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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第一章【雪に埋もれた村と、大精霊に勘違いされた少女】
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第十四話 空中飛行――美しき風景

※虫がでます(以降、前書きに予告なく虫がでます)

 竜人ドラークのヤンが来てくれたので、さっそく鉱山のある隣街まで移動する。

 領主城の広い庭には、巨大な翼竜が丸くなっていた。

 首が長く、目がまん丸で顔は案外可愛らしい。鉄色の鱗が陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

 背には鞍が装着してある。その隣には、馬車の客席のような物があった。

 どうやらヤンが竜に跨り、私達は吊るされた車内に乗り込む模様。

 剥きだしの身で空に舞い上がるのではないと知り、心底ホッとする。


 翼竜は大変大人しかった。私達が近付いても、ぴくりとも動かない。


『俺の竜、カッコイイだろう? 一番力持ちな奴なんだ』

「うん。凄く素敵だね」

『エルフリーデちゃんも、そう思ってくれる?』

「もちろん」

『良かった!』


 以前、貴族のお嬢様に翼竜を見せたら悲鳴をあげられ、失神をされてしまったらしい。

 私も村娘時代だったら同じような反応をしていたことだろう。

 魔導教会に引き取られてから、竜の伝承や生態など、何度も習うことがあった。魔法使いにとって竜は最高の使い魔であり、最高の友人であるという教えがあったのだ。

 なので、実際に見ても恐怖を覚えることはないし、姿に圧倒はされたが優しい目をしていたので危険な存在ではないと一目でわかった。


『そっか、エルフリーデちゃんは、竜が怖くない、か~~。いやあ、ますます結婚したいなと』


 結婚、ね。

 ヤン、良い人っぽいし、ここを出て行くように言われたら考えようかな。

 そんな考えが、頭の中をよぎる。

 チラチラとこちらの反応を窺うヤンであったが、この場では言わないでおいた。


 アルフレートから「余計な話をしていないで、早く行け」と言われたので、出発準備に移る。

 ヤンは客席の扉を開き、手を差し伸べてくれた。なんという素敵紳士! ありがたくお手を拝借する。同行してくれるホラーツには乗り込む際に腰を支え、チュチュや騎士団の皆は竜人ドラークの大きさに合わせて作られた段梯子に届かないので、抱き上げて乗せていた。

 

 ヤン、本当に良い奴だな。一挙一動を見ながら思う。


 全員乗り込めば、そっと出入り扉が閉められた。

 窓からアルフレートが見えたので手を振る。もちろん、振り返してくれるわけがなかったが。腕を組み、険しい顔でこちらを見ていた。


 外からヤンの声が聞こえた。もう出発するらしい。

 座席にはベルトのような物があり、体を固定するようになっていた。

 ホラーツは問題ないみたいだけれど、チュチュや騎士達には大きくて、上手く固定されているように見えないけれど、大丈夫かな?

