアルフレート。


 ……なんだろうか、その女子力は。


 上着を脱いで膝に置く。

 銀製の裁縫箱を開けば、様々な種類の針と糸が収められていた。童話に出てくる舌切りみたいな小さなはさみも入っている。

 綺麗な丸い石が付いた針を手に取れば、怒られてしまった。


「それは待ち針だ!」

「マチバリ?」


 それは何かと質問をしれば、布を仮止めする専用の針だと言う。


「……もしや、お前は裁縫をしたことがないのか?」

「……お、お恥ずかしながら」


 だって、魔導教会では魔法の使い方しか教えてもらわなかった。

 村娘時代も、針仕事は母と姉の仕事だった。あと二、三年、暮らしていれば習っていたのかもしれない。


「え~っと、これはどうやって使うのかな?」

「いい、貸せ」

「アルフレート、お裁縫できるの?」

「できなかったら道具一式を携帯していない」

「で、ですよね~~」


 アルフレートは膝の上に置いていた上着を取り、手の中にあった裁縫道具を奪うように掴んだ。


 それから、慣れた手つきで針に糸を通し、外れかけていたボタンは舌切り鋏のような物で取って、再び縫い付けてくれる。


 その様子をじっと眺めていたら途中で気付かれ、ジロリと睨まれた。


「何故、見る」

「いやあ~、見事な御手前だと思って」

「これくらい普通だ」


 どうやら、お裁縫は王子様の嗜みの一つらしい。


「集中できないから見るな」

「あ、うん。つい……」

「つい、なんだ?」

「いいえ、なんでも」


 針を手に縫い物をする様子を見ていたら、故郷の母の姿と重ねてしまったなどと、言えるわけもなかった。


▼notice▼


アルフレートはtitle【お母さん系男子】を手に入れた。

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