表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第一章【雪に埋もれた村と、大精霊に勘違いされた少女】
16/125

第十六話 鉱山探索――そして、当たり前のようにボス戦が発生

 ここには数種類の魔物が生息していると、ヤンが教えてくれた。

 こちらを窺うように、じっと潜んでいるらしい。

 普段暗い中で過ごしているので、ホラーツが作った光球を恐れ、近づけないとのこと。

 だが、例外は蜘蛛の魔物だった。

 元々縄張り意識が強いのに加え、産卵の時期と被ってしまったので、容赦なく襲いかかってくる。

 ここに来るまでに何匹くらい倒したのか。覚えていない。


 坑道は分岐がいくつもあり、ホラーツが調べ、魔力の気配が強い方に進んで行く。


「……凄いね、ここ」

『そう?』


 硬い岩肌を削ぎながら道を作り、鉱物を採掘していたなんて、驚きだ。

 ところどころ、岩が上に向かって裂けている部分がある。

 採掘中、あのように岩が崩れることがあるらしい。恐ろしい話だ。

 その部分は崩壊しないように、木で枠を作って支えられていた。


『そういえば、当時は命懸けだったって話を聞いたことがあったなあ』

「ここに来るまでにちょっとした祭壇もあったし、安全は神頼みみたいな感じだったんだね」

『怖えなあ……』


 そんな話をしていれば、開けた場所に出てくる。

 ここがまた、ひときわ瘴気が濃くて、思わず口元を手で覆ってしまった。

 そして、今までにない緊張感に包まれる。


 奥に、何かがいた。


 ホラーツが照らす光球は私達の周囲を明るくするばかりで、全域を照らすものではない。


 ヤンが剣を抜けば、暗闇から無数の赤い目が浮かび上がった。


『――奥にでかいのが一体、ほどほどに大きいのと小さいのは、数え切れないほど!』


 そのお知らせを言い終えた刹那、ヤンは動き出す。

 前方より、地面を這う音が、一斉に聞こえた。


 ホラーツは光球の数を増やし、広場全体を明るくする。


「……わ~お」


 そこにいたのは、今まで戦った蜘蛛のお母さん?