 そんな心配をよそに、ガタリと客席全体が揺れだす。


「お、おお」

『ちゅ!?』


 隣に座るチュチュの体がベルトを抜け、垂直に飛び上がる。危ないと思い、慌てて小さな肩を押さえた。


『あ、ありがとうございまちゅ、炎の御方様』

「気にしないで。でも、危ないね」

『次は踏ん張って――ちゅ!?』


 今度は先ほどよりも大きく左右に揺れる。

 騎士団の三名は必死に席から体が浮かないよう、ベルトを掴んでいた。

 二回、三回と続く揺れ。

 チュチュが座席から転がり落ちそうになったので、咄嗟に抱き抱える。


『もも、申し訳ありません~~』

「いいよ、大丈夫。やっぱり危ないからさ、このまま膝を貸してあげるよ」

『あ、ありがとうございます』


 チュチュを膝に乗せ、ぎゅっと抱きしめる。


 ――うん。これは、危ないからやっているだけで、邪な気持ちはまったくないし、問題もない。


 もこもこの毛は、服の上からでもよくわかる。

 湧き上がるもふ欲はぐっと抑え込んでいた。

 ガタリと揺れるたびに、細い肩を震わせている。可哀想に。

 大丈夫だよと言わない代わりに、ぎゅっと抱きしめた。


 ぐんぐんと上昇していっているのがわかった。だんだんと私も辛くなる。

 気圧が変化しているのが原因か、耳が詰まった感じがする。けれど、空の上に辿り着き、揺れも治まれば気にならなくなった。

 それよりも、窓の外に広がる美しい青に目を奪われていたのだ。

 鼠妖精ラ・フェアリの村の空は常に曇天だった。

 ふと気付けば、魔導教会に引き取られてから外に出ることは許されていなかったので、青空を見るのはかなり久々だったことに気付く。


「チュチュ、綺麗な空だね」

『ええ、本当に……』


 鼠妖精ラ・フェアリの村も、春から秋にかけて、澄んだ青空が美しかったと呟くチュチュ。


鼠妖精ラ・フェアリの村の青い空が見る日を楽しみにしているよ」

『はい、わたくしも』


 そんな会話をしているうちに、着陸態勢に入って行った。

 またしても、体を左右に前後に揺さぶられ、なんとも言えない気分になる。

 騎士団の面々は、苦痛を表に出すことなく本当によく耐えていた。

 一方で、ぐったりしているチュチュの背中をさすりつつ着地に備え、なんとか空の移動を終えることになった。


 ◇◇◇


 一面に広がるのは若葉の森。

 春の景色がそこにはあった。


 鼠妖精ラ・フェアリの村がある方向を見れば、そこだけ白い世界となっている。

 雪精霊の力でそうなっているのが分かる光景であった。


 竜人ドラークの街は深い森の中にある。

 薄暗く、湿気の多い場所を好むので、半地下住居を構えていた。

 基本的に夜行性らしく、街を歩く竜人ドラークはいない。


「夜行性って、ごめんね、知らなかった」

『大丈夫。俺、昼間の方が好きだから!』

「そっか。だったらよかった」


 昼間に好んで外にでる竜人ドラークはほぼいないらしい。ご両親からは呆れられているとか。


『でも、俺が昼間の配達の担当をするおかげで、配達地域も広まったんだよね』


 周囲には昼行性の鼠妖精ラ・フェアリ泉魚人ピギ・ピスキス雪兔族シュネ・レプスなどが棲んでおり、注文が激増したとか。


『そんなわけで、今の時間帯はみんな寝ているから家には案内できないけれど、翼竜便の休憩所でお茶でも飲んで一息入れてから鉱山に行こう』

「わかった。ありがとう」


 街の中を案内してもらいながら進む。

 ひときわ大きくそびえたつ木々は、商店街となっていた。

 木にできた空洞――樹洞の中には商品が並べられ、夜は賑わっているらしい。

 今は樹洞に布が覆われ、閉店状態になっている。


「お店、見たかったなあ」

『夜、案内するよ。疲れていたら、泊まっていってもいいし』

「でも、帰りが遅くなるとアルフレートが心配するから」

『なんかアル殿下、エルフリーデちゃんのお父さんみたいだね』


 その発言を聞いて思わず笑ってしまったけれど、確かに保護者感はあるなと思った。


 翼竜便の本部は街の外れに位置していた。

 建物は四階建て。周囲には翼竜の寝床となる木々を重ねた巣のような物がいくつもあった。

 受付では、眠そうな顔をした竜人ドラークが迎えてくれた。

 欠伸を噛み殺すように、挨拶をしてくれる。

 接客慣れをしているからか、異種族である私や鼠妖精ラ・フェアリの面々にも普通に接してくれた。


 ギシギシと音が鳴る木製の廊下を進み、客間へと案内される。

 室内は実にシンプルだった。

 机と長椅子があり、床には何かの動物の毛皮を剥いで作った絨毯が敷いてある。

 調度品はない。だけれど、木の温もりが感じられる、落ち着いた雰囲気であった。

 長椅子を勧められたが、騎士団の一行は遠慮をして壁に一列に並んでいた。勤務時間なので、休むわけにはいかないらしい。

 チュチュはヤンと共にお茶を淹れに行ってくれた。

 私とホラーツはお言葉に甘え、腰を下ろさせていただく。


 しばらくすれば、ヤンが戻って来た。

 その隣で、何故かシュンとするチュチュの姿が。いったいどうしたものか。


『はい、エルフリーデちゃん』


 笑顔で木のカップを差し出してくれるヤン。竜人ドラーク用なので、かなり大きい。

 受け取って、なんのお茶かと覗き込む。

 色は薄紅色で、甘い香りが漂っていた。

 初めて見る色合いだし、嗅いだこともない匂いなので、ヤンに聞いてみる。


「これは?」

蟻茶テ・アーマルゼ!』

「ん?」

『この辺に生息する大きなアリを乾燥させて作ったお茶なんだ』

「へえ、蟻……」


 いきなり出現してきた異文化の壁。

 まさか、蟻でお茶を作るなんて。

 チュチュが切なそうにしていたのは、このお茶が原因なのかもしれない。


『お茶請けは紅蜥蜴レザールの干物』

「わあ、ありがとう」


 どんと置かれたのは、カラカラに乾燥された赤い蜥蜴。

 異文化の壁がさらに高くなった。

 けれど、遠慮なんて失礼なことはできない。

 先にホラーツが口を付ける。

 飲んだあと、目を細めていた。美味しいのか不味いのか、いまいちわからない。


 なけなしの勇気を出し、蟻茶テ・アーマルゼを啜る。


 ……うん。苦くて、粘り気があって、ピリッとした後味で、なんとも言えない。


 ヤンが『どう?』と聞いてくる。

 失礼にならないような感想を、なんとかひねり出した。


「こ、個性的な味だね」

『ああ、今年は良い仕上がりだと評判なんだ』


 次に、紅蜥蜴レザールの干物を手に取った。

 表面はガサガサ。匂いを嗅ぐ勇気はない。

 視界の端に映ったチュチュが、不安そうな顔でこちらを見ていた。

 大丈夫、私が犠牲になるからと、視線を送った。


 腹を括って、紅蜥蜴レザールを頭から齧る。


「――あ、美味しい」

『だろう?』


 意外にも、美味しかった。味は干し肉に似ている。


『夜になれば、美味いお店もたくさん開くから』


 ヤンは街で人気だという料理名を挙げていく。そのほとんどが虫メイン。

 なんとか笑顔を作り、時間があったら案内をするようお願いをしておく。


 求婚されて物凄く嬉しかったけれど、竜人ドラーク族への嫁入りは大きな決心が必要だなと思った。


 なんていうか、異文化の壁、すごく高い。


▼notice▼


竜人ドラークの街の名物一覧

虫の餡が詰まった饅頭に、虫の串焼き、虫の飴絡め、虫ジャム、虫のパン等

意外と美味しい物もあるが、見た目がいろいろと辛い。

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