 天井につきそうなほど大きな体には、複数の目があり、口元には鋭い牙が生えていた。

 そして、周囲には数え切れないほどの卵があった。大きさは人の頭部と同じくらい。

 ほとんど割れていた。現在進行中で、殻を被ろうとしている卵もある。

 それらを守るため、蜘蛛は獰猛な様子で私達に襲いかかって来たのだ。


 数は数え切れない。

 前後左右、すぐに囲まれてしまい、炎で一掃する。

 魔法で炎の壁を作り出す魔法陣を展開し、ホラーツや鼠妖精ラ・フェアリに中に入るよう勧めた。

 無謀にも、壁に向かってきた蜘蛛は一瞬で炭と化する。

 遠くで様子を窺いながら、糸を使って攻撃してくる蜘蛛は、鼠妖精ラ・フェアリの騎士達が矢で仕留めていた。


 ヤンは単独で巨大な蜘蛛に挑んでいる。

 体が硬いようで、何度も刃を弾き返されていた。

 それを見ていたホラーツが、あることに気付く。


『あの魔物は、体内に魔力を含んだ鉱石を取り込んでいるようです』


 長い年月、ここにあった鉱物を食料とし、自らの体の中で魔石のような物を作りだしてしまったらしい。攻撃が通じないのは、体全体が厚い魔力で覆われているからだった。


「ってことは、倒すには体内の石を狙わないといけないってこと?」

『ですね』


 幸いにも、蜘蛛を覆う魔力は完全ではないとのこと。


『狙うのは、目です。あそこだけ守られていません』


 その情報をヤンにも伝える。


『耳より情報だけれど、こいつ図体のわりに素早くて――』


 私も炎の玉を作り、狙って撃ってみた。

 蜘蛛の目に届く寸前にするりと避けられ、炎の球は岩壁にぶつかって消えた。衝撃で、パラパラと僅かに岩壁が崩れる。

 大小の蜘蛛は突然別の行動を始める。

 やはり、蜘蛛達は学習能力があるのだろう。炎の壁に近づかずに、ヤンを狙うようになった。

 ホラーツは先ほど作った岩の人形の術を再び展開させ、蜘蛛を相手に応戦させる。


 遠くにいる蜘蛛に炎が当たらなくなったので、魔法陣の外に出て一匹ずつ倒して回った。


 そして、蜘蛛は最後の一体となる。


 いまだ、ヤンは目を攻撃できずにいた。

 私も少し離れた場所から狙ってみたけれど、なかなか当たらない。


『――撃てちゅッ!!』


 背後より、気合の入ったかけ声とともに矢が放たれる。

 鼠妖精ラ・フェアリ騎士の一人が指示を出し、残りの二人射ったのだ。


 見事、矢は当たったが、目自体もそこそこ硬度があるからか、やじりが突き刺さらずに跳ね返されてしまった。


「ああ、なんてこった!」

『惜しかったですね』

「私の炎だったら効く気がするけれど」

『それです!』

「ん?」

『炎の大精霊様のお力で、目を攻撃するのですよ』


 先ほどから何発も炎を放っていたが、残念ながら悪制球ノーコンだった。

 直接蜘蛛に近づけば当てることもできるだろう。けれど、ヤンのように素早い回避が出来ないので、一瞬で鋭い爪を持つあしに踏み潰されてしまう可能性があった。


「でも、どうやって当てればいいものか」

『騎士様の矢に、炎を纏わせることはできませんか?』

「あ!」


 鼠妖精ラ・フェアリの騎士の放つ矢に炎を纏わせ、目を攻撃する。その手があったのだ。

 着想を出してくれたホラーツにお礼を言い、さっそく作戦を開始する。

 騎士達に話せば、快く了承してくれた。


 小さな体の隣にしゃがみ込み、手のひらの中に炎を作り出す。

 矢のやじりに炎を纏わせる前に、一応確認をしておいた。


「私の炎、怖くない? 平気?」

『いいえ、炎の御方様の炎からは、恐れを感じません』

『とても、優しい炎です』

『どうか、我々に力をお貸しください』

「わかった。ありがとう」


 勇敢な騎士達に感謝をしつつ、矢に炎の力を宿した。

 やじりが燃えた矢は、頃合いを見計らった鼠妖精ラ・フェアリの騎士の指示で放たれる。


 風のように空間を切り裂きながら放たれる炎を纏いし矢。


 見事、二個の目を貫通させ、蜘蛛の体に炎が燃え移った。


『ヤンさん、燃えている部分は攻撃が効くはずです。体内に石があれば、ヒビを入れるだけでいいので、破壊してください』

『了解!』


 先ほどの攻撃の効かなさが嘘のように、ヤンはどんどんと蜘蛛の体を斬り裂いていく。

 ホラーツの岩人形も、周囲に落ちていた石を投げて応戦している。

 私は鼠妖精ラ・フェアリの騎士達の矢に、炎を宿し続けた。


 無数の矢を放ち、ヤンが剣で斬り裂き、傷をるように岩人形が石つぶてを飛ばす。

 集中攻撃を受けていた蜘蛛の動きがだんだんと遅くなる。

 よろけた隙を見て、ヤンが背に上った。

 石があると思われる場所に剣を大きく振り上げ、一気に刺す。


 すると、体がびくりと震え、地に伏した。


 どうやら息絶えたらしい。

 蜘蛛の背に立ったままのヤンが驚きの声を上げる。


『うわ、これ、凄え』


 いったい何が凄いのだろうか。

 手招いていたので、蜘蛛の骸に近づく。


 ヤンは蜘蛛の体を刃で裂いていった。

 紫色の液体が溢ているのを見れば、口元を覆ってこみ上げてくるものを我慢することになる。


 蜘蛛の体内から出てきたのは、大きな鉱石だった。

 ホラーツも驚いたように目を見開いている。


『ちょっと、灯りを消してみますね』

「?」


 どうしてかと首を傾げたが、暗くなった瞬間にその意味を知ることになった。


 黒い鉱石は、闇に包まれたのと同時に、淡く光だす。

 それは星明りのような優しいものだった。


「これは――」

星灯石アステル・リトスです』


 経緯は謎だが、なんらかの偶然や奇跡が重なって蜘蛛の体内で作り出された物だとか。


 なんでも、最高値で取引される鉱石で、なかなか手に入る品ではないらしい。

 大昔の貴人は星灯石アステル・リトスを角灯に入れ、幻想的な光の中、夜を過ごしていたとか。


『魔力も豊富に含まれていますし、素晴らしい魔石が作れるでしょう』


 良質の鉱石を前に、ホッと安堵をしていた。

 ただ、問題が一つある。


「これ、どうやって持ち帰ろうか」


 星灯石アステル・リトスはヤンの身長より少しだけ小さいくらいだった。あまりにも大きすぎたので、持ち運ぶことができない。


『……どれどれ。よっ、と』


 ヤンが押せば、僅かに動く。


『こうやって、押しながら、帰ろう』

「いや、でも……」


 ここまでの道のりは相当長い。押して帰るのはそうとうキツイだろう。


『まあ、もう二、三人居たら楽なんだけどね~』


 一度、地上に呼びに行くかとヤンが呟いているのを聞いて、ふと思い出す。


「あ、もしかしたら、協力できる、かも?」

『エルフリーデちゃんが?』

「いや、私というよりは――」


 実際に見てもらった方が早いかなと思った。


「実は先日、妖精を召喚しまして」

『そのように、おっしゃっていましたね』


 まだ、ホラーツにも紹介していなかった。

 ここで、初お披露目となる。


「花の妖精さんなんだけど」

『え、大丈夫なの? 鉱石の運搬とか、無理なんじゃない?』

「まあ、本人達に可能か聞いてみないと分からないんだけどね」


 一応、無理だった時のことを考えて、言っておく。


「じゃあ、召喚してみるね」


 契約の指輪に触れ、名前を呼んだ。


「――ローゼ、リリー」


 きらりと指輪が光り、地面より魔法陣が浮かび上がる。

 そこから、大輪薔薇と百合の蕾が出現し、ふわりと魔法陣から風が吹けば、そっと花が綻んでいく。


 その中から現れたのは、屈強な二つの影。

 逞しい筋肉を持つ、二人のおじさん――ではなくて、筋肉妖精マッスル・フェアリだった。


『うわ、なんだありゃ!』

『ほう、これは――』


 驚くのも無理はない。彼女達は妖精らしからぬ姿をしているのだから。


 ローゼとリリーは胸の前で腕を組み、にこりと微笑んでいた。

 私も二度目だけれど、慣れない見た目であった。

 彼女らは、野太い声で問いかけてくる。


『ご主人様、何か御用でしょうか?』

『なんなりと、お申し付けくださいませ』

「え~っと、お願いはね、そこの鉱石を地上まで運びたいんだけれど」

『お安い御用ですわ』

『お任せください』

「あ、ありがとう」


 きっと、魔法の力で運んでくれるんだ。

 そう思っていたが、推測は一瞬で崩れ去ることになった。


 星灯石アステル・リトスの左右に立ったローゼとリリーは、しゃがみ込んで石の底を掴む。


『行きますわよ』

『ええ、いつでも』


 『せ~の』のかけ声で、星灯石アステル・リトスの大きな塊はたやすく持ち上げられた。


『ご主人様、地上までご案内を』

『よろしくお願いいたします』

「……うん、わかった」


 どうやら二人で抱えて運んでくれるらしい。


 ヤンとホラーツはその姿を見て、呆然としていた。

 私も、同じような目で、軽々と大きな石を運ぶ彼女達の後姿を眺めてしまう。


 こうして、私達は魔石の素となる鉱物を手に入れることに成功した。

▼notice▼


エルフリーデは星灯石アステル・リトスの塊を手に入れた!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